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妖怪族の国34

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 次の日案内されたのは、河童格闘技場というまるで相撲の土俵のような場所だった
「ここではぁですねぇえ、河童族の体術ぅをぉ競い合うぅためぇのぉお、施設ぅでしてぇえ。たくさんのぉ、格闘家がぁ毎日ぃ戦いをぉ繰り広げてぇるんですぅよぉお」
 確かに河童の皆さんが一心不乱に稽古をしているね
 それにしてもこの格闘技、相撲に似てる
「この格闘技、名前はなんていうの?」
「これはぁですねぇえ、異世界のぉ格闘家がぁあ、私たちぃ河童族にぃ合う武術としてぇ、広めてぇくださいぃましぃたぁあ。それぇがぁこのぉ“実戦相撲”というぅ格闘技ぃでぇすぅう。ただぁあ、今はぁ少しぃ私たちぃの妖術ぅやぁ体術ぅをぉお、織り交ぜてるぅのぉでぇえ、ちょっと違ってますぅねぇえ」
 なるほどね。確かに動きは似てるけど、妖術をうまく使ったり、蹴り技があったりと様々だ
「精霊様ぁあ、戦ってみまぁすぅう?」
「へ? 僕?」
「はいぃい。一度是非ともぉ精霊様ぁのぉお力をぉ拝見したくてぇえ」
「それはいいですね。リディエラ様、ここは魔法を使わずに戦ってみましょう。徒手格闘術はエンシュに教わりましたよね?」
 そう、実は武器がなくなったり、魔法が使えない状況下でも戦えるようにエンシュに格闘技を習っていた
 テュネやアスラムに魔法を、フーレンに空の飛び方を習うように、エンシュの使う特殊な格闘術をだ
「よし、やってみるよ」
「はい! 頑張ってください!」
 テュネは僕の手を握ってしっかりと激励してくれた
 河童の格闘家の人が土俵に上がったのを見て、僕も上がる
 ちなみにここではまわしをつけて上半身裸、なんてことはない
 そんな正装だと僕も大変なことになっちゃうからね
 衣装は何でもいいみたい
「さて、俺とやろうってのはそのお嬢ちゃんかい? 悪いことは言わねぇから怪我しねぇうちにやめときな」
 格闘家の男はタキモといい、前回の世界格闘技大会で三位だった人らしい
 一位は確か竜人族の人だったね
 それにしても三位ってことは相当に強いってことだよね? 僕に勝てるのかな?
「大丈夫ぅですよぉ精霊様ぁあ。私の見立てぇだとぉお、精霊様ぁの方がぁ強いぃですぅう。倒して彼のぉ鼻をぉ明かしちゃってぇくださいぃい」
 彼は強いのを鼻にかけて何かと問題を起こしてるらしい
 今も後輩を気絶するまで殴って他の河童たち数十人にとめられていた
「やる気ってんなら構わねぇな。おいノドカ様よぉ、このガキ、ボコってもいいんですかい? 可愛い顔が台無しになっちまいやすぜ?」
「勝てるなぁらぁ、いいですぅよぉお。勝てるならね」
 ニヤリと笑うノドカちゃんがちょっと怖い
「ま、そういうことだガキ、お兄さんが世の中の厳しさをしっかり教えてやっからよぉ。お嫁には行かなくなっちまうだろうが、死にゃぁしねぇから安心しろ」
 お互いに土俵入り
 相手の体格は僕の三倍はありそう
 それに筋肉も隆々として盛り上がってる。単純な力では勝てそうにない
 行司のような人が手を上げる
「見合って、はっけよい、のこった!」
 そこは一緒なのね
 掛け声と同時にタキモは僕を掴もうと腕を伸ばした
 速い、けどそれは一般的な人たちから見るとだ
 当然のように僕はそれを交わして後ろに回り込む
「沙羅曼蛇流格闘術奥義、無手四王撃!」
 素早く、残像が浮かぶくらいの速度で四つのエレメントを込めた拳をタキモの背中に叩き込む
「んぶぅ! げ、かっ、あぐぅ。な、なかなかいい拳じゃねぇ、か。だが、所詮はガキの、遊びだなぁ。拳ってのはこう打つんだよ! 河童式格闘術奥義、雨我手上うわてあげ!」
 低く沈み込んで僕の顔めがけて雨のような拳のラッシュを叩き込もうと迫る
 その全てを片手で止めると、タキモは口を開いたまま驚いてた
「沙羅曼蛇式格闘術奥義、天月あまつき!」
 ボーリングの玉を投げるかのようなフォーム、地面をけるようにして踏みしめて、拳に僕の全体重を乗せたアッパーカットのような奥義
 相手が固まっていたからこそできる大ぶりだけど高い攻撃力を誇る技だ
 その拳は正確にタキモの顎にヒットして、その下あごを砕いて彼を土俵に沈めた
 それと同時に沸き上がる歓声
「すごぉいですぅう、精霊様ぁあ」
 ノドカちゃんがパチパチと手を叩いてくれる
 もっと強いかと思ったけど、黒族の人達の迷宮アトラクションで戦かった人達の方が圧倒的に強かったね
「ぐ、う、うぅ」
 しばらく気を失ってたタキモが起き上がる
 すでに治療は終わってるから怪我は治ってるね
「俺は、負けた、のか?」
「そうですぅよぉお、それはもうみごとぉにぃ負けてぇましたぁあ」
「そうか、俺は格闘技の世界大会であの二人に負けて、躍起になって力をつけてきた。やっぱり俺じゃぁ世界一になれねぇってことか」
「それは違いますよ。あなたはその力を自分のために使ったから負けたのです。優勝者と準優勝者の二人を見ましたか? あの二人が力をつけたのはみんなを守るためです。いいですか? 人は何かを守ろうとする時が一番力を発するものなのですよ」
 エンシュはタキモを諭すように語り掛け、手を引っ張って立たせた
「そう、か、分かった。俺の力はまがい物ってことなのか。目が覚めた気分だぜ。 そうだよな。俺だってもともと英雄になってこの里を守るために力をつけたんだ。どこで間違ったんだか。ノドカ様よ! 俺はもっと強くなるぜ! んでもってよ! 里を守ってやる! 魔物だろうが何が来ようが、俺が全部まもってやるよ! それが強くなるって事だろう?」
 エンシュは微笑んでうなずいた
 うんうん、いいねいいね熱いね
 格闘場の後、よく冷えたキュウリを食べて宿へ
 明日はガシャドクロ族の里か。ノドカちゃんとはここでお別れ
 でもまた会える。今は黒族の簡易転移装置が妖怪族の国にも普及し始めたからね
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