上 下
227 / 1,022

妖怪族の国33

しおりを挟む
 翌朝、川の方が騒がしくなっていた
 あれだけ大量の水が流れていたはずの川が、どういうわけか水が無くなっていた
「上流でぇなにかぁあ、あったのかぁもぉお、しれないでぇすぅねぇえ」
 少し険しい表情になっているノドカちゃん
「私ぃい、ちょっとぉ行ってぇ来ますぅねぇえ」
 うわ、目の前から消えた
 と思ったらもう遥か彼方に走っていってる
「本気になったノドカちゃんって速いんだ。って見てる場合じゃないよ。僕らも行こう!」
 ノドカちゃんの後を追って走り出す
 ノドカちゃんが向かったのは川上の方だから川沿いに走ればすぐ追いつくね
 上流につくと川の水が無くなった原因が分かった
 巨大な岩がふさいでいたんだ
「やっぱりぃ。あいつのぉ、仕業ですぅねぇえ」
 ノドカちゃんが声を荒げて怒っている
 ゆっくりと静かに怒りをあらわにしていた
「許せないぃですぅう」
 妖力がノドカちゃんの体に満ちていくのが分かった
「そこぉにぃい、いるんでしょうぉお? ワグラズーぅう」
 木の陰から魔物の気配がした
 影から出てきたのは人? でも魔物の気配ってことは、魔人?
 魔族と違って魔人は人が魔物の力を何らかの形で取り込んだものらしい
「ハハハ、やっぱり気づかれてたか。速く僕のものに成れよノドカ。僕はね、一目見たときから君のことが好きで好きでたまらないんだ。ずっと君のことを見てた。魔人化した後もずっとね」
「わたしぃはぁあ、貴方のことぉお、大っ嫌いですぅう!」
 あとで聞いた話なんだけど、この河童の里はずっとあいつにちょっかいをかけられてたらしい
 ノドカちゃんと結婚するまでやると言ってしつこく何度もだ
 ストーカーじゃないか
「大っ嫌い? 分からない子だねぇ。君はもう僕のものなんだ。川もふさいだし、この里はどんどん寂れていくだけだよ? こんなとこにいないで僕と一緒に旅立とう」
 うわ、こいつ気づいてないのかな? 穏やかで優しいノドカちゃんの顔が怒りに満ち満ちていることに
「もう、貴方と話すことはありません」
「あれ? 口調変わったね。そんな君も可愛いねぇ」
 ノドカちゃんの妖力が高まる
「河童式体術、死呼怖三しこふみ
 ノドカちゃんは体をそらし、右足を高々と上げる
 あわわわ、着物だから見えてる見えてる!
 そんなこともお構いなしにノドカちゃんは右足を地面に振り下ろした
 足先が地面を砕き、周囲が大きく揺れる
「うわ! さすがノドカだねぇ。でもたかが地面を揺らした程度、で・・・。消えた?」
 ホントだ、いつの間にかノドカちゃんの姿がない
「妖術、空間覇離手はりて!」
 突然空中から現れたノドカちゃんは魔人のいる方向とは全く別の方向へ掌底を放つ
「どこに打ってるんだいノドカぁ! 僕はこっちだよぐあっ!」
 どういうこと? ノドカちゃんの掌底の衝撃が魔人の顔面に入ってる
 顔に真っ赤な手のひらの後ができてるじゃないか
「うぐぐ、いててて、なんだこれ? ノドカちゃん、僕はきぴがっ!」
 また魔人の顔に手のひらの後ができる
「妖術、後追い」
 顔面を打たれて地面を転がっていく魔人。なんだか哀れになって来た
「ちょ、ノドカちゃん、待って、婚約者の僕に本気で攻撃しないよね? ね!」
「妖術、豪王怪力」
 ノドカちゃんの細い腕が盛り上がる
「全力上手投げ!」
 魔人は掴まれ、遥か彼方へと投げ飛ばされた
 哀れ魔人は悲鳴を上げながら姿が見えなくなった
「ふぅ~、つぎはぁあ」
 あ、口調が戻ってる。やっぱりこっちのノドカちゃんの方がいいね
「よいしょっと」
「え、ちょ」
 ノドカちゃんは川をせき止めていた巨大な岩複数個をまとめて持ち上げ、横によけた
 そのとたん水が滝のように押し寄せる
「力、強いね」
「河童族はぁあ、このくらいぃい、子供でもぉお、できますぅよぉお」
「いやいやいやさすがに子供はできないわよ。ノドカちゃんが異常なのよ」
「あれぇ? そうなんですぅかぁあ?」
 うーん、首をかしげてるしぐさが可愛いからいいか
「すみませぇん精霊ぃ様ぁあ。ではぁ行きまぁしょぉかぁあ」
 ノドカちゃんはウキウキとスキップしながら前を歩くけど、相変わらずののんびりだ
 こっちが普段のノドカちゃんなんだと思う
 だってさっき戦闘してた時のノドカちゃんは無理してるように見えたから
 今日案内してくれたのはキュウリ畑
 スイカも名産なんだけど、一番はこの畑なんだとか
「このぉキュウリはぁですねぇえ、品種改良というぅ技術がぁあ、使われてぇいるのぉでぇえ、色々なぁ味がぁ楽しめぇるんですぅよぉお」
 青々しく輝くキュウリを一つ切ってそのまま渡してくれた
「齧ってぇみてぇくださぁい」
 パクリと一口齧ってみると、あふれる水と程よい甘み
 シャクシャクとした食感が気持ちいい
 味は、少しメロンに似てるかな?
「次はぁ、こちらでぇすぅう」
 今度は赤いキュウリ。カリッとした歯ごたえのあと、咀嚼すると
「からっ! 辛いよこれ! でも、なんだか、癖になりそう」
「それはぁですねぇえ、辛キュウリと言いますぅう。ハブラネボラというぅスパイスの実とぉお、かけ合わせてるぅんでぇすぅう」
 なるほど、ハバネロみたいな実と合成させたのかな?
 この世界の品種改良は魔法で合成のようなことができるみたいだから地球の技術とは違うね

