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闇の落とし子1

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 狭間の世界
 ここに住人は誰一人としていない
 少なくともそう聞いている
 先祖である闇たちはこの狭間の世界を伝って様々な世界に渡っていたそうだ
 神にもそういう能力を持った神がいるらしいが、めったなことで狭間の世界には踏み込まないそうだ
「クウダ、アヤの様子はどう?」
「何とか消滅は免れたけど・・・。力は完全に失ってる。正直この狭間の世界では長くは生きられないと思う」
「そんな・・・」
 アヤは既に人と同じくこの狭間の空気に耐えられない体となっていた
 このままとどまればいずれこの世界に溶け込み、消えてしまうだろう
「どうすれば・・・」
「幸にもアヤは姿を見られていない。今からでもあの世界で人として生きて行けば」
「そんなのダメ! アヤをひとりで、しかも力を失ったあの子をあんな危険な世界になんて置いていけない!」
「でも、そうしなきゃあの子は」
「ミヤ」
 ミヤに声をかけたのはアヤだった
「聞いていたの?」
「はい・・・。私なら大丈夫です。きっと生き抜いて見せますよ」
 アヤはミヤを心配させまいと笑って見せる
「でもアヤ・・・」
 なんとも言えない気まずい空気が流れる
 そんな空気を消し去るようなことが起こった
「ミヤ、クウダ、大変だ。こっちに来てくれ」
 アヤを他の闇人に任せて二人は向かう
「あれを見てくれ」
 どこまでも続く広い広い地平線、その奥に二人の人影が見えた
 その人影はこちらに恐ろしいほどの速さで近づいてくる
「何なのあれ・・・。嘘、そんな・・・。あんなのどうやっても、勝てないじゃない」
 近づいてくる気配を探知してすぐに分かった
 その二人は自分たちが本気で挑もうとも軽くあしらわれる存在だということに
「こんにちは! あなたたちは誰? 私たちはアカシックレコードの守護者」
「やあ、僕の名前はメロ、こっちはフィフィ。僕たちはラヴァーズなんだ」
「ラヴァーズ? 恋人たち? あなたたちは一体何なの?」
「先に質問したのはこっち。ちゃんと答えないと消しちゃうわよ?」
「ヒッ」
 フィフィと言う異形の少女をメロと名乗る異形の少女が止める
「だめだよフィフィ、無為に怖がらせちゃ。ちゃんと話は聞かないと。ほら、あの子との約束もあるし」
「そうねメロ、反省しなきゃ。で、あなたたちは一体だれなの? ここは私とメロの世界。私たちの邪魔をしに来たの?」
「い、いえ、そのようなことは決して・・・。私たちは闇人、闇の子孫です」
「やっぱり敵じゃない。消しちゃおうメロ」
「まぁまぁ、話しは最後まで聞く。いいね?」
「メロがそう言うなら」
「それで、君たちはどうしてここにいるんだい?」
 闇人達は震えながらこたえる
「わ、私たちは、元いた世界で追われ、行き場を無くし手この世界に来ました。あの世界を糧に神々に復讐を、しようと」
 そこまで言って気が付いた
 もしこの二人が神側の存在であったなら、自分たちは躊躇なく消されるだろう
 恐ろしさで目の前が真っ白になる
「そっか、大変だったね」
「え?」
「僕たちもね。昔は神様と喧嘩したりもしたんだよ。それに怒りを覚えて復讐しようともした。けどね、ある人が僕たちを諫めてくれてね」
 嬉しそうにその時の様子を語る二人
 まるで二人だけの劇場のようだ
「と言うわけでね。今では僕らも本来の役目を全うしているわけなんだ。君たちもいつか会ってみるといいよ。その子、今では神様になってるはずだから。たまにね、ここにも会いに来てくれるんだ」
 始終二人の世界を見せられキョトンとする闇人達
「あ、あの、どういうことなのでしょうか?」
「内容が伝わってないみたいよメロ」
「あら?おかしいな。要するに恨んじゃダメってことだよ。住む場所がないならここに住むといい。ただし僕たちの邪魔をするなら」
 異形の腕を変質させて体に纏い、不気味な竜のような姿になるメロ
「本気で君たちを消すから覚悟してね」
 あまりのことに腰を抜かし、ただコクコクとうなずくことしかできなかった
「みんな仲良く。それがあの子のモットーだった。だから君たちも仲良く、ね」
 微笑むメロの顔はまるで天使のようだった
「あ、あの、もしよろしければお力を貸していただけませんか?」
「お、おいミヤ、何を言って」
「私の親友が、大切な子が力を無くし、この世界では消滅してしまうのです。どうかお力添えを」
 メロはミヤを見つめる
「いいよ。どこにいるの?」
 メロはミヤと共にアヤの元へ急いだ
「ミヤ、よかった。ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ。予定よりアヤの消滅が早いんだ」
 アヤの姿は既に消えかけている
 苦しそうな顔で呻いている
「アヤ、アヤ!」
 メロはゆっくりとアヤに手を差し伸べた
 するとメロの体からキラキラと輝く光があふれ出してアヤに注がれていった
 やがてアヤの体は色を取り戻し、元に戻る
「ミ、ヤ・・・」
 意識を取り戻したアヤ
「アヤ、よかった・・・。」
 ミヤは涙を流しながらアヤを抱きしめる
「うんうん、ほらね。愛ってすごいでしょ? 素晴らしいでしょ?」
「え?」
「その感情、絶対に忘れないで。世界は愛で満ちているんだから」
 いつの間にかフィフィも横に立っている
 闇人は二人に受け入れられ、ここで暮らすことを許された
 恨みを、復讐心を忘れたわけではないが、いずれその感情は薄れていくだろう
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