上 下
350 / 1,022

桃源郷14

しおりを挟む
 さぁ第十一階層だ
 ここは一面が炎に包まれていて、ところどころに炎の体を持った魔物がぴょんぴょんと飛び跳ねている
 その他には体が溶岩のような魔物に、炎のヒレを持った魚、常に口から火を噴いているトカゲなどなど、炎系の魔物が非常に多かった
 その炎の道の先に微かに次の階層への扉が見える
 あそこまで行くにはこの魔物の群れをかいくぐりながらもこの炎の道を進むしかない
 僕は平気だけど、マコさんがやっぱり辛そう
 ひとまずまたクールサークルでマコさんを覆っておいて、そこから二人で道を歩き始めた
 魔物の強さはそこまでじゃないんだけど、何せ数が多い
 それに加えてクールサークルじゃ防げない暑さでマコさんの体力がどんどん奪われて行っている
 僕が水の魔法で定期的にマコさんに水分を取らせてるけど、それでも次から次へと水分が抜けていく
 励ましつつ魔物を倒しつつ、ゆっくりと進んで、やっと扉の前まで来れた
「ふぅ、もう暑くて死にそうです」
「頑張ってほら、もう扉が目の前」と言いかけたところでいきなり扉の前に何かが落ちてきた
「うわっ危ないなぁ」
「な、何ですか!?」
 僕らは驚いて日のこの舞い上がる先を見た
 そこに立っていたのは炎を纏う虎のような男で、明らかに強者の風格を携えている
「戦え、俺と、俺を倒さねば先には進めんぞ」
「精霊様! この方、相当強いです!」
「うん、多分ハクラちゃんくらい強いと思う」
 ハクラちゃんは鬼仙という種族で、今では童子という半精神生命体に進化している
 ぼくよりも強くて世界でも指折りの美少女と名高いんだけど、正直精霊より強いというかなりすごい人だ
 そんな彼女と同じくらいの強さ。僕も強くなってるとはいえこれは厳しい戦いになりそうだ
 話合いできる雰囲気じゃないし、相手は既に戦闘態勢に入っている
 この状況であまり動けないマコさんを守りながら戦わないといけないんだ
 僕はここで珍しく自分専用の武器である刀を取り出す
 魔法で戦う僕はあまり近接戦闘をしないんだけど、今回ばかりは魔法で対抗できないとすぐに分かった
 相手は多分、魔法を使わせる隙をくれない。使おうとした途端逆に隙をつかれてやられるのが見えた
 だからまず精霊の持つ力を全て解放して構える
 精力、霊力、気力、神力などなどありとあらゆる力で身体を強化していく
 その間は彼も待っててくれた
 きっとああいう武人タイプの人は本気での打ち合いを望んでるんだよ
 だから僕の全開を待ってるんだ
「お待たせ、名前は?」
「俺はガンゼ、異世界の精霊王女よ、来るのを楽しみにしていた。ニャコ様には悪いがここでお前の歩みは止まる。覚悟!」
 お互いに出方を見てじりじりとにじり寄る
 ガンゼさんはマコさんに見向きもせずにこっちを見続けている
 動けないまま数時間にも思えるような数分が経過して、ついにガンゼさんが動いた
 見えない! けど
 僕は後ろに刀を出してガンゼさんの爪を受けた
 ガキンと言う金属音、ガンゼさんの爪は少なくとも鋼鉄よりも硬いってことだ
 何せ刀の刃の部分に爪が当たってもかけるどころか傷一つついてない
 これは喰らったら僕でもひとたまりもない
 だって彼の爪は精霊を簡単に切り裂けるほどの強い霊力を帯びているんだからね
「ふむ、これを受けるか、やはり相当な実力者、俺も本気で当たらせてもらう」
「うう、出来れば勘弁してもらいたいよ」
「問答無用!」
 ガンゼさんは再び僕の視界から消えると真横に現れて僕のお腹辺りを斬りつけた
 あっぶない、少しかすった! イタタタ
 爪の痕がくっきりとお腹に付いてる
 その傷を霊力を終息させて塞いでから刀を振り上げ斬りつけたんだけど、軽々避けられた
 うう、強いよこの人、でも負けるわけにはいかないんだ
「霊力ブースト!」
