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121話

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ようやく話を聞かせる態勢を作らせられたが、まだ硬い。シアンとの戦いには飽きたし改善の兆候が見られたから止めたが、完膚なきまでに倒しておくべきだったかね。

「シアンには致命的な部分がいくつもある。まずはそれを挙げてみなよ」

「スキルを使わない相手への決定打のなさ。それは《暴食》を知っている相手への決定打の弱さと同義になる。あとは……」

そうシアンは考えるようにするが、言葉が続かない。

まさか1つで浮かばなくなるとは思っていなかった。それ以外に欠点がないと思っている訳ではないだろうが、言葉にできないのだろう。

しかし、最も致命的なものに気づいていない。

「闘技場での勝負とさっきの戦い、どっちの方が動きは良かった?」

「動きだけで言うなら今回さ」

動きだけなら、ね。大方、反応の速さだけを見て言っているのだろう。

「もしかして総合的に見たら大差ないとでも思っているのかい?」

「そうさ。今回は思考が足りなかった。アンタの魔力を削る意味でも《愚歪なる世界》を開始と同時に使っておくべきだった。そうすればアンタは長期戦に持ち込めなくなって粗が出たかもしれないさ」

やっぱりね。それが致命的だということに気づいていない。

「全然、駄目だね。思考っていうのは戦闘中にしたんじゃ遅い。戦闘中に思考していいのは格下相手だけだよ。格下相手には無難に戦えば勝てる。ただ、練り込まれた策によって覆されることがある。だから思考する、ここまで分かるかい?」

「分からないね。相手が格上だからこそ弱点を探してどう衝くかを考えるのさ」

「それは間違ってる。シアンの言ってる格上っていうのは私に言わせれば同格の範囲内だ。思考している時間は戦いが中断される訳じゃない。思考に体のリソースを割くってことは多少なれど反応は悪くなる。その反応への影響が格上相手には致命的だって言ってるんだよ」

「レイブン、こればっかりは戦闘経験の浅さがでたね。反応を上げるためにも思考するのさ。次に何がくるか分かれば、その分、反応は速くなる」

何故かしたり顔でシアンはそう言う。私の上を行ったとでも思って調子に乗っているのだろうか。その間違いをどうやって正そうかね。

「じゃあ聞くけど、初見の格上相手に次の行動が読めるようになるまで耐えられるのかい?お世辞にもシアンが防御型とは言えない。《暴食》のおかげで多少なれど防御面も強化されたけど、それでも防御面には不安が残る。そのシアンが格上相手に思考が読めるようになるまで耐えるっていうのは無理があると思うけどね」

耐えるにしても総魔力量と1回の攻防に置ける魔力消費量の割合が相手よりも多くないと自分の首を絞めるだけだ。《暴食》を使えばそれを覆せる可能性はあるが、シアンは根っからの攻撃主体、さっきの戦いで《暴食》を槍への防御ではなく風を破る攻撃に使ったのが良い証拠だ。

そんなシアンに《暴食》を防御で使うなんて慣れないことを覚えさせるだけ無駄だ。

それはシアンにも自覚があるのか言葉が弱くなる。

「それは…そうだけど。じゃあどうやって戦うのさ」

本気で格上と戦った経験が乏しいのだろう。これはマルスが指揮を執っていた弊害だ。犠牲を出さないように、同格か格下の範囲に収まる戦場にしか行っていない。

だから自分よりも少し強い程度の相手を格上だと位置づけてしまう。それで格上相手にも思考が必要だと勘違いしている。

「格上相手への戦い方なんて1つだけだよ。自分の最も強い行動を押し付ける。そもそも格上相手って言うのは負けて当たり前、勝ったら奇跡だよ。その奇跡の大半は相手の油断から引き起こされる」

こう説明はするものの、シアンは納得していないように見える。私が根っからの戦闘狂、戦いで生きてきた人間じゃないと思って自分の経験の方が優先されているようだ。

これでも結構な修羅場は潜ってきたんだけど、仕方ないか。私への信頼の無さも少なからず影響していそうだ。

「ゼギウス、格上と戦う時に最も大事なことは何だい?」

そうゼギウスに話を振る。私の言うことが納得できなくてもゼギウスが言えば納得できるだろう。何を言うかではなく誰が言うかとはよく言ったものだ。

しかし、ゼギウスからの返答はない。

振り返ってゼギウスの居る場所をよく見てみると木にもたれかかりながら寝ていた。私のアピールが無駄じゃないか。まぁ、アピールとしては不十分な戦いだったからそこはいいけど…

