猫になったから気ままに暮らしたい

異変3

　しばらく沈黙が流れる
　でも意を決したようにフィオナちゃんは声を出した
「勇者がどういうものか分からないけど、もしみんなが危険な目に合うなら、私は助けたい」
　それだけ言って、フィオナちゃんはポロポロと涙を流し始める
「でも、お父さんはお父さんだよ。私のお父さんは覚えてないお父さんじゃなくて、ずっと育ててくれたターナーお父さんだもん」
「・・・。フィオナ」
　ターナーさんはフィオナちゃんをスッと抱きしめる
　うんうん、ちゃんと親子だよ君たちは
「そうと決まればだね。早速フィオナちゃんには勇者としての心得をだね」
「今はまだいいだろうティティス」
「明日からだね」
　フィオナちゃんこれから大変そう・・・
　そんなことを思っていたら、村に置いてきた私の分体から危険信号が発信された
　どうやら帝国騎士っぽいのが村に向かってきてるみたい
「んなお！」
　私は下に置いてもらっていたクッションから飛びのくと、そのまま走り出した
「あ、ミア！　もう遅いのにどこいくの！」
「猫は夜行性なんだ。行かせてやろう」
「そっか」
　まあそう言うことで、私は外に出て路地裏に入ると、村に転移した

　ピュンと村に現れると、目の前に分体の黒い子がいた
「どこ！？」
　黒い子は私と再び同化する
　それによって彼女が見た映像が頭の中に反映された
　彼女にはこの村の周囲十キロまでを警戒させていた
　それくらいなら彼女の探知能力で村にいながら出来るからね
　その結果、今現在こちらに向かってきている騎士たちが引っかかったってわけだ
「もうみんな寝る頃に奇襲をかけるつもりだな。誰も傷つけさせないよ」
　私は騎士たちが来ている方向に走ると、馬でかけて来る帝国騎士の姿が見えてきた
　ああやっぱりだ。殺気がすごい。村人を全滅させる気だ
　頭に血が上って怒りがこみあげて来る
　私や、私の周りの平和を乱す者を私は許さない
　騎士の前に私は立ちはだかった
「なんだ、猫か？」
「あ！　こいつですよ！　我らに変な魔法をかけたのは」
「あの村で飼われているのか？　まあいい、殺せ」
「ハッ！」
　騎士の一人が槍で私を突こうとするけど、その槍を軽く避けてそいつの顔を猫パンチではたいた
　バゴンと金属がへこむ音がしてそいつは馬から転がり落ちて動かなくなる
　多少強くたたいたけど殺してはないよ。気絶させただけ
「な！？　猫がこれほどの力を？　魔物かもしれん。用心しろ」
　隊長らしき男が部下達に指示を出し、自分も剣を抜いて馬から降りる
　なるほど、部下に指示を与えつつちゃんと自分でも戦おうとしてるのは評価できる
　でも、罪のない村の人達を殺そうとしてるのはいただけないね
「やれ！」
　ボッコボコにしてやる！
　次から次へと槍やら剣やらが私を殺そうと迫るけど、持ち前の動体視力と瞬発力で、最小限の動きで避ける
「何だこの猫。やはり変だぞ」
　動きがほとんど瞬間移動だからね
　私はこいつらの攻撃の隙を縫ってボコンボコンと鎧兜をへこませるほどの猫パンチをお見舞いしていく
　数分後、帝国騎士は隊長を残して全滅した
「ハァハァ、ハァハァ、なんなんだお前は！　何故我らの邪魔をする！」
「村の人達を殺すつもりでしょ。そんなことさせない」
「な！？　喋った、だと？　ただの猫ではないと思っていたが、しゃべる猫とはな・・・。これは皇帝に良い土産ができそうだ」
「私を倒せるつもりでいるの？」
「ああ当然そのつもりだ。アクセル！」
　え？　消えた
　後ろに気配。剣が迫る音が聞こえた
　直後にお腹から背中にかけて鈍い痛みが走って息ができなくなる
「かふっ」
「アクセル！」
　また見えなくなる。なに、この力
　息ができないけど次の攻撃をよけなきゃ、気を失いそう
　またしても死角から剣が迫る
　殺す気はないようで、剣の腹で殴る感じ
　今度は何とかよけた
「っち、これを避けるか。アクセル！」
　今度は高速で動く前にとびかかり、思いっきり頭にパンチを叩きつけた
「ぶぐあ！」
　きりもみして飛んでいく隊長
　ハァハァ、なんとか、倒せたけど、なんだったんだろう今の力は
　アクセルとか叫んでたなぁ
　鑑定で隊長を見てみると、スキルという欄があって、そこにアクセルというものがあった
　なるほどスキル。私のバステト様からもらった能力とは違って、ヒト族が努力して身に着けるものみたい
　それにしても、疲れたよ
　なんかお腹すごく痛いし
　取りあえず帝国騎士たちを魅了状態にしておいて、それから、あ、だめだ、意識が
　私は転移でフィオナちゃんが泊ってる宿近くに出しておいた分体に飛んで、そのまま気を失ってしまった