15 / 35
第一章
12話 鋼の牙
しおりを挟む
戦後のあれこれから治療の経緯、首都まで搬送された事、あの戦略を含めた裏事情を知らなかったリオは、驚き納得していた。
胸を突かれたはずのイルグンドは助かった。
自分の助言を加味しても、幸運の加護がついているような男だと、リオは思う。
後味の悪い想いをしなかった事に安堵した。
加えて、前線が陽動だったのも納得した。
雇われ傭兵を機密性が命の奇襲部隊に配備する訳がない。
ない事もないのかもしれないが、事前に目にしたイシエール共和国の軍の錬度を思い出すと、ぽっと出の軍人ですらない自分と彼らが急に足並みを揃える事が出来るとは思えなかった。
結局王弟を殺せなかった事に物足りなさを感じたが、今回の戦争を早急に終わらせる交渉手札とするために、王弟を捕縛するのが最善だったかもしれないと、リオは結論づけた。
と、そこへとルインが、思い出したという表情で声を掛けた。
「そういえば、リオが寝ている間に鋼の牙のサリアって人が訪ねて来てね。知り合いだって言うから伝言を貰ったよ。『白フクロウの宿り木』で一か月待つだってさ」
【鋼の牙】
イシエール共和国を始め、その隣国のシエナ王国、サラヘデ皇国を中心に巡る少数精鋭の傭兵団。
この二年間でリオが随分とお世話になった傭兵団の一つで、三か国ではそれなりの―――リオが思っている以上の知名度がある。
その名の通り、ある程度の実力がある者がリーダーとして先導するのが傭兵団で、傭兵団の名が団員の一定の信頼度につながってくる。
基本的に傭兵は身分を保証するものがなく、一定の地位についた人物からの推薦状を「傭兵斡旋所」に提示すれば身元保証書である【銀のタグ】を受け取る事が出来る。
だが、殆どの者はそれが不可能に近いので傭兵団に所属しその【傭兵団のタグ】を入手して社会的信用を得るのが一般的である。
傭兵は斡旋所を介して仕事を紹介されるが、これには傭兵の信用度が大きく関わってくるので、銀のタグもしくは傭兵団のタグが必要になってくる。
どちらの条件も満たしてなければ、大きな仕事が来ないどころか足元を見てくるしょっぱい仕事ばかりになるのが通常だ。
国によっては斡旋所が存在しない場所もあり、直接の交渉をしないといけない場ではますますタグの必要性が高くなる。
一人になってからの二年間は、リオが未成年という理由で銀のタグを受けるどころか、その銀のタグを入手できる条件も成人である事を満たしておらず、まともな傭兵の活動をするのに問題が山積みだった。
ツルギが残した財産はあったので生活は困っていなかったが、リオ自身は金よりも仕事をこなす経験が欲しかった。
色々と手探りで情報を集めていたところに声をかけてくれたのが鋼の牙のリーダー、サリアである。
サリアはリオを気に入ってくれたのか、入団すれば未成年にはありえないほどの好条件で遇すると勧誘してきた。
未成年である事や自分の経験不足のために入団は断っていたが、それならと見合った依頼をいくつか紹介してくれた。
先日リオは成年になったものの未だタグなし。
実は今回の戦争の際にもサリアの紹介がなければ、イシエール共和国軍へ雇用してもらうための面接を受ける事も不可能だったのだ。
「私とリオ君の仲じゃない!任せて!!」
リオはサリアに本当に感謝していた。
同じイシエールの首都カンシェルにいるなら会いに行かない訳がない。
会う事は楽しみだが、同時に少し憂鬱だった。
何故ならスキンシップが激しいから。
だが、リオは、日頃世話になっているし、それを抜かせば立派な人物であると思っている。
それにリオはもう十六歳になり、成人だ。
子供じゃないと毅然とした態度を見せればいいと、気持ちを切り替える。
「よし・・・なんだか気分も晴れてきた」
何かと戦う覚悟の表情を浮かべたリオは治療院を出て用事を済ませたら、サリア達が拠点としている『白フクロウの宿り木』へと赴くと決めた。
