上 下
504 / 1,022

勇者の苦悩6

しおりを挟む
 レコの力を手に入れてから数日、いまだにこの力を扱いきれていなかった
 レコの力がどう言ったものなのかは少し発動すれば理解はできたが、その扱いが難しかった
 九つの力の塊を変質させる力
 まず能力を発動させると体に九つの金色に光る玉がまとわりついて浮遊し始める
 それら一つ一つは自在に変質させて操れるようで、動物の姿に変えたり武器に変えたりと多彩だ
 しかし一つ操るだけでもかなりの魔力を失い、二つ目を操ろうとすると魔力不足で卒倒した
 そのため常にキーラとリドリリがそばについてその都度フォローする
「くそ、魔力が、ゼェゼェ、全然足りやがらねぇ」
 肩で息をしつつ地面に転がって悔しがるアイシス
 キーラは濡れタオルを渡してリドリリは水をその横で飲ませる
「あまり根詰めては駄目ですよ。ほら、こちらにおやつを用意しましたのでみなで食べましょう」
 リドリリが用意した紅茶とお菓子、疲れた体には最高のエネルギーになるよう考えられている
 一時は魔王軍の戦闘隊長で最前線を駆けていたリドリリだが、本来の性格は女性らしく、趣味は料理とお菓子作りだった
 そのためか幼いころから作り続けてきたお菓子は鬼ヶ島の達人料理人ソウカと比べても全く引けを取らない
 むしろソウカと情報交換をしてお互いに高めあっているため、日々その腕前は上達していった
 最近判明したことだが、達人が作る料理にはその料理によってさまざまな効果が出る
 例えば体力や魔力を回復させたり、筋力を増強させたり、魔法の威力をあげたりと様々な効果をもたらす
 どうやらリドリリのお菓子にもその効果が表れてきているようで、多少だがアイシスの魔力を少しずつ回復させていた
 意図してやっているわけではないようだが、ちょうど今のアイシスには向いているお菓子だったのだ
「なんかリドリリのお菓子を食べるとスッと体が軽くなってくるんだよな。やっぱうまいもんってすごいよな」
 アイシスも分からないなりに感覚で理解しているようだ
 キーラの方はと言うと、夢中になって次から次へとお菓子を口に放り込み、口についた食べかすをリドリリに拭われていた
「さて、回復したことだし続きだな」
「もういいの?」
「ああ、なんだかこの力を手に入れてから回復も早くてな。すぐ元気になるぜ」
 心配するキーラだったが、どうやら本当に回復した様子のアイシスを見て、頑張ってとエールを送って再びアイシスの見守りに徹した
 
 それから約一か月の時間が経った
 少しずつだがアイシスは金色の光の玉を操れるようになっていて、それぞれの玉を変質、ゆっくりとだがそれぞれをバラバラに動かせるまでに力を馴染ませていた
 それに伴ってか魔力量も飛躍的に高まり、世界でも最高峰と言える魔力を手に入れている
 自分の成長を確認し、嬉しそうにキーラにこれまでの修行の成果を見せる
「すごいアイシス! 私も見習わなくちゃ!」
 これによりキーラもまた気合が入ったのか、リドリリとの戦闘訓練によりいっそう身が入るようになっていた
 全ての玉が操れるようになった夜、久しぶりに夢を見た
 信楽焼の狸のような置物がぽつんと置いてあり、それを不思議そうに眺めるアイシス
「何だこりゃ? 魔物の像かなんかか? それにしても・・・。なんて卑猥な像なんだよ」
 アイシスの視線は像の下半身に向けられており、それには独特なシンボルが刻まれていた
 顔を赤くし、手で目を覆うあたり乙女らしい行動を見せる
 そんな彼女の足をツンツンと何かがつついた
「ん? なんだ?」
 下に視線を移すとそこには前回のレコと同じく巫女服を着た狸耳の女の子がニコニコと笑っていた
「よっ!ですの」
「よ、よぉ」
「わしはポコですの。お主に力を与えるよう言われてますの」
 小さな手でアイシスの足をポンポンと叩きフフフと笑うポコ
 尻尾をフリフリと振っている様子が可愛らしいとアイシスはほんわかした
「さてアイシス、お主は見事レコの力をものにしたんですの。つまりはこれから先に進む権利を手に入れたんですの」
「これから先?」
「はいですの。レコの力は魔力を高めるために必要なことでしたの。今の魔力ならより受け取るのが難しい力を掴むことができますの!」
 どうやら魔力を高めなければ手に入れることすら難しい力もあるらしく、そのためレコの力をしっかりと身につけさせたかったようだ
 その結果、アイシスは更なる強化がなされた
「さて、お話はこれくらいにしてわしの力を受け取れですの」
 ポコは手を伸ばし、アイシスの手を掴んだ
「いきますの」
 ポコの体から金色に輝く狸がポンポコと飛び出し、それが光りの粒子となってアイシスの中へと吸収された
「さぁ目を覚ますですの。大勇者アイシス、期待しているですの!」
 ポコが手を振ると、アイシスはそのまま夢の世界から現実へと引き戻された
 目を覚ましたアイシスは自分の中に今の黄金狸の力が流れるのを確認し、新しい力にワクワクしていた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...