 そこからもいくつかのキュウリをいただいた
 青色をしたクールキュウリ、これはその名の通り、ミントのような香りと清涼感があった
 普通のキュウリと同じ見た目だけど、まるで焼いた肉のような味と食感のニキュウリ
 黄色でものすごく甘い上に穴をあけるとジュースのように果汁を飲めるゴクゴキュウリ
 どれもこれも見たことがないキュウリばかりで、その上味も良かった
 晩御飯もこのキュウリを使ったフルコース
 大変満足いたしました

 その頃魔人のワグラズーは遥か彼方に飛ばされ、翼人族の国の土地にある大きな木に引っかかっていた
「はぁ、どうすれば君は振り向いてくれるんだい? アプローチの仕方を変えてみるか?」
 ノドカを何とか振り向かせようと試行錯誤しているようだった
 そのため河童族にちょっかいは出すものの、実のところ普段の彼は特に悪いこともしない気のいい魔人なのである
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)
ファンタジー
サラは幼い頃から学ばなくても魔法が使えた。最近では思っただけで、魔法が使えるまでに。。。 精霊に好かれる者は、強力な魔法が使える世界。その中でも精霊の加護持ちは特別だ。当然サラも精霊の加護持ちだろうと周りから期待される中、能力鑑定を受けたことで、とんでもない称号がついていることが分かって⁉️ 私が精霊王様の母親っ?まだ、ピチピチの10歳で初恋もまだですけど⁉️

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生したら弱いものまね士になったけど結局活躍した。それはいいとして、英雄になったら隣に住んでたエルフとベッドの上でファンタジーが始まった

ぐうのすけ
ファンタジー
会社帰り、俺は突然異世界に転生した。 転生した異世界は貴族屋敷……の隣にあるボロ屋の息子だった。 10才で弱いと言われるものまね士のジョブを授かるが、それでも俺は冒険者を目指す。 所で隣のメイドさん、俺をからかうの、やめてもらえますか? やめて貰えないと幼馴染のお嬢様が頬をぷっくりさせて睨んでくるんですけど? そう言えば俺をバカにしていたライダーはどんどんボロボロになっていくけど、生きておるのか? まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、俺が英雄になった後隣に住んでいたエルフメイドがベッドの上では弱すぎる。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...