31 / 35
第一章
28話 真実(リオ視点)
しおりを挟む
頭をさげる彼の拳は、ギュッと握りしめられている。
謝る言葉が少しゆっくりなのは、彼の誠意の気持ちを表しているのだろう。
以前の俺なら、それでも怒ったかもしれない。
「正直に言うと、貴方に会ったら文句の一言ぐらいは言おうかと思ってた。けど、今は貴方にも沢山の事情があるのだと、何となくですが察しています」
過去は覆せない。
だけど、この国に来て沢山の事を感じ取った。
リアナスタ王国との戦いで大事な人を失った国民たちが、前を向こうとする健気な笑顔を見た。
自分の痛みを他人への優しさに変えている姿を見て、胸を打たれた。
国民を守る役人や軍人が、真摯に彼らに寄り添う姿を見た。
皆が、自分を律して職務に励んでいるのだと思った。
役人は上に立つ者の姿勢を見て、それを模範とする。
その最な代表格はアルザスト元帥で、仕事における彼はきっと人格者だろう。
今も分かるように、責めを負う覚悟が出来る人だ。
会った時からアルザストさんの瞳には申し訳なさの色が見てとれた。
何故ツルギを戦争に参加させて、陽動をさせるほどに頼った?
イシエール共和国の独立にこだわった理由は気になる。
ただ、もっと知りたい事がある。
「だから、俺は貴方の気持ちにつけ込む。アルザストさんから、本当の事が知りたい。答えてくれませんか?」
「・・・分かりました。私が答えれるものなら聞いてください」
姿勢を正したかのようなアルザストさんの静かな眼差しを受けながら、一番聞きたかった質問をぶつける。
誠意ある彼なら答えてくれるだろうか。
「――ツルギは生きてますよね?」
単なる願望じゃない。
治癒院で目覚めてから、ずっと考えてたどり着いた結論だ。
「彼の葬儀は私が執り行いました」
淀みなく彼は応えるが、表情を抑えているのが分かる。
「死んだとは明言しないのですね。これは願望でなく、確信を持っての言葉だ。答えてほしい、お願いします!」
本当はカマもかけてる。
だけど、確率としては低くないはずだ。
「・・・何故、そう思うのか聞いてもいいですか?」
答えるか迷っているのかもしれない。
そんな奇跡が起こるはずないと、ここで否定すればいいのに律儀な人だ。
「イルグンド将軍と戦いました。彼はツルギに致命傷を与えたと言っていましたが、殺したとは言わなかった。そして、彼はある不思議な力を使い、ツルギも同じ力を使っていたと言いました。俺も使う事が出来るようになったから、その力に癒しの効果があると知っています。あの力があるツルギなら・・・即死でなければ死ぬのを免れたはずだ」
俺の力は、そこまで強力じゃない。
ただ、ツルギならもっと上手く使える気がしているだけだ。
「?!」
アルザストさんの隠しきれない動揺が分かる。
この結論に至るまでヒントは沢山あった。
サトコさんのあの目は、ツルギを回想するにしても鮮明な色が濃く、最近ツルギとの間に何かあったんじゃないかと感じた。
そして、彼女は最近別国で誘拐される所を助けられたと言っていた。
ツルギが彼女を助けたとしたら、アルザストさんへの紹介状を渡したのかもしれないと思ったんだ。
イシエール政府にニホン人に関わる部署がある理由も、アルザストさんとツルギの関係を考えたら納得だ。
確実性がないけど、どれか一つぐらいは当たっていると思う。
サトコさんにその答えを聞ける心理状態じゃなかったから、確認は取れなかった。
この結論が出た時、ツルギは死んだふりをして俺から距離をとっているのだと悟った。
故意的に連絡をとらないのだと。
それを知って、俺は・・・確実な回答を持っているのは、この人しかいない。
「リオ君は不思議な力と言いましたね?見せて貰う事は可能でしょうか?」
アルザストさんは、考え込むような表情を浮かべている。
単に見せるのは簡単だ。
だけど、ある程度使いこなしている事を示すべきかもしれない。
そう思い、肘の半ばほどから右手にかけての部分に発動させた。
今の俺の操作練度だとこの程度でしかないが、ある程度操作出来る事は伝わっただろうか?