 今度は足に霊力を集めて速度を上げる
 でもさすがに追いつけなくて、逆に回り込まれた
虎王爪こおうそう!」
「うぐぅ!」
 くっ、痛い、肩口が切り裂かれてそこから魔力がこぼれ出る
 キラキラとした光で、我ながら少し綺麗だと思ってしまったけど、かなり痛い
「せ、精霊様!」
「大丈夫、ちょっと油断しただけ。すぐ治るから」
「ほお、すんでのところでとっさに霊力を集中させたか。もう少しで真っ二つに出来たんだが」
「そう簡単にはやられてあげないよ」
「その意気やよし!」
 やっぱり動きは見えなくて、感知で次に現れる場所は大体わかるんだけど、その速度に反応が少し遅れるんだよね
 だけどだいたいパターンはつかめた
 今度はこっちの反撃の番だ
虎月こげつ!」
「エレトルネラ!」
 激しく巻き起こる風によってガンゼさんの動きが止まった
「馬鹿な、魔法を使う気配などなかったぞ」
「フフ、そうだね、僕は魔法を練っていない。これは魔力を使った特別な力だよ」
「ハハハ、そうかそうか、なるほどな、楽しませてくれる」
「まだまだ行くよ! デルウルスラ!」
 今度は叩きつけるかのような水流によってガンゼさんは飲み込まれていく
 まわりの炎も消え、岩肌がむき出しになった
「くっ、虎軍墳刀こぐんふんとう!」
「なっ!」
 驚いた、あれほどの水流を切り裂いて抜け出すなんて
 でもさすがに足がもつれてうまく立てないでいる
「そこだ! フラフフロゼ!」
 今度はこのエリア全体が凍えるほどの猛吹雪をガンゼさんに吹きつけた
 この技はハクラちゃんの力からヒントを得て再現してみた力
 ハクラちゃんほどの絶対零度はないけれど、それでもガンゼさんには効いたみたいだ
「な、なるほどな、俺に相性の悪い力ばかりを使ってきたってことか。ハハハ、ここまで楽しい戦いは初めてだ。今回は負けたが次は勝つ。先へ進め!」
「で、出来れば僕はもう戦いたくないかな」
 そう言うとガンゼさんは笑った
 でもほんとに、本当にもう戦いたくない
 次はいくら相性の悪い力を使っても勝てそうにないんだもん
 だって彼、全然本気出してなかったんだから
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)
ファンタジー
サラは幼い頃から学ばなくても魔法が使えた。最近では思っただけで、魔法が使えるまでに。。。 精霊に好かれる者は、強力な魔法が使える世界。その中でも精霊の加護持ちは特別だ。当然サラも精霊の加護持ちだろうと周りから期待される中、能力鑑定を受けたことで、とんでもない称号がついていることが分かって⁉️ 私が精霊王様の母親っ?まだ、ピチピチの10歳で初恋もまだですけど⁉️

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生したら弱いものまね士になったけど結局活躍した。それはいいとして、英雄になったら隣に住んでたエルフとベッドの上でファンタジーが始まった

ぐうのすけ
ファンタジー
会社帰り、俺は突然異世界に転生した。 転生した異世界は貴族屋敷……の隣にあるボロ屋の息子だった。 10才で弱いと言われるものまね士のジョブを授かるが、それでも俺は冒険者を目指す。 所で隣のメイドさん、俺をからかうの、やめてもらえますか? やめて貰えないと幼馴染のお嬢様が頬をぷっくりさせて睨んでくるんですけど? そう言えば俺をバカにしていたライダーはどんどんボロボロになっていくけど、生きておるのか? まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、俺が英雄になった後隣に住んでいたエルフメイドがベッドの上では弱すぎる。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...