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邪神

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 何故だ
 なぜこうもうまくいかない
 あの時も、千年前も、何百年経っても、そして五十年前も!
 私の力が弱まってきているのは分かる
 だが、一つの世界の勇者ごときに、いくつもの世界を滅ぼしてきたこの私が!
 五十年前は器に乗り移ることすらできなかった
 仮初のこの体では力が出ない

 辺りを見渡すと、かつての自分の体が朽ちて骨となりところどころに落ちていた
 山のように大きな体
 この世界の神々と戦ったかつての体
 この世界で初めて私は敗北した
 約十二万年前、この世界に来たばかりだった私はまず自分の子供達を、魔族と言う新しい種族を作った
 万が一倒されて魂だけになった時の器にするためだ
 神々によってほとんどの子供たちは倒されてしまい、私自身も倒された
 くしくも最後に残った子供に憑依して私は難を逃れ、魔族たちをさらに作り出した
 それから魔王という世界を滅ぼす存在となり、何度も何度もこの世界の者と戦った
 だが、神々は同じように自らの眷属を作り出して対抗し、私は何度も何度も倒された
 倒されるごとに私は力を失っていった
 あの勇者という存在は厄介だ
 私が体を変えるごとに生まれる
 それでも勇者とはいつも相打ちだったのだ
 しかし五十年前は違った
 私よりもはるかに強かったあの時の勇者
 私の力の大半を消し去ってしまったあの勇者
 それに、自我を芽生えさせた私の子供
 今までにこんなことはなかった
 私はもう邪神ではない
 あの時の力はもうない
 かつてあった全てを壊したいと思うほどの憎しみはもうないのだ
 あの憎しみ、もうかなり昔のことでなぜあそこまで全てを憎んでいたのかすら覚えていない
 何億年ともいう長い月日で風化してしまったのだろう
 それなのに戦い続ける意味があるのだろうか?
 指先が崩れ始める
 魂に合わない体のせいで崩壊が始まっているのか
 もう私は長くないのだろうな
 魂の形ももう保てそうにない
 当然だ
 もともと私が何だったのか、最近急にいろいろと思い出し始めている
 近しいうちに私は死ぬのだろう。そのための走馬灯を見ているのかもしれない
 ここまでもったのが不思議なくらいだ
 私の体の一部で出来たネズミによって魔王城の様子はわかる
 まもなくここに勇者が来るはずだ
 あの勇者は強かったな
 歴代でも最強だろう
 最後にあいつを道ずれにして消滅するのもいいかもしれない
 準備はできている
 いつでも向かい打てるはずだ
 問題は精霊の王女か
 かつてこの世界に来たばかりの私の力の大半を奪った精霊族の神
 その娘か
 勝てないだろうな
 だがいいさ
 私はもう、疲れた
 なぜ世界を憎んでいたかもわからないこの怒りに身を任せるよりいっそ・・・

 来たみたいだな
 これが私の最後の戦いになるだろう
 勇者アイシス、精霊王女リディエラ、それに四大精霊か
 最後の相手にとって不足なし
 ひびの入る体を見る
 私は、一体何なのだろう
 何のために世界を滅ぼしていたのだろう
 死ぬ間際に見るという走馬燈
 最後に私が何者かわかればいいが
 何故邪神と呼ばれたのだろう
 思い出せない、知りたい
 死ぬ間際にやりたいことが見つかるとは思わなかった
 口から込み上げる鉄の味
 内部崩壊も始まったようだ

 武器を構える前魔王にして元邪神
 その者に名前などない。しいて言うならば今の肉体の名はカリグジオ
 かつて世界を救うほどの存在だったが、記憶を失い力を暴走させ邪神となり、魔王となった者
 その者は既に疲れ切っていた
 キーラの体を奪うという目的を果たせなかったためもはや崩壊まで時間がない
 もう生きることをあきらめていた
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