上 下
17 / 1,022

獣人の国11

しおりを挟む
 あたりはすっかり暗くなっていたけど、月明かりと魔法の明かりで道は照らされていた
 周りの森林は真っ暗なせいか少し不気味に感じる。時折姿を見せる野生の神獣たちがまるで護衛のようについてきてくれているので怖さは全くなかったよ
 中でもヒポグリフは夜行性ではないにもかかわらずずっと付き添ってくれている。まるで僕ら専属の護衛のようですごく頼もしい
 しばらく森の中の街道を歩いていると梟のような声がそこかしこで響き始めた
 ヒョーヒョーと響き渡るその声はまるでつかみどころがなく、幻聴のように聞こえる
 右で聞こえたかと思えば上に移り、左、右斜めと移動する。かと思えば森全体に聞こえることもあり、一匹なのか複数なのかもわからない
 しばらくその声が響いていたけど段々と止んで、ついに目の前で一匹が鳴いているだけとなった
 見上げると、木の上に何かがいる。その二つの瞳が光りこちらを見ていた
「あれってもしかして」
「セルズクですね~、どうやら私たちを歓迎しているみたいですよ~」と、鳥に詳しいフーレンが答えた
 姿を現したセルズクは小さい、手のひらに乗るサイズだろう
 フワッと僕の肩に降り立つと目を細めて頬ずりし始めた。可愛い!!
 まるで僕を親のように慕っているので不思議に思っているとフーレンが笑いながら教えてくれた
「実はですね~、その子、私の眷属なんですよ~」
 驚いた。どおりであまりにも懐くと思ったよ。というか鳥系の神獣や幻獣は皆眷属なんだそうだ。さすが風の精霊
 なかなか見られないことで有名なユニコーンもセルズクも見れたし、本当にここに来てよかったと思う
 夜も更けてきたのでその日は公園内にある宿泊施設にて一泊することにした
 この施設、申請すればおとなしい小動物と一緒に寝ることも可能なのだ
 これはもう申請するしかない。もちろん申請したのはセルズクで、施設の人も常連も観光客もみんなものすごく驚いていた
 セルズクが人前に出るのももちろんのことだけど、それが僕の肩に止まってスリスリしているのだ。そりゃ誰もが口をあんぐり開けるよね
 一応神獣なので手続きに時間がかかったけど無事申請は通った
 一緒に寝れると僕は飛び跳ねて喜んでしまい、それを周りに見られてしまったのが結構恥ずかしかった
 その日のご飯はこの土地で取れる野菜やお肉を使った料理
 マンドラゴラのスープやロック鳥の串焼き、エアロワイバーンのステーキにプリズム草という草を巻いたものなど、結構豪勢な夕食だった
 おなか一杯食べ、皆で温泉に浸かると急激に眠くなってきちゃった。精神生命体とはいえ体は子供なので、本当なら寝ている時間だからしょうがない
 ウトウトしているとエンシュが僕を運んで部屋に連れて行ってくれたみたい
 そっとベッドに降ろされると夢の中へ夢の中へと心地よく落ちていった

 翌朝、騒がしい喧噪の中目が覚めた
 何やら危険地区の方で問題が起こったみたいだ
 僕らは急いで荷物をまとめて着替えると外に出て周りを見る
 そこには施設の職員と公園の管理人たち、そしてベテランそうな冒険者が数名集まっていた
 話を聞くと、危険地区からキメラの亜種が脱走し、幻獣地区で大暴れしているのだそうだ
 通常のキメラならCランクなので幻獣地区の職員でも十分対処できるらしいけど、今回飛び出したのは亜種だ
 そのランクはAランク相当になるらしい
 亜種と通常種でここまで力に差があるのは珍しいらしく、突然変異したものだと職員さんは言っていた
 現在公園内にいるAランクの職員は数人で、キメラがあけた穴から危険な魔物や魔獣、幻獣が出ないよう対処しているようで、キメラに手が回っていない
 だから優秀な冒険者を募っているようだ
 命の危険もあるのでランクは当然A~Sランクだ
 ただ、今ここに観光に来ている冒険者は最高でもBランク、歯が立たないのは明らかだった。そう、僕たちを除いてね
 僕らなら止められる
 最上位精霊の僕たちはSランクなんて枠組みから逸脱しているからね。それこそランクで言えばSSランク?相当の力を持っているのですよ。多分・・・
 当然キメラの亜種くらい簡単に制圧できる
 でも今幻獣地区に行けるのは職員とAランク以上の冒険者のみ。だから僕らは誰にも見えないところで元の精霊の姿に戻った
 そう、精霊を崇拝し、共に生きるこの世界なら精霊がこういった事態を解決しても問題ないはず
 変化を解くとそのまま職員たちが固まっている場所に降り立った
 あたりは当然騒然としたけどそんなことに構っている暇はない
「みなさん、キメラはどこですか? 私たちが鎮圧してきます」
 テュネの問いに職員は「精霊様が!? それは頼もしいです! ついてきてください」と答えた
 僕らはその職員について行く
 最上位の四大精霊と精霊王女が対処するということで、みんな安心しきった顔をしている
 彼らのため、この公園の動物たちのためにも頑張らないとね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

私がいつの間にか精霊王の母親に!?

桜 あぴ子(旧名:あぴ子)
ファンタジー
サラは幼い頃から学ばなくても魔法が使えた。最近では思っただけで、魔法が使えるまでに。。。 精霊に好かれる者は、強力な魔法が使える世界。その中でも精霊の加護持ちは特別だ。当然サラも精霊の加護持ちだろうと周りから期待される中、能力鑑定を受けたことで、とんでもない称号がついていることが分かって⁉️ 私が精霊王様の母親っ?まだ、ピチピチの10歳で初恋もまだですけど⁉️

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

処理中です...