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イレギュラーの悪意

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(どうして、どうして私ばかり! なんでなの? みんないなくなった。大切な人も、親友も、唯一生き残っていたママも・・・。私はひとりぼっち)
 漆黒のローブを纏った少女は一つの世界に降り立っていた
 そこは自然豊かな世界で、動植物のみが暮らす楽園
 知識生命体は遥か昔にこの世界を旅立っており、ただ動物たちだけが暮らしていた
 少女の目は虚ろで、まるで何も移していない曇ったガラス玉のようだ
 スッと手をあげる少女
 その手に何らかの力が集まって行った
 悪意の塊、恐らくそう言った力がその手に集約して一発の弾丸のようにして放たれた
 一瞬で終わる世界
 
 ・・・

 音すら消えた世界で少女は一筋の涙を流した
 そしてその無の世界から去った

 暗闇の中で少女は葛藤していた
 操られることで犯す罪、自分を止められない不甲斐なさで頭がいっぱいになっていたが、それ以上に悪意が頭を埋め尽くしていく
 彼女の過去は壮絶だった
 母は全ての世界を作った異放者、父は人間
 その父は目の前で殺され、そこから世界を創り出した母の力が目覚めたため、ありとあらゆる力ある者たちの手によって封印されていた
 その年数およそ数億年
 気の遠くなるような封印のさなかにようやく友と呼べる者たちができた
 しかし彼女らも大きな戦争が起きたため少女に会えなくなった
 そしてそれからさらに数千年が経った頃だった
 少女の封印が突如として解け、自由となった
 誰を恨むこともしなかったが、心の奥底では小さな悪意が芽吹いていたのだろう
 ウルのリーダーであるアウルの悪意によって心を埋め尽くされ操り人形となってしまった
 世界を簡単に滅ぼすことができる力を持った少女
 世界のイレギュラーだった彼女はいまや悪意そのものとなって世界を襲っていた

「いいよいいよ、最高だな君は。僕の思った通りだ。抵抗もできない心地いい悪意に身をゆだねてくれたね。そのまま眠っていなよ。もう目覚めることはない悲しい夢の中に沈み込むといい」
 アウルは世界を滅ぼした少女の涙を優しく拭う
 まるで恋人のように
「さて母さん、この子のことは任せるよ」
 何もないところに向かって声をかけると、そこから空間を裂いて何者かが現れた
 その女性はコクリとうなづくとイレギュラーを連れて消える
「フフフ、ハハハハハ、もう世界の半分以上が消えた。人々の悲鳴がいつまでも心に残るよ。母さんと父さんがくれた心、なんて素晴らしいんだ」
 アウルは胸をそっと抑え人々の悲鳴と悲しみ、負の感情をしっかりとかみしめる
 黙祷のように目を閉じるとふうと息を吐きだし目をゆっくりと開けた
「さて、次はあの世界にしよう、そうしよう。フフフ、楽しみだなあ。あの子の悲しむ顔はすごく気持ちよくなれそうだ」
 指をスッと縦に引くと空間が裂ける
 その隙間に入るとアウルは世界から消えた

 イレギュラー
 メルカという名の少女は隣にいる女性と共に美しい景色の中を歩いていた
 どうやら紅葉の季節らしく、木々の葉は赤や黄色に染まっていた
 そんな情景を楽しむこともなく二人は虚ろな目をして歩く
 片や操られ悲しみの中
 片や心を壊され絶望の中
 二人の女性はアウルの思うがままだった
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