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とある夜の街に住む少年の話
Q7. ボクは冬が嫌い
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虐待描写があります。ご注意下さい。
冬が一番嫌い。
夏は暑さと虫が集るのさえ耐えれば、何とかなる。
でも、冬はダメ。本当にダメなんだ……。
おかあさんとおとうさんと一緒に住んでいたあの家は、すぐ後ろに山があるせいか、冬になるとすごく寒かった。
雪は降らないからまだマシだったかもしれない。でも、寒くて、寒くて……凍えて……。
それなのに……。
「ほら、これであったかいだろぉ~?」
おとうさんは酔っ払うと酷いことをしてくる。
楽しそうに笑いながら、庭に正座させたボクに熱いお湯をかけてくる。熱くて痛がるボクを、身をかがめて耐えるしかないボクを、ずっと、ずっと笑ってた。
「……っ! ……ぅ! ……!!」
「おい! お礼は? 感謝も出来ないのか!」
空になった熱いヤカンが投げつけられる。自分の体から嫌な音がしてあまりの痛みにボクが呻くと、今度は酒瓶を投げてきた。
割れたガラスで身体中にいっぱい傷が出来る。滴る血で目の前が真っ赤になる。
あったかい部屋の中からそんなボクをタバコをくわえたおかあさんがうんざりした顔で見ていた。
「ねぇ、ちょっと死んだらどうすんのよ。何の為に堕ろさなかったか覚えてないの? パパからお金貰えなくなるじゃない」
「あぁ? お前だってたまに似たようなことしてるじゃねえか」
「それとこれとは違うの!
とにかく容赦してよ。ちゃんと育てるって条件で慰謝料も払わなくて済んでるんだからさ」
「はぁぁ、ちゃんとね……ちゃんと……ふーん。まぁ、部屋は与えてるし、飯もやってるし、学校には行かせてねぇけど、育ててるわな……。
はぁあ、つーか、こんな子ども、育てる予定無かったのに。マジで迷惑なんだよ、クソ……イライラしてきた」
刺すような寒さに、濡れた身体に刺さる破片の痛み、ボクはただただ蹲って堪えていた。
そんなボクをおとうさんは踏みつけた。何度も、何度も……。
「クソッ、クソッ、むしゃくしゃする!
お前さえいなかったら、俺は今頃社長令嬢と結婚して専務になってたんだぞ!
俺の将来はパァになって、おかげで無職だ! 」
それをおかあさんは笑って見てた。
「うわぁ、痛そー。
ブッサイクな顔にしちゃっていいけど、本当殺さないでよ?」
「殺さねぇよ。しかし、お前、自分が産んだ子にひでぇな」
「愛とかないもん。大嫌いなあんたの子だし。
……あーあ、なんか興醒めした。寒いしもう寝る。明日も仕事だし」
「ハッ、仕事ねぇ……おっさんと寝るだけのお仕事が随分忙しいようで」
「はぁ?こんな職業に就くしかなかったの、あんたのせいでもあるんだからね!
この私が風俗なんて……! 私だってゴミクズがいなければ、今頃、港区に住んでたわよ」
「港区? 自分を過大評価しすぎじゃねえの? お前なんて顔だけなのに」
「なによ! 親のコネしか取り柄がないあんたに言われたくないわ!」
おかあさんとおとうさんはずっと喧嘩してる。
ボクのことなんか眼中にもない。踏まれている内に意識が遠くになっていく。
寒い……冷たい……体が痛い。
夏の時はこのままで意識を失っても、本当に意識を失うだけだから、何も問題ない。でも、冬は……意識を失った瞬間、この凍った地面の上で、どうなるか分からない……。
(耐えなきゃ……怖いことになるから……耐えないと……)
冬は、嫌い。本当に、嫌い。
寒くて、冷たくて、凍えて、苦しくて、痛くて、辛くて……。
「…………ボクを、だれか……」
でも、希望なんてない。
「おい? うるせぇぞ! 口を開けるんじゃねぇ!ゴミクズが!」
おとうさんがボロボロのボクを掴みあげる。
そのまま冷たい水に僕の頭を叩きつけた。
痛い。
息ができない。
苦しい……。
意識が遠くなる。
「……たすけて……」
でも、これだけ耐えても。
誰か、ボクの気持ちを分かってくれることも、助けてくれることもない。ボクはいつも独りで……ボクはずっと要らない子で……本当は耐える意味なんてない。
そもそも生きる意味なんて……。
ボクには……。
……その瞬間。
ボクを誰かが抱きしめた。
気がつくと、とっても温かった。
気持ち良くて、ホッとする……。
それはそうか……ボクは温かいお風呂に入っているんだもの。温かいのは当然だ……。
……ん? でも、何だかお風呂っぽくない。ふわふわしているけど、水の中じゃない。
そう気づくと、身体が何かに包まれている気がする。
温かくて、程よく重くて……かすかに、とく、とく、って、すごく安心する音がする。まるで心臓の音みたいな……。
心臓の音……?
