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第一章
25話 成長
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「こんな子供・・・いえ、クズ野郎を入団させたのは間違いだったかも」
エルの顔面を思いっきり殴り、壁まで吹っ飛ばしたのはサリアだった。
仕事を紹介していた彼は、リオがこの二年間死線を掻い潜ってきた事をよく理解していた。
成長したいから仕事をこなしたいという想いを汲み取り、簡単な依頼を回した事は一度もない。
サリアにとって、命を懸けて仕事をこなす傭兵への侮辱は許せる事ではなかった。
エルは完全に意識を失っていた。
尋常じゃない殺気を放すサリアは熟練の、いやそれ以上の戦士だ。
その才能と経験により、若くして鋼の牙を立ち上げ名を知らしめた。
【鮮血の嵐】【死の踊り手】などと呼ばれる二つ名は、麗美な彼に似つかわしくないほど暴力的なもの。
その一撃をくらって、意識を失うだけで済んだのは幸いな方だ。
「――サリアさん」
ここで、リオが声をかけた。
「エルさんは傭兵のルールというより俺が気に喰わないようだ。皆が言って納得しないならば、俺が彼を納得させるために戦えばいい」
これには、この場にいる全員が驚く。
リオは本来殺し合いでしか剣を抜かないし、それ以外では基本的に温厚だ。
稽古では別だが、日常生活において自ら好戦的な姿勢は見せなかった。
その変化に皆が目を見張る。
「・・・リオ君どうしたの?心配しなくても、こいつには体で覚えさせるよ?」
ニコッと冷ややかに笑うその姿に、少し動揺しながら言葉を続ける。
「いや、そうなれば俺が恨まれる。日頃お世話になっているから協力したい気持ちもある。それに・・・」
間を置いてから、リオは覚悟を決めて口にした。
「サリアさんに守られるのは簡単だ。だけど、俺は一人前になりたい」
彼らの内部事情に首を突っ込んで、生意気な事を言っているのは理解していた。
だが、自分の成長を望むリオは真剣だった。
今までにない強い意志を込めてサリアを見つめる。
「・・・そんな純粋な目で見られちゃ断れないわよ。毒気抜かれちゃうぐらい眩しいわ。リオ君、頼んでいい?」
サリアは参ったとばかりに眉尻を下げる顔を見せるが、その唇は弧を描いている。
「ッサリアさん、ありがとう!」
リオは彼が自分の想いを認めてくれた事が嬉しかった。
そうと決まれば、やる気が漲る。
「必要なものを宿屋からとってくる!なるべく急ぐ!」
そうやって扉から出ていく後ろ姿を見ながら、一同はそれぞれの想いに馳せた。
「こうやって大人になっていくのね・・・複雑だわ」
「リオ、変わったねー」
「あの歳ぐらいの俺とは大違いだ・・・真っすぐ過ぎて心配になるぜ」
「応援してやりたくなるな」
サリアが肩の力をふっと緩め、リオを追っていた眼差しを元に戻すと、キックス、ロキは優しげな眼差しで扉を見つめ、ミリーは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
だが、視界に割り込んでくる、悪餓鬼が壁を背にだらんと伸びている光景に頭が痛んだ。
「ほんと、この猿に『爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい』わ」
「確かに」
「だな」
一人の鍛錬に限界を感じていたリオにとっては、鋼の牙のメンバーに客観的に自分の戦いを見てもらえる絶好の機会でもある。
そういう打算も含めて、リオは自分の成長に繋げたいと思って動いていた。
ある物を手に取り、全速力で戻る。
じりじりと真上から照らしていた太陽は西に少し傾き、迎える涼しい風によって髪が乱れるのを気にする事なく、リオは宿の入り口へと飛び込んだ。
「待たせた!」
「おかえり~!エルがね。今目覚めたところなんだけど、打撲してるみたいでさ」
談話室にはミリーだけがいて、椅子に座りながら机に腹をくっつけるようにして寛ぎ、最近はまっているらしい恋愛小説を読んでいた。
「・・・よく考えればそうなるよな。ミリーさん、教えてくれてありがとう」
サリアの暴力を喰らって、怪我をしないほうがおかしい。
リオは日を改めるか悩むが、ひとまずエルの様子を確認してからでもいいだろうと思い、様子を伺いにいく。
すると、キックスが一階の廊下に佇んでいた。
リオを気遣って待ってくれていたらしい。
「キックスさん、待たせてしまってすまない!今、戻った!エルさんの容態は?」
「今はロキが手当してる。顏が腫れて、かなりブサイクになってるぞ!ハハハ!」
「そうか・・・日を改めるしかないか」
「サリアも中にいるし、とりあえず中覗いてみるか?」