彼は俺の熱を纏った手を見て、酷くショックを受けた。
後悔と絶望に近い・・・不吉な事が起こったと言うような顏。
「そんな!何て事だ・・・!!」
額に手を当てながら下をうつむいて、言葉が出てこないように見える。
かなり動揺して、苦しむような表情で落ち込んでいる。
どうゆう事だ?
動揺の仕方が予想と違う。何か違和感を感じる。
ツルギの生存がバレる事より、俺の力に問題があると言うような・・・そうゆう感情が伝わってくる。
アルザストさんは、首を横に振ったりと随分悩まし気だった。
かなりの間黙っていたが、何かを覚悟したように頭をあげた。
感情に揺さぶられている瞳で俺を見て、切な気な表情で口を開く。
「――黙っていて申し訳ありませんでした・・・ツルギは生きています」
何と言葉にすれば分からなかった。
心の準備はしてきたはずなのに。
安堵なのか?
喜びなのか?
心配?
自分の気持ちが分からない。
感情が渦巻いて自分を止められなかった。
「ぅう・・ぅ、ううあああ!」
涙を落としながら思い浮かべるのは、危険から俺を遠ざけようというツルギの不器用で優しい苦悩。
無性にあの酔っぱらいに腹がたつ。
勝手に決めて!何故、別れの一言もないんだ!
「う、っ・・・あ、いつ・・・ばか、だ・・っ・・・絶対―――なぐってやるッ!!」
必ず殴ってやる、ふざけるな・・・!
「ええ・・・君にはその権利がありますよ」
そうだった。
この人に泣いてる姿を見られていた。
彼は申し訳なさそうに、何かかける言葉を探している。
「本当に、貴方を苦しめてすみませんでした」
彼の言葉に答えたくても、今は涙を止められそうにない。
俯きながら、言葉の代わりに涙が溢れる。
ここ二年、失っていたものの大きさを、あいつはそれを分かっていない。
「っう・・う、ぅ・・・っ」
複雑そうな、けれど優しい視線を感じた。
「恥ずかしい所を見せて・・・すみません」
深呼吸をして、少し落ち着きを取り戻せた。
アルザストさんに情けない姿を見られて気まずい。
「いえ、私が原因なのですから。気にしないで下さい。ツルギとリオ君の絆は強いのだと改めて思いました。貴方から見て、彼はどんなイメージなのですか?」
難しい質問だ。
少し考えてから、俺の気持ちを素直に言葉にする。
「・・・情けない大人で面倒くさい時が多いけど、真っ直ぐで、優しくて繊細だと思います。本人は隠しているつもりだけど、強がりで寂しがり屋で放っておけない。あと、過保護です」
「ふふ、私も同感です。ですが、過保護とはどのようにでしょうか?」
「これに気をつけろと言われる事が、とにかく多かった。意味の分からない注意もありました。知らない奴らの前では極力フードをかぶれ、初対面で相手を見つめるな、女と特殊な趣味の男にも気をつけろ・・・どうゆう事か分からないと言ったら、とりあえず連れてこいと」
「それは愛が重・・・いえ、愛されてたのですね」
彼は呆れるような表情をしてから、微笑みを向けてくる。
「他がどうなのかは知らないけど・・・そう、だと思います」
視線を下げ、思わず少し口元が緩んでしまう。
すぐにハッとして頭を上げたら、アルザストさんが生温かい眼差しで微笑んでいた。
ツルギを知る彼だからか、一緒に話していると気が緩んでしまうんだろう・・・忘れてほしい。
「戦っている姿は鬼人のようだったと部下が噂していましたが、随分と印象が違います。ツルギの言うように可愛いらしい・・ふふ」
アルザストさん、嬉しそうに笑っているな。
少し雰囲気が砕けてるし、素を見せ始めているんだと思う。
鬼人・・・もしかして、やたら軍人に怖がられてたのは、それのせいか?
ツルギは酒を飲むと、頬ずりしたり愛情表現が鬱陶しいぐらいで、とにかく俺を子供扱いして可愛いがりたがった。
あの酔っ払いの事だから、アルザストさんに、その・・俺の事を語っていたんだろう。
彼に絡んで、絶対に迷惑かけてるはずだ。
ツルギが思うより、自分に可愛げな要素があるなんて思えないけど・・・子供というだけで可愛く思っていたのかもしれない。
その気持ち自体は、嫌じゃないけどな。
うざ絡みが酷くなりそうだから、絶対にツルギには言わない。絶対に。
「戦時は、気が張っていました。その印象かもしれない。あと、ツルギの話は盛ってるというか・・忘れて下さい」
「ップ!盛ってる!確かに大げさな所はありますね!さんざん聞かされたので、忘れるのは無理です、ふふ・・・そうですね。確かに、戦争で気が張らない人などいません。部下達も場の空気に飲まれ、恐ろしく感じたのかもしれませんね」
少し吹き出して、何か思い出して笑うアルザストさんは楽し気で、嫌な思いはしていなかったみたいで良かったけど、俺が恥ずかしい。
あいつ、何の嫌がらせだ。
戦場の俺についての言葉に、彼は納得しているみたいだ。
実際は怒りをぶつけたくて戦っていたから、本当に怖かったのかもしれないけど、そこは言わないでおく。
「俺があの力を使った時に、何故あんな反応をしたんですか?」
今、一番気になる事を質問だ。
さっきのアルザストさんの反応は、予想外だった。
「ツルギは貴方にその力に触れて欲しくなかった。それが、ツルギが姿を消した理由の一つなのです。まさかイルグンド将軍から・・・因果とは恐ろしいものですね」
彼は腕を組み、目を閉じてため息を吐く。
額に手を当てて、参ったとでも言うかのような表情。
「知られたくなかったという事ですか?」
イルグンドとの関わりがなければ、こうやってツルギの秘密までたどり着く事は出来なかった。
俺にとっては過去と今を繋げる存在だけど、彼にすればイレギュラーだろう。
「それもありますが、その力を使えるようになって欲しくなかったという意味です。イルグンド将軍の力に触れて、使えるようになったのでしょう?だから、触れられたくなかったという事です。ツルギはその力、正しくは少し違うのですが、それを隠してきました。ですが、今は頼らさざるを得ない・・・そんな状況です。私はツルギに頼るばかりで、本当に情けない男だ」
確かに力そのものに触れて使えるようになった。
だけど、俺が遠ざけられた理由としては何か違和感というか、欠けている気がする。
それに、ツルギが隠してきたもの・・・どちらかというと、使いたくなかったものという表現が近いのか?
アルザストさんが自嘲のような笑いを浮かべているけど、ツルギに頼っていると言うのなら、イシエール共和国のトップというだけでは出来ない、或いは国単位だからこそ動けない、どちらかだろうか?
「リオ君を危険に巻き込みたくない、というのがツルギの願いです。死んだ事にしないと追ってくるかもしれないと心配していたのです。リオ君は彼の拠り所ですから。貴方がいなければ、狂っていたかもしれないと本人も呟いていました。それほどまでに、彼にとって大事な存在なのです」
確かに、ツルギは精神的に不安定な所があった。
だけど、狂う?
いつもダラダラしてたから、全く想像がつかない。
時折辛そうな顔をしてる事があって、それは気になっていた。
そうゆう日は決まって酒を飲んで・・・それと関係しているのか?