ハッとなって、目をそっと開ける。
目を開けた瞬間、ボクは驚いた。
薄暗い見慣れない部屋……ベッドと机とクローゼットしかないようなシンプルな部屋……ここは浴室じゃなくて、どう見ても寝室だ。
そして、ベッドに眠るボクの前にそうまさんが毛布を被るボクの胸に手を置いたまま、添い寝するように眠っていた。
……あったかいはずだ。こんなに傍に人がいるんだから。遠くから聞こえた心臓の音は、そうまさんのだったみたい。
もしかして、湯船の中で寝ていたボクを、そうまさんが引き揚げて、ベッドに入れてくれたのかも。迷惑かけちゃった。そうまさんが起きたら、感謝しなくちゃ……。
それにしても、心地いい。
冬の夢を……本当に寒くて仕方がなくて辛かった頃の夢をさっきまで見ていたからか、とても温かくてすごく安心する……ここにはもうボクを傷つける人はいないって実感できる。
だけど。
(もう少しだけ、我儘になっちゃダメかな……)
一瞬だけだから、優しい人だから、今なら寝ているから、きっと今だけ許してくれる……そんな言い訳を重ねて、添い寝しているそうまさんを起こさないようにそっと近づく。
音を立てないよう静かに……その腕の中に潜り込んでその胸の中に入った。
(起きてない……?)
確認してみるけど起きた感じはない。それにホッとして、そうまさんを起こさないようそっとそうっとボクは、その胸に自分の額を当てた。
(これで、まるで抱きしめられているみたいになる……凄くあったかいなぁ……)
さっきの夢のせいか。無性に寂しくて、そうまさんには悪いけど、毛布越しの温もりより、服一枚越しの人の温もりに触れたくなってしまった。
そうまさんの胸は、男の人らしい筋肉質で固くて柔らかいとこなんてない胸だ。でも、そこがいい。すごく安心感があるから。
そんなそうまさんにくっつくと、ボクの匂いじゃない、そうまさんの匂いがする。
温もったその香りはそうまさんらしい爽やかだけど苦味もある香り……とっても良い匂いだ。
この安心する圧迫感も、このホッとする匂いも、こうしないと味わえない。
でも、そうまさんからしたら、きっと迷惑だろう。ボクは直ぐに潜り込んだ時と同じようにそっと離れようと思った。
思ったのだけど……。
「……目が覚めたか?」
頭上から聞こえたその寝起きらしい気怠そうな低い声に、ピシリと、ボクの体は石みたいに固まった。
……起こした? このタイミングで? どうしよう……!
