上 下
80 / 1,022

魔族の国3

しおりを挟む
 村を調査していると、跡地に残った吸盤の跡からいかに巨大なイカだったかがわかる
 一つの触手が山のようだと言った村人の証言は決して大げさじゃない
 そのとき、ゆっくりと海がうねり、何かが盛り上がってくるのが見えた
「うわ、おっきい・・・。あれがこの村を襲った、魔物?」
「確かに魔物の気配がしますが、ここまで大きなイカ型の魔物など見たことがありません」
 こんなのが陸に上がって暴れだしたらジューオンは、この魔族国は滅んでしまう
 僕たちで止めなきゃ!
「テュネ!」
「お任せください。ここには海があります。たゆたう水こそ私の本分ということをお見せしましょう」
 うやうやしく頭を下げると、すぐに戦闘に入った
「え、エンシュ、手伝いを!」
「いえ、ああなったテュネに敵う者はおりません。リディエラ様は安心して応援してあげてください」
 エンシュは全く心配していなさそうだ
 それは他の二人も同じで、フーレンは空から、アスラムは座り込んで見ている
「さぁ水たち、踊りなさい」
 テュネが海にそう語りかけると、海の水は巨大イカを包み込むようにしてまとわりついた。拘束したんだ
 さらに水は竜巻のようにくるくると捻じれながら槍のようにせりあがっていく
 周囲に回転する水の輪が浮き、それらが一斉に巨大イカに襲い掛かった
 勝負は一瞬でついた
 恐らくはSランクはあろうかという巨大イカは串刺しにされ、輪切りにされて息絶えた
 恐ろしい
 四大精霊って自分の影響下にあるならここまで強いんだ 
 この前熊の魔物に苦労してたのが嘘みたいだ
 でも、そうか、エンシュも回りが炎で囲まれていた環境ならあのくらいの魔物、一瞬なんだろうな
 無事巨大イカは退治で来た
 イカの死骸からは以前熊を倒したときと同じように魔化玉が出てきた
 やっぱりこのイカも作られた魔物だったのか
 魔化玉を回収してからイカの死骸も回収
 このイカ、村の食料にするんだそうだ
 試しに少し食べてみたけど、甘みがあって濃厚で、食感は程よく、生臭さもあまりない
 要するにおいしかった
 これを今仮設されている村の食料にすればしばらく持つだろう
 漁村を破壊されて漁に出れないので食料はキーラちゃんが負担する手はずになっていた
 これで負担は少しは減るはずだ
「それにしてもこの魔化玉を一体だれが植え付けているのでしょうか? あの時、勇者と共に魔王と戦ったあの日、私たちは確かに魔王の肉体が死んでいるのを確認しました。世界を脅かす魔王はもういないはずなのです」
 テュネの疑問はもっともだ
 この世界に蘇生なんて奇跡はないみたいだし、死んだらそこで終わりのはずなんだ
 でも・・・。僕は胸に不安を抱えながらもジューオンに戻った
 ジューオンでは兵士たちが出迎えてくれた
 キーラちゃんもいる
「お疲れ様なのだ! 精霊様!」
「あの、僕のこと、リディエラって名前で呼んでもらえると嬉しいな」
「リディエラ様、この度は我が国の大切な領民を救っていただきありがとうございます!」
「様もいらないよ。リディエラでいいから。それと、敬語もなしね。僕の方が年下だし」
「む、それなら、リディ、エラ、ありがとうなのだ!」
「あ、そうそう、巨大イカ、テュネが倒したんだけど死骸は食料として持ってきたよ。仮設村の人達にでもあげてよ。結構おいしいからみんなで食べてみて」
「ありがたいのだ! 早速届けさせるのだ!」
 キーラちゃんたちの歓迎を受けながら僕はジューオンの魔王城へと入った
 外観は昔から変わっていないらしくおどろおどろしいけど、中に入ってみるとところどころに花が供えられ、キーラが描いた可愛らしい絵が飾られている
 キーラは絵を描くのが趣味で、かなりの枚数がこの城に飾られているらしい
 お世辞にもうまいとは言えないけど、温かみがあって僕は好きだ
 手入れされ、丁寧に飾られたキーラの絵
 この城の人達がキーラのことを愛しているのがよく伝わる
 城の大きな部屋に通されると、キーラから嬉しい知らせを聞いた
 どうやら勇者が来ているらしい
 今はキーラを狙う何者かの調査のため城を離れているみたいだけど、今日中には戻って来るそうなので一度会っておこう
 それにしても勇者ってどんな人なんだろう?
 きっとイケメンで、強くて誰にでも優しい頼れる男の人なんだろうなぁ
 そんな僕の甘い想像は、本人によって打ち砕かれることとなった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)
ファンタジー
サラは幼い頃から学ばなくても魔法が使えた。最近では思っただけで、魔法が使えるまでに。。。 精霊に好かれる者は、強力な魔法が使える世界。その中でも精霊の加護持ちは特別だ。当然サラも精霊の加護持ちだろうと周りから期待される中、能力鑑定を受けたことで、とんでもない称号がついていることが分かって⁉️ 私が精霊王様の母親っ?まだ、ピチピチの10歳で初恋もまだですけど⁉️

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...