ああゆう寂しそうな顏をするから、面倒くさくても酔っぱらうツルギの話し相手をしていた。
本当に面倒くさかったけど、それ以上に心配だったから。
「・・・」
「ただ・・・ツルギの友人として言うなら、追いかけてほしい。貴方自身のためにも、危険をはね除ける力をつけて助けてあげて欲しい!ツルギは強いですが、精神的にはそこまで強くない。一人ではいつか限界がくる事を本人も自覚しているはずです。彼は貴方を遠ざけていますが、どこかで貴方を待っているんじゃないかと私は思っています」
「待っている・・・」
謝る言葉が少しゆっくりなのは、彼の誠意の気持ちを表しているのだろう。
以前の俺なら、それでも怒ったかもしれない。
「正直に言うと、貴方に会ったら文句の一言ぐらいは言おうかと思ってた。けど、今は貴方にも沢山の事情があるのだと、何となくですが察しています」
過去は覆せない。
だけど、この国に来て沢山の事を感じ取った。
リアナスタ王国との戦いで大事な人を失った国民たちが、前を向こうとする健気な笑顔を見た。
自分の痛みを他人への優しさに変えている姿を見て、胸を打たれた。
国民を守る役人や軍人が、真摯に彼らに寄り添う姿を見た。
皆が、自分を律して職務に励んでいるのだと思った。
役人は上に立つ者の姿勢を見て、それを模範とする。
その最な代表格はアルザスト元帥で、仕事における彼はきっと人格者だろう。
今も分かるように、責めを負う覚悟が出来る人だ。
会った時からアルザストさんの瞳には申し訳なさの色が見てとれた。
何故ツルギを戦争に参加させて、陽動をさせるほどに頼った?
イシエール共和国の独立にこだわった理由は気になる。
ただ、もっと知りたい事がある。
「だから、俺は貴方の気持ちにつけ込む。アルザストさんから、本当の事が知りたい。答えてくれませんか?」
「・・・分かりました。私が答えれるものなら聞いてください」
姿勢を正したかのようなアルザストさんの静かな眼差しを受けながら、一番聞きたかった質問をぶつける。
誠意ある彼なら答えてくれるだろうか。
「――ツルギは生きてますよね?」
単なる願望じゃない。
治癒院で目覚めてから、ずっと考えてたどり着いた結論だ。
「彼の葬儀は私が執り行いました」
淀みなく彼は応えるが、表情を抑えているのが分かる。
「死んだとは明言しないのですね。これは願望でなく、確信を持っての言葉だ。答えてほしい、お願いします!」
本当はカマもかけてる。
だけど、確率としては低くないはずだ。
「・・・何故、そう思うのか聞いてもいいですか?」
答えるか迷っているのかもしれない。
そんな奇跡が起こるはずないと、ここで否定すればいいのに律儀な人だ。
「イルグンド将軍と戦いました。彼はツルギに致命傷を与えたと言っていましたが、殺したとは言わなかった。そして、彼はある不思議な力を使い、ツルギも同じ力を使っていたと言いました。俺も使う事が出来るようになったから、その力に癒しの効果があると知っています。あの力があるツルギなら・・・即死でなければ死ぬのを免れたはずだ」
俺の力は、そこまで強力じゃない。
ただ、ツルギならもっと上手く使える気がしているだけだ。
「?!」
アルザストさんの隠しきれない動揺が分かる。
この結論に至るまでヒントは沢山あった。
サトコさんのあの目は、ツルギを回想するにしても鮮明な色が濃く、最近ツルギとの間に何かあったんじゃないかと感じた。
そして、彼女は最近別国で誘拐される所を助けられたと言っていた。
ツルギが彼女を助けたとしたら、アルザストさんへの紹介状を渡したのかもしれないと思ったんだ。
イシエール政府にニホン人に関わる部署がある理由も、アルザストさんとツルギの関係を考えたら納得だ。
確実性がないけど、どれか一つぐらいは当たっていると思う。
サトコさんにその答えを聞ける心理状態じゃなかったから、確認は取れなかった。
この結論が出た時、ツルギは死んだふりをして俺から距離をとっているのだと悟った。
故意的に連絡をとらないのだと。
それを知って、俺は・・・確実な回答を持っているのは、この人しかいない。
「リオ君は不思議な力と言いましたね?見せて貰う事は可能でしょうか?」
アルザストさんは、考え込むような表情を浮かべている。
単に見せるのは簡単だ。
だけど、ある程度使いこなしている事を示すべきかもしれない。
そう思い、肘の半ばほどから右手にかけての部分に発動させた。
今の俺の操作練度だとこの程度でしかないが、ある程度操作出来る事は伝わっただろうか?