ボクの頭は真っ白になった。
反射的にそうまさんから離れて、起き上がろうとした……けれど、静かに引き止められ、ボクはそのままベッドに戻された。
……しかも、当然のようにそうまさんの腕の中だ。
「……っ」
「まだ、朝じゃない……寝ていい……」
「で、でも……ボク、迷惑じゃ……」
「迷惑なら。まずこんなこと、してないだろ」
びっくりして何も言えなくなるボクをそうまさんは抱きしめる。ボクを抱え込むように腕枕までしてくれた。
今まで色んな人と寝たことがあるけど、腕枕は初めてだ。ボクはただただびっくりして目を点にするしかなかった。直ぐ傍に触れる距離に、人肌がある……それが凄くドキドキした。
「甘えていいの?」
ついそう聞いてしまう。
ボクを引き止めてくれて、腕枕までしてくれて、どう見たってボクを迷惑とか思ってなくて……だから、聞いた。
そうしたら、ボクの頭の上から聞こえたのはたった一言。
「別に、構わない」
その一言だけで全部許された気になって、ボクは恐る恐るそうまさんに、そうまさんの背中に手を回して、固い胸に顔を埋めた。
そうしても、そうまさんは何も言わなかった。
(ほ、本当に甘えていいんだ……)
嬉しくて、つい頬擦りする。
今までボクから甘えたくても全然出来なかった。おじさん達はボクがヘトヘトになって気を失うまでボクの身体をいっぱい使うから……その上、おじさん達は自分が満足してしまうとさっさと帰る人が多くて、気がついたらお金だけしか残っていないというのがザラだった。
だから、嬉しい。凄く嬉しい。
つい、ぎゅっと抱きしめてしまう。
まるで夢みたいだ。
他の子が、おとうさんやおかあさんに甘えるの見てて、ずっと羨ましかったんだ。
ボクにはそんなこと出来る人がいなかったから……。
でも、そっか、この人にはきっと、していいんだ。
「ありがとう……」
「……あぁ」
ボクがお礼を言うと、そうまさんはボクの頭を撫でた。
温かい。体じゃなくて心が。
胸がドキドキする。嬉しい気持ちで興奮してる。
ボク、ずっとこんな日を待ってたんだ……。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
そう言い合って、そうまさんの腕の中でボクは眠る。
嬉しい気持ちで、胸がいっぱいで、夢中だった。
他のことなんて見えてなかった。
だから、気が付かなかった。
ボクを抱きしめるその人が……実は最初からずっと起きていたことも……。
……ボクがこの日の夜、眠っている途中で起きたのは、実は2回目なことも……。
忘れられないはずの何かを一つ忘れたことにも……。
全然、気づかなかった。
冬が一番嫌い。
夏は暑さと虫が集るのさえ耐えれば、何とかなる。
でも、冬はダメ。本当にダメなんだ……。
おかあさんとおとうさんと一緒に住んでいたあの家は、すぐ後ろに山があるせいか、冬になるとすごく寒かった。
雪は降らないからまだマシだったかもしれない。でも、寒くて、寒くて……凍えて……。
それなのに……。
「ほら、これであったかいだろぉ~?」
おとうさんは酔っ払うと酷いことをしてくる。
楽しそうに笑いながら、庭に正座させたボクに熱いお湯をかけてくる。熱くて痛がるボクを、身をかがめて耐えるしかないボクを、ずっと、ずっと笑ってた。
「……っ! ……ぅ! ……!!」
「おい! お礼は? 感謝も出来ないのか!」
空になった熱いヤカンが投げつけられる。自分の体から嫌な音がしてあまりの痛みにボクが呻くと、今度は酒瓶を投げてきた。
割れたガラスで身体中にいっぱい傷が出来る。滴る血で目の前が真っ赤になる。
あったかい部屋の中からそんなボクをタバコをくわえたおかあさんがうんざりした顔で見ていた。
「ねぇ、ちょっと死んだらどうすんのよ。何の為に堕ろさなかったか覚えてないの? パパからお金貰えなくなるじゃない」
「あぁ? お前だってたまに似たようなことしてるじゃねえか」
「それとこれとは違うの!
とにかく容赦してよ。ちゃんと育てるって条件で慰謝料も払わなくて済んでるんだからさ」
「はぁぁ、ちゃんとね……ちゃんと……ふーん。まぁ、部屋は与えてるし、飯もやってるし、学校には行かせてねぇけど、育ててるわな……。
はぁあ、つーか、こんな子ども、育てる予定無かったのに。マジで迷惑なんだよ、クソ……イライラしてきた」
刺すような寒さに、濡れた身体に刺さる破片の痛み、ボクはただただ蹲って堪えていた。
そんなボクをおとうさんは踏みつけた。何度も、何度も……。
「クソッ、クソッ、むしゃくしゃする!