コンコンとノックを鳴らしながら、部屋の扉を開く。
そこには正座させられるエル、椅子に座って女王様の如く彼を見下ろすサリアの図があった。
ロキは部屋の隅で気配を消している。
これはどうゆう状況だと、リオは目をぱちくりさせる。
サリアが目線をあげ、こちらを見てきた。
それに合わせ、頬を腫らしたエルもこちらを向く。
「え?」
何故か彼は、助かった・・・という安堵の表情で、先程まで敵対心を向けていたはずのリオに懇願するような視線を投げ掛けてきた。
「おかえりなさい、リオ君。とりあえずの調教は終わったわ・・・この後は思いっきり戦ってもいいし、好きなようにしていいわよ」
(調教・・・知らないほうが良い事もあるよな)
勘に従い、それには触れない。
代わりに怪我の具合を尋ねる。
「あの、エルさん。怪我の具合はどうだ?俺は貴方に認められるように戦いたいと思っている。だけど、体調が万全でないなら無理しないで言ってくれ」
エルは負けず嫌いだ。
その心配の声も舐められていると感じるぐらいには。
「はあ?!俺の心配かよ!要望通り、戦ってやるよ・・・怪我して泣くのはお前だ!!」
いきなり彼の敵意が再浮上する。
「こういった試合は初めてなんだ。ただ、サリアさんに任せられた以上俺も全力でいく」
「本当に生意気な小僧ね?・・・まあ、いいわ。どこで試合してもらいましょうか」
そこで、気配を消していたロキが声をかけてくる。
「この地区の隅に少し開けた場所があるだろ?影が多くてやりにくいけど、広さ的にはちょうどいいと思うぞ」
「人気がないなら、俺は場所を選ばない」
リオが鋭い眼光でそう言う理由は傭兵の戦いに地形などは関係ないからだ。
つまり、本気の本気だった。
これにはエルが少したじろぐが、表情を作り直しフンと鼻を鳴らす。
「俺もそこでいいですよ!すぐにでも始めましょう!」
リオは、鋭く睨んでくる彼の勝気な姿に少し苦笑してしまう。
だが、一つ言いたい事があったのを思い出した。
「サリアさん達も出来るなら見に来てくれないか?俺は本気でやるけど、これは修行でもある。戦い方を客観的に駄目出しして欲しいんだ」
「へぇ」
この言葉に反応したのはサリアだった。
いつもの彼ではなく、鋭い視線をリオに向ける。
「その意気は買うわ。けど、私の採点は厳しいわよ?見せてもらいましょう」
戦いにおいて、彼は実力主義だ。
可愛がっている少年であれど、そこに私情を持ち出し、甘く扱う気はなかった。
エルの顔面を思いっきり殴り、壁まで吹っ飛ばしたのはサリアだった。
仕事を紹介していた彼は、リオがこの二年間死線を掻い潜ってきた事をよく理解していた。
成長したいから仕事をこなしたいという想いを汲み取り、簡単な依頼を回した事は一度もない。
サリアにとって、命を懸けて仕事をこなす傭兵への侮辱は許せる事ではなかった。
エルは完全に意識を失っていた。
尋常じゃない殺気を放すサリアは熟練の、いやそれ以上の戦士だ。
その才能と経験により、若くして鋼の牙を立ち上げ名を知らしめた。
【鮮血の嵐】【死の踊り手】などと呼ばれる二つ名は、麗美な彼に似つかわしくないほど暴力的なもの。
その一撃をくらって、意識を失うだけで済んだのは幸いな方だ。
「――サリアさん」
ここで、リオが声をかけた。
「エルさんは傭兵のルールというより俺が気に喰わないようだ。皆が言って納得しないならば、俺が彼を納得させるために戦えばいい」
これには、この場にいる全員が驚く。
リオは本来殺し合いでしか剣を抜かないし、それ以外では基本的に温厚だ。
稽古では別だが、日常生活において自ら好戦的な姿勢は見せなかった。
その変化に皆が目を見張る。
「・・・リオ君どうしたの?心配しなくても、こいつには体で覚えさせるよ?」
ニコッと冷ややかに笑うその姿に、少し動揺しながら言葉を続ける。
「いや、そうなれば俺が恨まれる。日頃お世話になっているから協力したい気持ちもある。それに・・・」
間を置いてから、リオは覚悟を決めて口にした。
「サリアさんに守られるのは簡単だ。だけど、俺は一人前になりたい」
彼らの内部事情に首を突っ込んで、生意気な事を言っているのは理解していた。
だが、自分の成長を望むリオは真剣だった。
今までにない強い意志を込めてサリアを見つめる。
「・・・そんな純粋な目で見られちゃ断れないわよ。毒気抜かれちゃうぐらい眩しいわ。リオ君、頼んでいい?」
サリアは参ったとばかりに眉尻を下げる顔を見せるが、その唇は弧を描いている。
「ッサリアさん、ありがとう!」
リオは彼が自分の想いを認めてくれた事が嬉しかった。
そうと決まれば、やる気が漲る。
「必要なものを宿屋からとってくる!なるべく急ぐ!」
