上 下
377 / 1,022

獣人族の国再び13

しおりを挟む
 最後の階層には女性が一人で立っていた
 彼女はこちらを見るとお辞儀をして話し始めた
「私はワコ様に使える天使アメノイナナキビメ、ワコ様にいただいた我が使命、全力で遂げさせていただきます」
 イナナキビメさんはどこからか槍を繰り出すと構えた
「これは生体槍力殺神槍りきころしかみつやり。魔を持つ者を撃ち滅ぼす槍です。私には神力以外どのような力も扱えませんが、だからこそこの槍が使えるのです」
 イナナキビメさんが持つ槍は神力以外の全てを消し去る力を持ってるらしい
 現にその槍が構えられただけで周囲の力の流れがピタリと止まってしまった
「周囲に一切魔力が感じられない。これって、精霊様」
「うん、僕達みたいな精神生命体にはかなり不利な状況だね。傷を受ければそこから魔力が流れ出しちゃう。それに、回復ができないし、僕に至っては魔法が使えなくなっちゃう」
「大変じゃないですか!」
「そう、大変なんだよ!」
 イナナキビメさんはもう既に戦闘態勢。こっちが構えるのを待ってくれてるみたい
 それならこっちも
「精霊刀、亜守徒羅あすとら
 この刀は鬼ヶ島でもらったものだ
 最初は名前がついてなかったけど、僕の力を受けて変化したことで名前がついた
 今はまだ精霊刀だけど、このまま僕の力を吸収し続ければ神刀になるのももうすぐって感じかな
「白刀、散雪」
 ハクラちゃんも自分の刀を抜いて構える
 あの槍、触れるだけでも危なそうだからハクラちゃんは自在に変形させられる散雪を大剣に変えていた
 相当重そうな見た目だけど、ハクラちゃんは軽々持ってる
 さて相手はまだ動かない
 こっちも動きたいけど、どこを見ても彼女には隙が無い
 動いたら槍の一突きですぐやられちゃうヴィジョンがありありと見えた
「はぁ、動かないのなら私が動きましょうか? そんなことでは強くなりませんよ?」
「で、でも隙が無いから」
「ないなら作りなさいな」
 イナナキビメさんがスッと動いてハクラちゃんの刀を弾き飛ばした
 え、今何が起こったの?
 動き始めの部分は見えたんだけど、気づいたらハクラちゃんの刀が宙を舞っていた
 全然見えない。速いとかそんな次元じゃなくて、まるでそこまでの一連の流れをカットされたみたいだった
「あ、あれ? 何で刀」
「危ないハクラちゃん!」
「へ?」
 ハクラちゃんのお腹に深々と槍が刺し入れられ、そこから魔力が破壊されていくのが分かった
「油断は命取り、次の生へのいい教訓になりましたね」
「ハクラちゃん!」
 まずい、この迷宮での死は本当の死
 ハクラちゃんの体が段々と破壊に侵食されて、光の粒子になって消えた
「え、嘘、そんな簡単に」
「ふふ、次はあなたの番ですね。もう一度死んで新しい生を楽しみますか? それとも無となりあなたという全てを消し去りますか? ちなみに今の子は無に帰しましたよ。ふふ」
 ハクラちゃんが、無になった?
 それって、魂すら破壊されて消えちゃったってことなの?
 そんな、そんなことって
 だって、簡単すぎるじゃ、ない・・・。あの子が、いなくなったなんて信じれない
 僕はぐるぐるとした気持ちが修まらなくて、それで、目の前が真っ白になって
 そこからどういうわけか僕の中で何かが弾けた感じがして、体内の力の流れ全てが一緒になったような感覚があった
 何だろうこれ、なんだか力が有り余って苦しい
 無いはずの心臓の鼓動のようなものが胸の奥でドクドクと脈打つ
 天雷
 バチバチとした雷が僕にまとわりついて力の流れが変わった
「こ、これは、天雷!? 神の力を一精霊ごときが使うと言うのですか!?」
 なんだろう、これならあの槍に触れても大丈夫な気がする
 僕はイナナキビメの槍を掴むと砕き折った
「な!? 高硬度の私の槍を砕」
 彼女のお腹に手を当てて、波打つ雷の力を撃ちこんだ
「ガッ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 相当なエネルギーの塊、普通なら消し飛ぶところだろうけど、さすが天使、体の半分を失っただけで耐えていた
 でも、それでもハクラちゃんを殺したこいつを僕は許せない
 怒りが、体を止めてくれなかった
 僕は彼女の残った体に手を添えて、力を溜めた
「待ってください精霊様!」
 後ろでハクラちゃんの声がする?
「死んでません! 死んでませんから私!」
「え、だって今完全にハクラちゃんの生命力、消えて」
「ぐ、ふぅ、あれは、一時的に空間内に収納しただけ、です。あなたの力を引き出す、ための、演出だったのですが、ここまでの潜在能力があったとはうかつ、でした。まさか、私が死にかける、とは」
「え? え?」
「ふぅ、少し、落ち着いてきました」
「何だよ落ち着いたのかよ!」
 突込みが追い付かなくて口調が変になった
 あ、イナナキビメさんの体が再生し始めてる
「さて、今引き出した力のように、あなたはどういうわけか神が扱う力を使えるようです。その力はあなたの武器となるはずですが、しかしそれでもまだ足りません。これからも精進なさいな」
「は、はい。その、すいませんでした」
「何を謝るのです。私はあなたの力を引き出せて満足しています。それがワコ様からの使命でしたので」
 完全に再生を果たしたイナナキビメさんと話していると、頭上で力の流れが起きた
 上を見るとお尻が浮いてて、それに続いて下半身が出て来た
「うんしょ、んしょ、よいしょっと。なかなかいい戦いだったわん」
「ワコ様!」
 え、この小っちゃい女の子がワコ様!?
 あ、でも確かに神聖な気配を感じるから間違いなく神様だ
 そしてワコ様は満足そうに僕に近づいてきて僕のお尻の匂いを嗅ぎ始めた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)
ファンタジー
サラは幼い頃から学ばなくても魔法が使えた。最近では思っただけで、魔法が使えるまでに。。。 精霊に好かれる者は、強力な魔法が使える世界。その中でも精霊の加護持ちは特別だ。当然サラも精霊の加護持ちだろうと周りから期待される中、能力鑑定を受けたことで、とんでもない称号がついていることが分かって⁉️ 私が精霊王様の母親っ?まだ、ピチピチの10歳で初恋もまだですけど⁉️

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生したら弱いものまね士になったけど結局活躍した。それはいいとして、英雄になったら隣に住んでたエルフとベッドの上でファンタジーが始まった

ぐうのすけ
ファンタジー
会社帰り、俺は突然異世界に転生した。 転生した異世界は貴族屋敷……の隣にあるボロ屋の息子だった。 10才で弱いと言われるものまね士のジョブを授かるが、それでも俺は冒険者を目指す。 所で隣のメイドさん、俺をからかうの、やめてもらえますか? やめて貰えないと幼馴染のお嬢様が頬をぷっくりさせて睨んでくるんですけど? そう言えば俺をバカにしていたライダーはどんどんボロボロになっていくけど、生きておるのか? まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、俺が英雄になった後隣に住んでいたエルフメイドがベッドの上では弱すぎる。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...