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123話

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「ゲン、どんな感じだ?」

ゼギくんはここにやって来るなりゲンさんにそう聞く。ゼギくんが皇国と帝国に行っている間、エストとカイゼルと一緒にゲンさんから真継承の力の引き出し方を教わっている。私は怪我明けということもありまだ慣らしを終わらせただけだが、話を聞くだけでも多少の手応えは得ていた。

「ボチボチだな、弟よ」

「だから弟って言うの止めろ」

そんなやり取りをしているが、ゲンさんがゼギくんの兄だと聞いた時は驚いた。2人には祖先と言って差し支えないほどに年齢差があるように見える。それでもゼギくんだからと思えば納得できてしまった。

「とりあえず大丈夫そうだな」

ゲンさんとの情報共有が終わったのかゼギくんは私の元に来る。そんな心配してました、というような声を掛けられても騙されない。

「ふーん、そんな八方美人みたいなこと言うんだ。ゼギくんがそんな人だとは思わなかったよ」

「は?何言ってんだ?ゲン、メナは頭に後遺症でもあるのか?」

「いや、儂が見た限り異常はなかったぞ」

そんな惚けた会話を兄弟でしている。流石は兄弟、こういった時の誤魔化し方が息ピッタリだ。

「何でここに来るのが最後なの!帰ってきたらまず私の所に来るのが普通でしょ!それなのにレイブンとシアンの相手ばっかりして…でも、まだそれはいいよ。重要な案件があるかもしれないからね。だけど、その次にアルメシアちゃんのところに行くのはないよ!すぐ近くに私が居たでしょ!」

自分で言いながら面倒くさい彼女みたいだなと思う。ゼギくんもその場面にありそうな返事をする。

「そんなことかよ…」

呆れたようにゼギくんはそう溜息を吐くが、その言葉に悲しくなって涙が溢れてくる。

「そんなことって言った。私、怪我明けなのに…うわーん、ゼギくんは私のことなんてどうでもいいんだー」

「アホか、どうでもいいならそもそも来ねぇよ」

普段なら騙されるが、そんな底辺の話をされても納得できない。だが、何よりも納得できないのはレイブンを連れて帰ってきたことだ。リハビリも兼ねて目を使って見ていたから状況は少し分かっている。

あの状況だったとはいえゼギくんが受け入れたのはゼギくん以外の戦力面に不安もあったからだろう。そうでもなければゼギくんの戦力が落ちるのに受け入れる理由がない。ゼギくんなら面倒くさいからというのも考えられるが、おそらくその足りていない戦力は私とシアンで、主に私だ。

行く前の私の状態を見て復帰できないと判断されたのかもしれない。それは私の失態だし力不足の私の責任だ。それでも、その補充がレイブンだけはない。

「私に用済みだからレイブンを呼んだんでしょ!同じできるお姉さん気質として!」

浮気された彼女のように感情を露わにする。あれ?もしかして今日の私、面倒くさい?ゼギくんに会うのが数日振りなのに加え、レイブンを連れて帰ってきたから情緒がおかしくなっているようだ。

それもそのはず、私とレイブンは役割が被るのだ。何でもできるお姉さんタイプ。それどころかレイブンはシアンと私を合わせたような万能さを兼ね備えている。1人で2度おいしいのだ。

「おいゲン、やっぱり後遺症あるだろ」

「そのようだな。もう1度、精密検査をした方がいいかもしれんな」

私から目を逸らすように2人はエストとカイゼルの戦闘に目を向ける。

「おーい、私の話聞いてる?ねぇ、ゼギく~ん?」

正面に回り込んで視界に入って大きく手を振る。

「カイゼルは慣らしの分も引き出せてるな」

清々しいほどに無視されている。だけど、話している内容が興味深くて聞き入ってしまう。

「アレは逸材だ。持っている力を100%引き出す。その能力はあの施設でも群を抜いていた」

「そう言えばあそこを管理してたのはお前たちだったな」

やっぱり元老院が管理している施設の子だったのか。それなら極秘だったのもあの強さも頷ける。

「そうだ。だからどんな叱責でも受けよう。だが、あの施設が間違っていたとは思わない。あの施設がなければカイゼルはここまで強くなっていなかった。綺麗事だけで世は回せない。大いなる犠牲の上に日常は成り立っている」

「俺にはそれでいいが、カイにはちゃんと話しとけよ。そんな言い訳染みた言葉じゃなくてな」

「…そうだな。カイゼルには知る権利がある」

今までの話に実体験からもカイゼルがバケモノなのは分かる。機械のように正確無比に相手の命を最短で狙う。それはぬるい場所に居ては身につかない芸当だ。

そう思っているとまたエストが負けた。それもカイゼルに対して掠り傷1つ負わせられていない。

「もう1回!」

「何回やっても無駄」

確かにカイゼルの言うように何かが変わる兆しがない。というか、エストは何もできずに瞬殺されている。

「同期の馴染みでもう1回だけお願い。何か掴めそうな気がするの」

「そう言ってもう100回はやった。寸止めに手加減は実戦感覚が狂うからあまりやりたくない」

それは尤もだ。カイゼルも庭と戦うには力が足りていないだろうから自分のことに専念させた方がいい。今の状態で戦わせ続けるには力の差が開き過ぎていている。

そうなると私がエストの相手をするべきかな。どうせ、戦力から外されているならサポートに徹しよう。それで、戦えるようにも備えておく。

「じゃあ私がやろうか?」

「え、そんな恐れ多いですよ。メナドールさんに相手してもらうならゼギウスにでも相手してもらうので大丈夫です」

「おい、俺はそんな暇じゃねぇよ」

「遠慮しなくてもいいよ。私も実戦感覚を取り戻さないといけなから」

こう言ってもエストはまだ恐れ多いというような表情をしている。同じ七英雄になったのにまだ憧れが消えていないようだ。

「そうだな。メナの肩慣らしにはエストで丁度いいだろ」

「なっ、確かに私はメナドールさんには劣るけど…そんな言い方しなくてもいいでしょ!」

「お前なぁ、憧れてる間は並べねぇし超せねぇぞ」

その言葉は核心をついていたのだろう。エストは声を荒げる。

「そんなこと分かってるわよ!」

「アホ、分かってねぇから言ってるんだよ。分かってるなら戦う以外の選択肢はねぇ」

「でも、メナドールさんはまだ怪我が___」

「おい、自分の言い訳でメナを侮辱すんなよ。怪我?アホか、そんなの本人が1番自覚してるんだよ。その上でできるって判断して言ってんのにメナが怪我明けだから?馬鹿にし過ぎだろ。お前はメナが自己管理もできねぇポンコツだと思ってんのか?」

ゼギくんは煽るように少し大袈裟に怒ってそう言う。本当に周りが見えていて、火の点け方を分かっている。

だけど、止めて!それって目が覚めてすぐ体を動かそうとした私への皮肉でしょ!どうせ私は自己管理もできないポンコツですよ……いや、これはゼギくんのツンデレ…愛の鞭、えへへー………ないな。

だけど、そうトリップでもしないとメンタルがもたない。今、この空間で私は過剰に持ち上げられている。

ゼギくんの言葉が響いたのかエストは止める間もなく土下座をして地面に強く頭を打ちつける。

「ごめんなさい!私なんかが気を遣うなんておこがましかったですよね。まだ気が変わっていなければ是非、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

「う、うん。私はきにしてないから頭を上げよっか」

「いえ、あんな思い上がった事を言っておきながらそんなことはできません」

うん、こういう子っているよね。本人がいいって言っているのに自分を許せない子。悪い子じゃないのは分かるけど、少し鬱陶しい。

それからしばらく説得するとようやくエストは頭を上げて戦うことになったのだが、その間、ゼギくんはずっと腹を抱えて笑っていた。
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