お前さえいなかったら、俺は今頃社長令嬢と結婚して専務になってたんだぞ!
俺の将来はパァになって、おかげで無職だ! 」
それをおかあさんは笑って見てた。
「うわぁ、痛そー。
ブッサイクな顔にしちゃっていいけど、本当殺さないでよ?」
「殺さねぇよ。しかし、お前、自分が産んだ子にひでぇな」
「愛とかないもん。大嫌いなあんたの子だし。
……あーあ、なんか興醒めした。寒いしもう寝る。明日も仕事だし」
「ハッ、仕事ねぇ……おっさんと寝るだけのお仕事が随分忙しいようで」
「はぁ?こんな職業に就くしかなかったの、あんたのせいでもあるんだからね!
この私が風俗なんて……! 私だってゴミクズがいなければ、今頃、港区に住んでたわよ」
「港区? 自分を過大評価しすぎじゃねえの? お前なんて顔だけなのに」
「なによ! 親のコネしか取り柄がないあんたに言われたくないわ!」
おかあさんとおとうさんはずっと喧嘩してる。
ボクのことなんか眼中にもない。踏まれている内に意識が遠くになっていく。
寒い……冷たい……体が痛い。
夏の時はこのままで意識を失っても、本当に意識を失うだけだから、何も問題ない。でも、冬は……意識を失った瞬間、この凍った地面の上で、どうなるか分からない……。
(耐えなきゃ……怖いことになるから……耐えないと……)
冬は、嫌い。本当に、嫌い。
寒くて、冷たくて、凍えて、苦しくて、痛くて、辛くて……。
「…………ボクを、だれか……」
でも、希望なんてない。
「おい? うるせぇぞ! 口を開けるんじゃねぇ!ゴミクズが!」
おとうさんがボロボロのボクを掴みあげる。
そのまま冷たい水に僕の頭を叩きつけた。
痛い。
息ができない。
苦しい……。
意識が遠くなる。
「……たすけて……」
でも、これだけ耐えても。
誰か、ボクの気持ちを分かってくれることも、助けてくれることもない。ボクはいつも独りで……ボクはずっと要らない子で……本当は耐える意味なんてない。
そもそも生きる意味なんて……。
ボクには……。
……その瞬間。
ボクを誰かが抱きしめた。
気がつくと、とっても温かった。
気持ち良くて、ホッとする……。
それはそうか……ボクは温かいお風呂に入っているんだもの。温かいのは当然だ……。
……ん? でも、何だかお風呂っぽくない。ふわふわしているけど、水の中じゃない。
そう気づくと、身体が何かに包まれている気がする。
温かくて、程よく重くて……かすかに、とく、とく、って、すごく安心する音がする。まるで心臓の音みたいな……。
心臓の音……?
ハッとなって、目をそっと開ける。
目を開けた瞬間、ボクは驚いた。
薄暗い見慣れない部屋……ベッドと机とクローゼットしかないようなシンプルな部屋……ここは浴室じゃなくて、どう見ても寝室だ。
そして、ベッドに眠るボクの前にそうまさんが毛布を被るボクの胸に手を置いたまま、添い寝するように眠っていた。
……あったかいはずだ。こんなに傍に人がいるんだから。遠くから聞こえた心臓の音は、そうまさんのだったみたい。
もしかして、湯船の中で寝ていたボクを、そうまさんが引き揚げて、ベッドに入れてくれたのかも。迷惑かけちゃった。そうまさんが起きたら、感謝しなくちゃ……。
それにしても、心地いい。
冬の夢を……本当に寒くて仕方がなくて辛かった頃の夢をさっきまで見ていたからか、とても温かくてすごく安心する……ここにはもうボクを傷つける人はいないって実感できる。
だけど。
(もう少しだけ、我儘になっちゃダメかな……)
一瞬だけだから、優しい人だから、今なら寝ているから、きっと今だけ許してくれる……そんな言い訳を重ねて、添い寝しているそうまさんを起こさないようにそっと近づく。
音を立てないよう静かに……その腕の中に潜り込んでその胸の中に入った。
(起きてない……?)