風雷の羽織に手を振れ雷の槍を生成してゼギウスに放つ。それは眠ったままのゼギウスの《障壁》に阻まれるが、狙い通り目は覚めたようだ。

「いきなり何だよ。昼寝しちゃ悪ぃのか?」

「違うよ。聞きたいことがあってね。互いに情報を知らない、若しくは相手だけが情報を知っている場合の格上との戦闘に置いて1番重要な事って何だい?」

「そんなの初撃の攻防だろ」

ゼギウスは何当たり前のこと聞いてるんだよ、その程度のことで起こすなアホ。とでも言いたげにそう答える。その気持ちは分かるけども、ゼギウスに言わせた方が早いんだよ。

「それは何でだい?」

「まず、格上との戦闘って時点で分が悪い。おまけに相手だけ情報を知ってるとか救いようがないくらいに不利だ。ただ、そこを崩す方法はある」

私にではなくシアンへの説明だと分かっているのかシアンの方を向いて丁寧に説明する。

「格上で、しかも相手もこっちの情報を知ってるってことは基本的に相手の中には油断がある。別に100%の力を出さなくても70%、下手したら50%とかで勝てるからな。その油断を衝くぐらいしか勝ち目はない。その油断を作る又は衝くには初撃の攻防で全てが決まる」

ゼギウスに話を振ったものの格上との戦闘経験はゼギウスも乏しいと思っていたが、その辺りのことはしっかりと分かっていて安心した。

これは経験が乏しいどうのって言うよりかはシアンが自分を見失ってるって方かな。私への戦い方や思考、今までの話、その全てから格上と戦うことを想定できていないし真っ向勝負でねじ伏せられると思っている節があった。

「互いに情報を持ってる場合、戦い方や性格にもよるが初撃は相手の油断を如何に引き出すか、その上でどう生き延びるかだけに注力してもいい。その場合は二撃目の攻防で終わらせるが、勝負が決まるのは初撃の攻防だ」

ゼギウスは片方の説明を終えるともう片方の説明に入る。

「相手しか情報を持ってない場合、ほぼ詰みだな。それでも一か八かで初撃で油断を誘うか、文字通り初撃の攻防で終わらせるかだな」

「そんなの運じゃないのさ」

シアンはまだ分かっていない。というより、この戦いに運を絡めてはいけないと思い込んでいるようだ。

それは一重に七英雄、人類存亡を担うことへの重責からくる。だからゼギウスに聞いたように傲慢な人でなければならない。真面目な人ほどその重責に呑み込まれ自分を見失う。そこへシアンは強大な力を手にしたのが拍車をかけた。

「アホか、格上に勝つって時点で運は絡むんだよ。その運以外の要素をどう詰めるか、運の部分をどれだけ上げれるかで勝負は決まる。普通にやって勝てねぇから格上って言うんだよ」

「だから策を用いるんじゃないのさ。戦闘前、中にギリギリまで耐えて情報を引き出して好機を窺って、倒す。その方が勝てる確率は上がるとアタイは思ってるよ」

「それも1個の手だな。相手に脅威を与えないように粘れれば油断を誘える可能性はある。だが、庭相手にそれが通用しないのを教えてやるよ。今から俺はシアンを攻撃する。それをどんな手を使ってもいいから無傷で防げ」

もう言葉では伝わらないと悟ったのだろう。庭と同じ立場のゼギウスがそれを実践すれば流石に理解するはずだ。

「分かった」

シアンはそう返事をするなり回避の姿勢を取る。使い慣れない《暴食》よりも使い慣れた《軽業》の方がいいと判断したようだ。

「じゃあ行くぞ。…《滅雷》」

そうゼギウスがスキルを唱えるとシアンの頬を閃光が掠めていった。

明らかに威力は抑えているがその速度は本物、ここに威力が加わるとなると対処するのは難しい。生で見たのは初めてだが、これなら焦るのも頷ける。情報以上だ。

「こういうことだ。来ることが分かってても防げない。半端に俺の手の内を知ってる分、惑わされたってのもあるかもしれねぇが、これが実戦でフェイントとかかけられたら余計に防げる確率は下がる。それで傷を負えば負う程できる行動は減り力の差は開く。ってこんなところでいいか?」

「期待通りだよ」

何気に思考の無駄も説いていく辺り流石だね。本当に期待通りだ。

「そうか。じゃあ俺はアルの様子でも見てくるわ」

そう言うとゼギウスは去って行った。
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