彼は俺の熱を纏った手を見て、酷くショックを受けた。
後悔と絶望に近い・・・不吉な事が起こったと言うような顏。
「そんな!何て事だ・・・!!」
額に手を当てながら下をうつむいて、言葉が出てこないように見える。
かなり動揺して、苦しむような表情で落ち込んでいる。
どうゆう事だ?
動揺の仕方が予想と違う。何か違和感を感じる。
ツルギの生存がバレる事より、俺の力に問題があると言うような・・・そうゆう感情が伝わってくる。
アルザストさんは、首を横に振ったりと随分悩まし気だった。
かなりの間黙っていたが、何かを覚悟したように頭をあげた。
感情に揺さぶられている瞳で俺を見て、切な気な表情で口を開く。
「――黙っていて申し訳ありませんでした・・・ツルギは生きています」
何と言葉にすれば分からなかった。
心の準備はしてきたはずなのに。
安堵なのか?
喜びなのか?
心配?
自分の気持ちが分からない。
感情が渦巻いて自分を止められなかった。
「ぅう・・ぅ、ううあああ!」
涙を落としながら思い浮かべるのは、危険から俺を遠ざけようというツルギの不器用で優しい苦悩。
無性にあの酔っぱらいに腹がたつ。
勝手に決めて!何故、別れの一言もないんだ!
「う、っ・・・あ、いつ・・・ばか、だ・・っ・・・絶対―――なぐってやるッ!!」
必ず殴ってやる、ふざけるな・・・!
「ええ・・・君にはその権利がありますよ」
そうだった。
この人に泣いてる姿を見られていた。
彼は申し訳なさそうに、何かかける言葉を探している。
「本当に、貴方を苦しめてすみませんでした」
彼の言葉に答えたくても、今は涙を止められそうにない。
俯きながら、言葉の代わりに涙が溢れる。
ここ二年、失っていたものの大きさを、あいつはそれを分かっていない。
「っう・・う、ぅ・・・っ」
複雑そうな、けれど優しい視線を感じた。
「恥ずかしい所を見せて・・・すみません」
深呼吸をして、少し落ち着きを取り戻せた。
アルザストさんに情けない姿を見られて気まずい。
「いえ、私が原因なのですから。気にしないで下さい。ツルギとリオ君の絆は強いのだと改めて思いました。貴方から見て、彼はどんなイメージなのですか?」
難しい質問だ。
少し考えてから、俺の気持ちを素直に言葉にする。
「・・・情けない大人で面倒くさい時が多いけど、真っ直ぐで、優しくて繊細だと思います。本人は隠しているつもりだけど、強がりで寂しがり屋で放っておけない。あと、過保護です」
「ふふ、私も同感です。ですが、過保護とはどのようにでしょうか?」
「これに気をつけろと言われる事が、とにかく多かった。意味の分からない注意もありました。知らない奴らの前では極力フードをかぶれ、初対面で相手を見つめるな、女と特殊な趣味の男にも気をつけろ・・・どうゆう事か分からないと言ったら、とりあえず連れてこいと」
「それは愛が重・・・いえ、愛されてたのですね」
彼は呆れるような表情をしてから、微笑みを向けてくる。
「他がどうなのかは知らないけど・・・そう、だと思います」
視線を下げ、思わず少し口元が緩んでしまう。
すぐにハッとして頭を上げたら、アルザストさんが生温かい眼差しで微笑んでいた。
ツルギを知る彼だからか、一緒に話していると気が緩んでしまうんだろう・・・忘れてほしい。
「戦っている姿は鬼人のようだったと部下が噂していましたが、随分と印象が違います。ツルギの言うように可愛いらしい・・ふふ」
アルザストさん、嬉しそうに笑っているな。
少し雰囲気が砕けてるし、素を見せ始めているんだと思う。
鬼人・・・もしかして、やたら軍人に怖がられてたのは、それのせいか?
