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タルニャ5

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 目が覚めたタルニャ
 周りを見回し、どこかの部屋にいることを理解し、そして体を起こそうと手足を動かす
 そこで違和感に気づいた
「え? あれ? わたくしの、腕が」
 本来あるはずの場所に腕がない
 それどころか
「あ、ああ、そんな、足、わたくしの足と腕が!」
 タルニャはだるま状態でベッドの上に寝かされていた
 ショックと混乱の中何かが部屋にいるのが分かった
「あ、う、だ、誰ですの!? わたくしの体を、元に戻しなさい!」
 恐らく無理であろうことは分かっている
 しかしそう叫ばなければ心が壊れてしまいそうだった
「目が覚めたのか、お前はこれから私のおもちゃとして生きてもらう」
 そこにいたのは人かどうかも分からない謎の男
 男はニタリと笑い、タルニャから切り取った手足を見せる
「これは邪魔だったからな。取っておいた。これからのお前に必要はないからな」
「あ、あああああああ!! わたくしの、手足を!! そんな、なぜ、あなたはなんなのです! ここは迷宮、あなたのような人が入れるような場所でぐっ」
「うるさいぞ小娘、おもちゃが意見するな。話すな。お前はただ俺のやることに悲鳴だけ上げていればいい」
「ひっ」
 自信のこれから待ち受けている運命を悟るタルニャ
 しかし
「わたくしは屈しません! 貴方のような非道の輩に、心まで支配されたりするものですか!」
「気の強いガキだが、最初は皆そういうんだ。だがだんだんと心が壊れ、死を乞うようになる」
 そしてその日から、おぞましい拷問が始まった
 男はどうやら苦痛に歪む顔、悲鳴が好きなようで、タルニャの泣き顔を特に喜んでいた
 
 そして数週間が経過した
 それでもなおタルニャは折れない
 フィオナやミア、仲間たちを思い出し、その度に気力を、心を奮い立たせた
 そのおかげなのか、不思議なことが起こった
 亡くなったはずの手足の感覚が戻ってきている
 拷問の合間のことだが、その手で何かを掴めた気もした

 一か月後
 タルニャは感覚を頼りに見えない手足を自由に動かせるようになっていた
 男が笑いながらタルニャを切り刻んでいる中、その不可視の手で、男の首を掴んで投げ飛ばし、不可視の足で立ち上がると、男の腹部をその腕で刺し貫いた
「ぐぶぅうう! 見事・・・」
 最後に男は賞賛し、消えた
「消え・・・。やはり人族では、なかった?」
 男を倒したことで自信の変化にようやく気付く
 なくなったはずの手足が元通りになっており、あれだけあった傷もなかった
「これは、幻惑? もしかしてわたくし、幻惑に取り込まれていたんですの?」
 憔悴しきっていたはずの心と体も今は問題ない
 先ほどのことはまるで夢のような記憶としてだけ残っていた
 だが
「こ、これは」
 あの不可視の手足が使えるようになっていた
 それだけが、あの出来事が惑乱や幻惑の類ではないことを示していた
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