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おまけ 後処理7

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「《紋章》」

闇商人とベネッタが皇国に向かうとララは小声でそう唱える。すると、ララの片目には皇国の紋章が浮かぶ。それを見て男性たちはベネッタの忠告を気にも留めていないように話しかける。

「皇女の証のつもりか。貴様がレイネシアだと言うなら差し詰めもう片方はリースレットと言ったところか?」

男性は嘲笑するように見下してそう聞く。その姿からはララの瞳の紋章の意味を分かっていないように見える。

「そう。私はゼギウス様にルルという名前を貰う前はリースレットという名前だった。分かりやすく言えば王国の三女」

ララが記録していることを理解しているためルルは同名というだけでなく王国の三女だという文言を付け加えていた。

「やはりか。どうやって生き延びたかは知らないが、何故今更、表に出てきたのだ?」

男性はそう言うが、それは明確にララとルルがレイネシアとリースレットだと認めているのと同義だ。同時に元から本物のレイネシアだと分かっていながら執拗に責めていたということになる。それは敵意の表れと言っていいだろう。

しかし、敢えてそこに触れないのか、ララは真剣な表情で答える。

「私は母、ミレーネに捨てられ奴隷落ちしてからは復讐のことばかり考えていました。それは私のせいでルルを巻き込んでしまった責任を違う何かに向けるためのものでした」

そうララが語り始めると男性たちは口を挟まずにおとなしく聞いていた。その反応を見てララは惜しみなく続ける。

「ですが、ゼギウス様に拾って頂いて人間界を背負う七英雄の景色を見せて頂き、更に隣では同じ立場だったはずのルルが王国再興を目指して動き始めていたのです。それを見て私はこんなことをやっていていいのだろうか、という疑問が湧いてきました」

それは嘘偽りのないララの実際に経てきた心境の変化だ。その変化は今も続いている。

「それでも私はルルとは事情が違います。王国は滅んでいて王族もルル以外に残っていなくて、ルル以外に再興することはできません。対して皇国は私がいなくても回っていて今更、長く皇国から離れていただけでなく死んだことになっている私が戻るのは皇国民に対して失礼だと思っていました。いえ、今でもそれは変わりません」

そこで結論が出たように思われたが、ララは更に続ける。

「ですが、ミレーネが亡くなった今、もし皇国民が受け入れてくれるのであれば皇になるのが皇族に生まれ皇国から多くのものを頂いた私の責務だと思っています。それが受け入れられなかったとしても皇国のために何か恩返しをさせていただけたらと考えています」

そう言い終えると敵対しているはずの男性たちでさえララのことを崇めるような目で見ていた。そこにはララの皇たる資質が表れているようで、男性たちは思わずどうしようもないといったような半ば諦めた笑みを浮かべる。

「血は血だな。どこかで人を惹きつける資質を持っている」

その言葉にララは複雑な表情を浮かべるが、言葉では取り繕い話を変えようとする。

「ありがとうございます。私からも聞きたいのですが、何故帝国との裏取引をしたのですか?」

「何故、か。難しい質問だな。物事を決める時、貴様は単純な1つの要因だけで決めるのか?」

その質問は難しくどこか答えのようにも聞こえたが、ララはもう少し踏み込んだ答えを出す。

「決断する時は様々な側面から考えます。ですが、行動に移す時は単純な動機で動きます。例えば守りたい、とかそういった単純な理由です。貴方たちの動機は何ですか?」

「動機か、いい質問だ。強いて言うなら私利私欲になるのだろうな。私たちはかねてより皇国に不満を持っていた」

それは皇国を裏切るには最も分かりやすく最も単純な理由だろう。

しかし、ララは納得していなかった。

「嘘です。本当の理由を教えてください」

今日初めて、もしかしたらレイネシアだった頃に話したことがあるのかもしれないが、数回話したことがある程度だろう。ララが認識していない時点で関係値が浅いのは疑いようもない。それなのにララは確信めいたように否定した。

分かったような口の利き方に苛立ちを覚えたのかベネッタが皇国に向かってからは黙っていた男性が声を荒げる。

「分かったような口を利くな!貴様に何が分かる!」

急な大声にララとルルは体をビクッとさせるが、心は落ち着いたままだった。

「分かりません。ですが、貴方たちが私利私欲のために皇国を見限るような人には見えないだけです」

「お人好し。誰もが善人じゃない」

そう呆れたようにルルが口を挟む。だが、ララは褒められているように照れていた。

その警戒心がなくルルの言うようにお人好しな姿を見て男性はララのことを裏表がない純粋な人なのだと判断する。

「諦めろ。ミレーネ様と同じように彼奴等もまたお人好しなのだ」

「諦めろ?違うだろ!いつまでこんな茶番を続けるつもりだ!」

悠長に話している男性に旗が立ったのかもう片方の男性が怒りの矛先をララではなく男性に向けていた。それは仲間割れのようで男性は諭そうとする。

「茶番ではない。レイネシアとリースレットには知る資格がある」

「作戦に支障がない程度にしろよ」

もう片方の男性も仲間割れは本意ではないのか最低限の線引きをして引く。それに対して男性は頷く。

「分かっている。それで先程の否定に対する返答だが、私利私欲というのは嘘ではない。私たちは皇国にてぞんざいに扱われている。それを見返すためだ」

その言葉は嘘ではないのだろう。会議の最中もその兆候は見えていた。

いくら同国の代表に嫌疑がかけられたとはいえ刃を向けたり口に剣を入れたりするのは通常ではない。仮にその対象がミレーネやララだったらそんなことはしなかっただろう。

それは明確に立場が上だからあり得ないと思うかもしれないが、その行動は逆に男性たちを明確に下に見ていることの裏付けでもある。

そういったところを始めとして他にも様々なところで鬱憤が溜まっていたのだろう。ララはそれを理解していた。

「そうですか…確かにベネッタの言動には問題がありました。それは正義感があるといった綺麗事で済ませていいことではありません。この会議に参加している以上、貴方たちもベネッタと同等の地位に就いているのでしょう。それなのに見下されているのは内部の体制に問題があります」

「そうだ!皇国は帝国とは違う!軍事国家ではない!それなのにどうして軍の方が偉そうなんだ!私たちは日々の政策を考え皇に進言している。皇国により利益を齎しているのは私たちだ!それなのに国民も軍部も揃って私たちを見下す!雑用係程度にしか思っていないのだ!」

ララの言葉に同調するようにもう片方の男性はそう声を荒げる。そこからは日々の鬱憤が窺えていた。

対して男性は懐かしむような顔をしている。

「やはりミレーネ様の御子なのだな。ミレーネ様は事を荒立てないよう表には出さなかったが、よく私たちには声を掛けてくださっていた。その労いを糧にあの日まで皇国に尽くしてきたが、変わる時が来たのだ。私たち、自らの力で軍部に認めさせなければならない」

「だったらララが皇になれば解決する話。ララは貴方たちの活躍を蔑ろにはしない」

そうルルが口を挟む。それは妙案のように思われたが、男性は首を横に振る。

「確かにその洞察力を持つレイネシアならミレーネ様と同じように私たちにも気を遣うだろう。だが、ここまで来た以上、退く訳にはいかないのだ。皇がレイネシアになり新体制を築く時、私たちの行おうとしている裏取引は致命的な汚点になる。だからといって、私たちもここで死ぬつもりはない。つまり二者択一という訳だ」

男性が剣を構えるともう片方の男性も「ようやくか」と言って剣を構えた。
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