そうやって扉から出ていく後ろ姿を見ながら、一同はそれぞれの想いに馳せた。
「こうやって大人になっていくのね・・・複雑だわ」
「リオ、変わったねー」
「あの歳ぐらいの俺とは大違いだ・・・真っすぐ過ぎて心配になるぜ」
「応援してやりたくなるな」
サリアが肩の力をふっと緩め、リオを追っていた眼差しを元に戻すと、キックス、ロキは優しげな眼差しで扉を見つめ、ミリーは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
だが、視界に割り込んでくる、悪餓鬼が壁を背にだらんと伸びている光景に頭が痛んだ。
「ほんと、この猿に『爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい』わ」
「確かに」
「だな」
一人の鍛錬に限界を感じていたリオにとっては、鋼の牙のメンバーに客観的に自分の戦いを見てもらえる絶好の機会でもある。
そういう打算も含めて、リオは自分の成長に繋げたいと思って動いていた。
ある物を手に取り、全速力で戻る。
じりじりと真上から照らしていた太陽は西に少し傾き、迎える涼しい風によって髪が乱れるのを気にする事なく、リオは宿の入り口へと飛び込んだ。
「待たせた!」
「おかえり~!エルがね。今目覚めたところなんだけど、打撲してるみたいでさ」
談話室にはミリーだけがいて、椅子に座りながら机に腹をくっつけるようにして寛ぎ、最近はまっているらしい恋愛小説を読んでいた。
「・・・よく考えればそうなるよな。ミリーさん、教えてくれてありがとう」
サリアの暴力を喰らって、怪我をしないほうがおかしい。
リオは日を改めるか悩むが、ひとまずエルの様子を確認してからでもいいだろうと思い、様子を伺いにいく。
すると、キックスが一階の廊下に佇んでいた。
リオを気遣って待ってくれていたらしい。
「キックスさん、待たせてしまってすまない!今、戻った!エルさんの容態は?」
「今はロキが手当してる。顏が腫れて、かなりブサイクになってるぞ!ハハハ!」
「そうか・・・日を改めるしかないか」
「サリアも中にいるし、とりあえず中覗いてみるか?」
コンコンとノックを鳴らしながら、部屋の扉を開く。
そこには正座させられるエル、椅子に座って女王様の如く彼を見下ろすサリアの図があった。
ロキは部屋の隅で気配を消している。
これはどうゆう状況だと、リオは目をぱちくりさせる。
サリアが目線をあげ、こちらを見てきた。
それに合わせ、頬を腫らしたエルもこちらを向く。
「え?」
何故か彼は、助かった・・・という安堵の表情で、先程まで敵対心を向けていたはずのリオに懇願するような視線を投げ掛けてきた。
「おかえりなさい、リオ君。とりあえずの調教は終わったわ・・・この後は思いっきり戦ってもいいし、好きなようにしていいわよ」
(調教・・・知らないほうが良い事もあるよな)
勘に従い、それには触れない。
代わりに怪我の具合を尋ねる。
「あの、エルさん。怪我の具合はどうだ?俺は貴方に認められるように戦いたいと思っている。だけど、体調が万全でないなら無理しないで言ってくれ」
エルは負けず嫌いだ。
その心配の声も舐められていると感じるぐらいには。
「はあ?!俺の心配かよ!要望通り、戦ってやるよ・・・怪我して泣くのはお前だ!!」
いきなり彼の敵意が再浮上する。
「こういった試合は初めてなんだ。ただ、サリアさんに任せられた以上俺も全力でいく」
「本当に生意気な小僧ね?・・・まあ、いいわ。どこで試合してもらいましょうか」
そこで、気配を消していたロキが声をかけてくる。
「この地区の隅に少し開けた場所があるだろ?影が多くてやりにくいけど、広さ的にはちょうどいいと思うぞ」
「人気がないなら、俺は場所を選ばない」
リオが鋭い眼光でそう言う理由は傭兵の戦いに地形などは関係ないからだ。
つまり、本気の本気だった。
これにはエルが少したじろぐが、表情を作り直しフンと鼻を鳴らす。
「俺もそこでいいですよ!すぐにでも始めましょう!」
リオは、鋭く睨んでくる彼の勝気な姿に少し苦笑してしまう。
だが、一つ言いたい事があったのを思い出した。
「サリアさん達も出来るなら見に来てくれないか?俺は本気でやるけど、これは修行でもある。戦い方を客観的に駄目出しして欲しいんだ」
「へぇ」
この言葉に反応したのはサリアだった。
いつもの彼ではなく、鋭い視線をリオに向ける。
「その意気は買うわ。けど、私の採点は厳しいわよ?見せてもらいましょう」
戦いにおいて、彼は実力主義だ。
可愛がっている少年であれど、そこに私情を持ち出し、甘く扱う気はなかった。
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