確認してみるけど起きた感じはない。それにホッとして、そうまさんを起こさないようそっとそうっとボクは、その胸に自分の額を当てた。
(これで、まるで抱きしめられているみたいになる……凄くあったかいなぁ……)
さっきの夢のせいか。無性に寂しくて、そうまさんには悪いけど、毛布越しの温もりより、服一枚越しの人の温もりに触れたくなってしまった。
そうまさんの胸は、男の人らしい筋肉質で固くて柔らかいとこなんてない胸だ。でも、そこがいい。すごく安心感があるから。
そんなそうまさんにくっつくと、ボクの匂いじゃない、そうまさんの匂いがする。
温もったその香りはそうまさんらしい爽やかだけど苦味もある香り……とっても良い匂いだ。
この安心する圧迫感も、このホッとする匂いも、こうしないと味わえない。
でも、そうまさんからしたら、きっと迷惑だろう。ボクは直ぐに潜り込んだ時と同じようにそっと離れようと思った。
思ったのだけど……。
「……目が覚めたか?」
頭上から聞こえたその寝起きらしい気怠そうな低い声に、ピシリと、ボクの体は石みたいに固まった。
……起こした? このタイミングで? どうしよう……!
ボクの頭は真っ白になった。
反射的にそうまさんから離れて、起き上がろうとした……けれど、静かに引き止められ、ボクはそのままベッドに戻された。
……しかも、当然のようにそうまさんの腕の中だ。
「……っ」
「まだ、朝じゃない……寝ていい……」
「で、でも……ボク、迷惑じゃ……」
「迷惑なら。まずこんなこと、してないだろ」
びっくりして何も言えなくなるボクをそうまさんは抱きしめる。ボクを抱え込むように腕枕までしてくれた。
今まで色んな人と寝たことがあるけど、腕枕は初めてだ。ボクはただただびっくりして目を点にするしかなかった。直ぐ傍に触れる距離に、人肌がある……それが凄くドキドキした。
「甘えていいの?」
ついそう聞いてしまう。
ボクを引き止めてくれて、腕枕までしてくれて、どう見たってボクを迷惑とか思ってなくて……だから、聞いた。
そうしたら、ボクの頭の上から聞こえたのはたった一言。
「別に、構わない」
その一言だけで全部許された気になって、ボクは恐る恐るそうまさんに、そうまさんの背中に手を回して、固い胸に顔を埋めた。
そうしても、そうまさんは何も言わなかった。
(ほ、本当に甘えていいんだ……)
嬉しくて、つい頬擦りする。
今までボクから甘えたくても全然出来なかった。おじさん達はボクがヘトヘトになって気を失うまでボクの身体をいっぱい使うから……その上、おじさん達は自分が満足してしまうとさっさと帰る人が多くて、気がついたらお金だけしか残っていないというのがザラだった。
だから、嬉しい。凄く嬉しい。
つい、ぎゅっと抱きしめてしまう。
まるで夢みたいだ。
他の子が、おとうさんやおかあさんに甘えるの見てて、ずっと羨ましかったんだ。
ボクにはそんなこと出来る人がいなかったから……。
でも、そっか、この人にはきっと、していいんだ。
「ありがとう……」
「……あぁ」
ボクがお礼を言うと、そうまさんはボクの頭を撫でた。
温かい。体じゃなくて心が。
胸がドキドキする。嬉しい気持ちで興奮してる。
ボク、ずっとこんな日を待ってたんだ……。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
そう言い合って、そうまさんの腕の中でボクは眠る。
嬉しい気持ちで、胸がいっぱいで、夢中だった。
他のことなんて見えてなかった。
だから、気が付かなかった。
ボクを抱きしめるその人が……実は最初からずっと起きていたことも……。
……ボクがこの日の夜、眠っている途中で起きたのは、実は2回目なことも……。
忘れられないはずの何かを一つ忘れたことにも……。
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