ツルギは酒を飲むと、頬ずりしたり愛情表現が鬱陶しいぐらいで、とにかく俺を子供扱いして可愛いがりたがった。
あの酔っ払いの事だから、アルザストさんに、その・・俺の事を語っていたんだろう。
彼に絡んで、絶対に迷惑かけてるはずだ。
ツルギが思うより、自分に可愛げな要素があるなんて思えないけど・・・子供というだけで可愛く思っていたのかもしれない。
その気持ち自体は、嫌じゃないけどな。
うざ絡みが酷くなりそうだから、絶対にツルギには言わない。絶対に。
「戦時は、気が張っていました。その印象かもしれない。あと、ツルギの話は盛ってるというか・・忘れて下さい」
「ップ!盛ってる!確かに大げさな所はありますね!さんざん聞かされたので、忘れるのは無理です、ふふ・・・そうですね。確かに、戦争で気が張らない人などいません。部下達も場の空気に飲まれ、恐ろしく感じたのかもしれませんね」
少し吹き出して、何か思い出して笑うアルザストさんは楽し気で、嫌な思いはしていなかったみたいで良かったけど、俺が恥ずかしい。
あいつ、何の嫌がらせだ。
戦場の俺についての言葉に、彼は納得しているみたいだ。
実際は怒りをぶつけたくて戦っていたから、本当に怖かったのかもしれないけど、そこは言わないでおく。
「俺があの力を使った時に、何故あんな反応をしたんですか?」
今、一番気になる事を質問だ。
さっきのアルザストさんの反応は、予想外だった。
「ツルギは貴方にその力に触れて欲しくなかった。それが、ツルギが姿を消した理由の一つなのです。まさかイルグンド将軍から・・・因果とは恐ろしいものですね」
彼は腕を組み、目を閉じてため息を吐く。
額に手を当てて、参ったとでも言うかのような表情。
「知られたくなかったという事ですか?」
イルグンドとの関わりがなければ、こうやってツルギの秘密までたどり着く事は出来なかった。
俺にとっては過去と今を繋げる存在だけど、彼にすればイレギュラーだろう。
「それもありますが、その力を使えるようになって欲しくなかったという意味です。イルグンド将軍の力に触れて、使えるようになったのでしょう?だから、触れられたくなかったという事です。ツルギはその力、正しくは少し違うのですが、それを隠してきました。ですが、今は頼らさざるを得ない・・・そんな状況です。私はツルギに頼るばかりで、本当に情けない男だ」
確かに力そのものに触れて使えるようになった。
だけど、俺が遠ざけられた理由としては何か違和感というか、欠けている気がする。
それに、ツルギが隠してきたもの・・・どちらかというと、使いたくなかったものという表現が近いのか?
アルザストさんが自嘲のような笑いを浮かべているけど、ツルギに頼っていると言うのなら、イシエール共和国のトップというだけでは出来ない、或いは国単位だからこそ動けない、どちらかだろうか?
「リオ君を危険に巻き込みたくない、というのがツルギの願いです。死んだ事にしないと追ってくるかもしれないと心配していたのです。リオ君は彼の拠り所ですから。貴方がいなければ、狂っていたかもしれないと本人も呟いていました。それほどまでに、彼にとって大事な存在なのです」
確かに、ツルギは精神的に不安定な所があった。
だけど、狂う?
いつもダラダラしてたから、全く想像がつかない。
時折辛そうな顔をしてる事があって、それは気になっていた。
そうゆう日は決まって酒を飲んで・・・それと関係しているのか?
ああゆう寂しそうな顏をするから、面倒くさくても酔っぱらうツルギの話し相手をしていた。
本当に面倒くさかったけど、それ以上に心配だったから。
「・・・」
「ただ・・・ツルギの友人として言うなら、追いかけてほしい。貴方自身のためにも、危険をはね除ける力をつけて助けてあげて欲しい!ツルギは強いですが、精神的にはそこまで強くない。一人ではいつか限界がくる事を本人も自覚しているはずです。彼は貴方を遠ざけていますが、どこかで貴方を待っているんじゃないかと私は思っています」
「待っている・・・」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる