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 さて肝心の兎神トコ様の居場所なんだけど、兎人族の国にいるみたいだ
 ここには迷宮はないから直接来てるらしい
 なんでも兎人族はおとなしい人たちが多くて争いを嫌っている。そのため隠れ里のように国が見つけにくいみたい
 まあ精霊族は行き来自由だからすぐに見つかるんだけどね。何せ精霊族直通の転移魔法陣があるからね
 と言うわけでいったん精霊族の国に戻って来た
 母さんの管理している転移用魔法陣で移動しないといけないんだ
 この転移魔法陣というのは遥か昔に母さんが許可した種族の国にだけ描かれたもので、兎人族の他にはエルフや妖精族、星詠み族の国くらいにしか置かれていない
 転送装置と違うところは自身の魔力を大きく使っちゃう点だ
 母さんや僕みたいな精霊王、テュネたちみたいな最上位精霊や上位精霊なら問題なく起動できるけど、下位精霊が使えば体が消えちゃうから危険なんだよね
 それもあって転移装置は今大人気だった
 なにせ今までひとところにしかとどまることができなかった下位の精霊達が旅行を楽しめるようになったんだから
 彼ら下位精霊はその土地土地から力を得ているからあまりに離れすぎると消えてしまう。でも黒族の転移装置はそんな彼らの願いをかなえるために、彼らの体を保護するシステムを装置に組み込んでくれたんだ
 そのおかげで下位精霊が様々な場所を楽しめる。本当に黒族には感謝してもしきれないよ

 さて、帰って来たからにはまず母さんやテュネ、エンシュ、フーレン、アスラムに挨拶だね。久々にガンちゃんたちにも会いたいし、それに人間族の開拓地にも行かないと、あまりに家を放置してたから管理してくれてる妖精たちにも忘れられてるかもしれない
 そのあとはすぐに兎人族の国に行ってトコ様に会って、それからいよいよ最後の試練、人間族の国で待っている人神アコ様の試練だ
 これによって僕はもう一段階上の力を手にいれることになるらしい。それは怖くもありワクワクもする
 僕はその力をみんなを守るために使うと固く決めている。だから絶対に力に溺れるなんてことにはなりたくないんだ
 アコ様に正しい使い方をしっかりと聞こうっと
 ハクラちゃんの方は帰って来た鬼神さんに力の使い方を教わるみたいだから鬼ヶ島に一旦帰るみたい
 多分クロハさんにすごい勢いで抱き着かれてめちゃくちゃにされるんだろうなぁ
 あの人ハクラちゃんに対するスキンシップが激しすぎるから・・・。あれはもうシスコンの部類を完全に逸脱してると思う
 まぁハクラちゃんが気にしてないからいいんだとは思うけど、そのうちなんとかしないといつか大変なことになりそうで怖いよ

 精霊の国、その最奥にある様々な植物で出来た玉座。そこに母さんは座していた
 久しぶりってこともないけど僕は母さんを見てほっと安心した
 母さんはにこやかに笑って手を広げて僕を呼んでくれた。その胸に僕は思いっきり飛び込む
「お帰りリディちゃん。あの時はそこまでかまえなかったけど、大きく成長したみたいね。魔力がとても充実して力強い流れを感じるわ。それにこの聖なる気。リディちゃんが正しく力を使えている証拠ね。これならあの力を、古代魔法を、そして神代魔法、根源魔法を覚えても」
「神代魔法、根源魔法? 母さん、それって」
「ごめんなさいリディちゃん、私達が不甲斐ないばかりにあなたに危険な力を。古代魔法、神代魔法、根源魔法はかつて全ての世界で正しく運用されていた大きな力なの。しかし心悪しき者が増えたことによりいくつかの世界が滅びた。そのため大神様はこれらをすべて封じたの。以来神々ですらその力を扱える者はいなくなったわ。でも」
「異変、それで僕やハクラちゃんみたいな新世代が使えるようになったってアコ様が」
「ええ、あなたは元とはいえ女神の娘、その力を得る資格はあったわ。加えてあの地球の力をも持っている。地球は不思議な世界。物理法則が支配し、魔法も魔力のない世界だけれど、その世界に生まれた住人の魂は強力な力を内包するの。だから異世界に転移、もしくは転生する際にその内側に秘められた力が爆発的に成長する。そしてあなた達新世代は特にその力を強く発現させた子達。セカイという大きな意思によって力を得た子達なの」
「それって、ハクラちゃんやクロハさんも地球から流れてきたってこと?」
「いいえ、あの子達は少し違うわ。あの子達は恐らくセカイというシステムの根幹から魂を得た子達。古くはこの世界に唯一現れた鬼神にその魂が宿っていることが分かったわ。でもね、これは私しか知らないの」
「母さんしか?」
「ええ、ラシュアお兄様、神々のまとめ役であるあなたのおじ様にすら知らせていないわ。セカイの根幹はあまりにに不安定で、ゆっくりと力を得ないと暴走する危険性があるの。だからあの子達はこの世界でゆっくりと着実に力をつける必要があったわ。あの鬼神のようにね。根幹の力はそれだけ危険なの。そしてその根幹に巣くう悪こそ」
「僕たちが戦う相手?」
「そう。でも私は、リディちゃん、あなたを戦いに行かせたくはないわ。だって、私の、愛しい子。愛する娘ですもの」
 母さんは涙を流している
 本当に暖かい涙で、僕は愛されていることをしっかりと受け止めた
 でも僕は
「それでも、それでも僕は行くよ。母さん、僕は一度もこの世界に恩返しできてないんだ。僕はここにこうして、母さんの子として生まれることができて本当に幸せなんだ。だから僕は世界を壊そうとする悪がいるならそれと戦って守りたいんだ。僕の力じゃ足りないかもしれない、でも僕にはハクラちゃんやクロハさんみたいに仲間がいる。他の世界にもそういう人たちがたくさん生まれてるって聞いたよ。僕は一人じゃない。みんなで戦えばきっと、きっと勝てると思うんだ」
 母さんは黙って僕の顔を真っ直ぐに見ている。そして涙をぬぐって僕をギュッと抱きしめた
「本当に、ここまで大きくなって。いい?リディちゃん。私はこの命に代えてもあなたを守るわ。もしあなたが危なくなったら、どこにいようとも駆け付ける。私の可愛い子、愛しい娘」
「ありがとう母さん」
 僕は母さんとの再会を済ませ、その後テュネたちと再会した
「リディエラ様、もう行かれるのですね? 本当に、ご立派になられて」
「また、帰ってくるのですよね?」
「土精霊たちはいつでもリディエラ様の手助けをいたします。遠慮なく言いつけてください」
「ううう~リディエラ様~。絶対絶対帰ってきてくださいね~」
 四柱とも涙ながらに僕を見送ってくれた
 必ず帰ってくるよ。ここは僕の帰る場所だから

 一分の光さえない暗闇の中でそのモノは笑う
 彼または彼女の計画は順調に進んでいると言っていいだろう
 そのモノはゆっくりと着実にその手を広げていた
 黒い黒い空間の中口と目だけが赤く輝いている
「もう少し」
 そのモノは一言だけつぶやいて目と口を閉じた
 あとに残るは暗闇のみ
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