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妖精たちのお留守番1

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 人間の国、ラーマイン、開拓された土地である風の街メローでひときわ大きな屋敷がある。そこに現在住んでいる者はいない。それなのに生活音が響くことがある
 実はここ最近とあるうわさが流れ始めていた
 この生活音、笑い声や食器のすれる音、楽し気に話す声など様々なのだが、笑い声を聞くと幸せが訪れるというものだった
 そのためか、屋敷はこの街の観光名所になりつつあった
 一番大きく、見た目も美しいため訪れる人が後を絶たない。これだけの豪邸であるにもかかわらず人が住んでいない、それなのにいつの間にか手入れがされている
 屋敷の主人はこの土地の開拓に多大な貢献をした5人の冒険者で、現在旅行に出ている。この街に観光に来た人々は街の住人にそう教えてもらうらしい
 それも観光する人が多い理由だ
 そんな観光客を屋敷内から見つめる小さな影がある
 彼らはこの屋敷の主人たちに仕える妖精だ
 種族はエインセル、かつて一度しか目撃例がない極めて希少な妖精たち
 しかし数が少ないというわけではなく、彼らは妖精、精霊以外には人見知りするのだ。そのため姿を隠す魔法を常に自分たちにかけている
 エインセルたちは屋敷の掃除を始めた。丁寧に床を掃き、ほこりを払い、家具を水拭きと乾拭きで磨く
 外では姿を隠したエインセルたちが落ち葉を掃除していた。しかしそれを認識できる者はいない。それも彼らの魔法の力であった
「リディエラ様たちが帰るまでこの屋敷を綺麗にしておくのです」
 そう言いだしたのはリーダーのカスミだ
 彼女はエインセルをまとめているしっかり者で、リディエラたちを崇拝している
 得意なのは風の妖精魔法で、エインセルたちの中でトップの実力を持っている
「はぁ、リディエラ様たちはいつお戻りになるのでしょうか」
 飾られている花瓶を丁寧に拭きながらため息をつくカスミ
 まるで恋焦がれる乙女のようだ
 それからエインセルのひとり、ゴーシュ。彼は変化の魔法を得意としており、人間に化けて買い出しに出ている
 妖精たちの食料を買い込むため一週間に一度街の商業区に行くのだ
 この街では姿を隠し、認知されてはいないので毎回姿をわざわざ変えている
 それは、静かに暮らしたいリディエラたちを守るためでもあった
 もし自分たちの正体が知れ、そこからリディエラたちの正体も知られてしまえばこの屋敷にはさらに人間が訪れ静かに暮らすことは難しくなるだろう
 それだけは絶対にあってはならないのだ。エインセルたちはそれをよく理解できていたので、今のところ誰も正体がばれていない
「よし、これだけ買っておけば一週間はもつはずだ。 それにしても、ここの物価は安くていいね」
 ホクホク顔で帰っていくゴーシュ
 実は彼は気づいていない。たくさん買えるのはその甘いマスクゆえだということを
 店側は彼の容姿におまけをしてくれていたのだ
 彼の化ける人間は男性型にしろ女性型にしろ非常に見目麗しい。見る人の目を引くのだ
 当然彼を見ていたいがため後をつける人も出てくるが、彼の妖精魔法の幻惑効果によって絶対に尾行はできない
 屋敷に住む妖精の数は十人、ゴーシュが買い出しに行った食料の量では通常の人間ならば一人で2日しかもたない
 しかし、食料が少量で済む妖精たちならばたったこれだけの量で一週間もつのだ
 だから買い出しも週一回、両の手で持てるほどしか買わないのである
 このように、妖精たちは平和に、リディエラたちの屋敷を守っていた
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