胸を突かれたはずのイルグンドは助かった。
自分の助言を加味しても、幸運の加護がついているような男だと、リオは思う。
後味の悪い想いをしなかった事に安堵した。
加えて、前線が陽動だったのも納得した。
雇われ傭兵を機密性が命の奇襲部隊に配備する訳がない。
ない事もないのかもしれないが、事前に目にしたイシエール共和国の軍の錬度を思い出すと、ぽっと出の軍人ですらない自分と彼らが急に足並みを揃える事が出来るとは思えなかった。
結局王弟を殺せなかった事に物足りなさを感じたが、今回の戦争を早急に終わらせる交渉手札とするために、王弟を捕縛するのが最善だったかもしれないと、リオは結論づけた。
と、そこへとルインが、思い出したという表情で声を掛けた。
「そういえば、リオが寝ている間に鋼の牙のサリアって人が訪ねて来てね。知り合いだって言うから伝言を貰ったよ。『白フクロウの宿り木』で一か月待つだってさ」
【鋼の牙】
イシエール共和国を始め、その隣国のシエナ王国、サラヘデ皇国を中心に巡る少数精鋭の傭兵団。
この二年間でリオが随分とお世話になった傭兵団の一つで、三か国ではそれなりの―――リオが思っている以上の知名度がある。
その名の通り、ある程度の実力がある者がリーダーとして先導するのが傭兵団で、傭兵団の名が団員の一定の信頼度につながってくる。
基本的に傭兵は身分を保証するものがなく、一定の地位についた人物からの推薦状を「傭兵斡旋所」に提示すれば身元保証書である【銀のタグ】を受け取る事が出来る。
だが、殆どの者はそれが不可能に近いので傭兵団に所属しその【傭兵団のタグ】を入手して社会的信用を得るのが一般的である。
傭兵は斡旋所を介して仕事を紹介されるが、これには傭兵の信用度が大きく関わってくるので、銀のタグもしくは傭兵団のタグが必要になってくる。
どちらの条件も満たしてなければ、大きな仕事が来ないどころか足元を見てくるしょっぱい仕事ばかりになるのが通常だ。
国によっては斡旋所が存在しない場所もあり、直接の交渉をしないといけない場ではますますタグの必要性が高くなる。
一人になってからの二年間は、リオが未成年という理由で銀のタグを受けるどころか、その銀のタグを入手できる条件も成人である事を満たしておらず、まともな傭兵の活動をするのに問題が山積みだった。
ツルギが残した財産はあったので生活は困っていなかったが、リオ自身は金よりも仕事をこなす経験が欲しかった。
色々と手探りで情報を集めていたところに声をかけてくれたのが鋼の牙のリーダー、サリアである。
サリアはリオを気に入ってくれたのか、入団すれば未成年にはありえないほどの好条件で遇すると勧誘してきた。
未成年である事や自分の経験不足のために入団は断っていたが、それならと見合った依頼をいくつか紹介してくれた。
先日リオは成年になったものの未だタグなし。
実は今回の戦争の際にもサリアの紹介がなければ、イシエール共和国軍へ雇用してもらうための面接を受ける事も不可能だったのだ。
「私とリオ君の仲じゃない!任せて!!」
リオはサリアに本当に感謝していた。
同じイシエールの首都カンシェルにいるなら会いに行かない訳がない。
会う事は楽しみだが、同時に少し憂鬱だった。
何故ならスキンシップが激しいから。
だが、リオは、日頃世話になっているし、それを抜かせば立派な人物であると思っている。
それにリオはもう十六歳になり、成人だ。
子供じゃないと毅然とした態度を見せればいいと、気持ちを切り替える。
「よし・・・なんだか気分も晴れてきた」
何かと戦う覚悟の表情を浮かべたリオは治療院を出て用事を済ませたら、サリア達が拠点としている『白フクロウの宿り木』へと赴くと決めた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる