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36話

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光が収まると森の中に居た。もれなくあの地下に居た全員が転送されている。

喋り過ぎたな。マルスは会話の内容が漏れないようにしたつもりだろうが、それは無駄だったようだ。

「ここはどこなのさ」

そうシアンが辺りを見回しながら尋ねる。同じようにマルスを除いた全員はここがどこか分かっていないようで不思議そうに辺りを見回していた。

しかし、ここがどこか分かっているマルスは顔から血の気が引いていく。庭の事を甘く見ていたようだ。

「ゼギウスが何かしたのかな?」

「する訳ねぇだろ。全部筒抜けってことだ」

全く、呆れてものも言えない。警告した時には手遅れだったからどうしようもないが、ここからどう立ち回ったものか。

そう考えていると上空からナナシが「ゼーギーウース―!」と叫びながら飛び掛かってくる。それを、いつも通り頭を掴んで受け止めた。

「何でナナシは毎回正面から突っ込んでくるんだよ」

「ん?挨拶だから?」

「なら飛び掛かってくんな」

「はーい。それでここに私が居る理由、分かるよね?」

絶対に分かっていないが、いつも通りの意味不明な挨拶を終えるとナナシのトーンが下がる。やはりマルスが知り過ぎたことに対する警告か裁きか。どちらにせよ面倒な事に変わりはない。

何で1つ面倒事に巻き込まれると連鎖するように面倒事に巻き込まれていくのか。あー、本当に嫌になる。

「あぁ、その前に1人呼んで来たい奴がいる」

「あの弱い柱の事?」

アルの事か。確かにアルも呼んでもいいが、本人は城を無防備にしたくないと断るだろう。

「違う。そこに居る七英雄だ」

「分かった。ゼギウスの頼みだから仕方なく行ってあげよう。その間、逃げたり変な事したら消すよ?」

そうナナシは全員を睨みつける。腐れやララとルルは俺とナナシが友好的なのを見てか怯えていないが、七英雄は全員身構えていた。

「ゼギウス、その子は誰なのさ」

「ユーキを殺した奴」

シアンの問いにそう言い残すとナナシに後ろから抱えられてラクルを迎えに行く。

「ゼギウス、ハオとの一戦で感覚が戻ったの?」

「確かに体は軽くなったな。多分枷が外れかけてるんだろ」

「いいね。早くゼギウスと戦いたいなー」

ナナシは暢気にそんなことを言っているが枷が外れるのは相当に不味い。枷の外れた俺をあいつ等が野放しにする訳がない。

そんなことも分かっていないナナシに「アホか」と言って話を終わらせた。

庭は地図で見ればドラルの城の右斜め上の方、比較的浅い魔界に位置している。だからナナシの移動速度をもってすれば僅か数分でドラルの城には着く。

しかし、ラクルが魔界側で魔物の殲滅防衛をしているからかドラルの城付近に来ると激しいスキルによる出迎えがあった。

「反撃していい?」

「駄目だ。そいつが目的の奴だ」

「えー、じゃあ威嚇くらいにしとくね。《落雷》」

そうナナシは即席のスキルを唱えて目の前に大きな雷を落とすと俺を離して地上に落とした。

ナナシにしては本当に威嚇程度に収めたいい判断だ。使える頭があるなら普段から使ってほしいものだが、これも俺の枷が外れかけている影響か。

「ラクル、少し早いが約束を果たしに来た」

「ゼギウスであったか。運び屋にしては柱級の者を連れているな」

「まぁな、それが庭だ。ついてこい」

合図を送ってナナシに俺を拾わせると出発した。

ラクルは地上から走ってついてくるがナナシはお構いなしに振り払おうと飛んでいる。庭に来る最低限の資格があるか試しているようだ。

行きと同様かそれより少し早いくらいの速度でナナシは庭の入り口に戻ってきた。それから数分遅れてラクルは到着する。

これで生きている七英雄は全員揃った。

「珍しい顔ぶれであるな。七英雄が全員揃うとはいつ以来であろうか」

「それは一重に誰かが居なかったからでしょ」

そうシアンにジト目で見つめられる。いや、俺以外にも集まってない奴居ただろ。俺が全部出席していないだけで基本的に2人以上は欠席がいたはずだ。

「それでナナシ、ここに転送した理由は?」

聞かなくても想像はつくが、この場に居る全員に分からせるためにそう聞く。

「力の差を分からせるため?あっ、ゼギウスはおまけだよ」

「おまけなら帰っていいか?」

「ダメだよ。ここまで来たなら母様に会ってから私と遊ばないとゼギウスの連れをみんな消すよ?」

脅しではなく本気で言っている目をしている。だが、ナナシと戦うのは反故にするとして原初には会っていかないと不自然か。それにそれで腐れたちを見逃がすって言うなら悪い話じゃない。

「分かった」

「うん、それならよし。それじゃあ《開け》」

ナナシがそうスキルを唱えると目の前に大きな門が出現する。そこに先陣を切って入っていく。

門の先には広い庭と奥に城というよりかは豪邸という印象の家が建っている。大きさで言うと城よりも大きいが造りは豪邸だ。広い庭には七色に変化する草が生えており、それがこの場所の不思議さを助長していた。

俺に続いて腐れたちが入って来て、その後に七英雄が入ってきた。

「ここが庭か…」

そうマルスが呟き、他の七英雄も同じような感想を呟く。景色ではなくこの空間の溢れる魔力から異様な空気を感じ取ったようだ。

どうやらあいつ等は姿を現す気はないようで赤、橙、黄、緑、青、菫色の光が豪邸からこちらに向かってくる。

「じゃあ難しい話は嫌いだから説明は任せるね」

そう言うとナナシは俺の隣に来る。すると黄色の光が前に出てきた。

「貴様等、七罪は踏み込み過ぎた。その代償としてこの場で力の差を教えると同時に1人消す。こちらからはナナシを出す。そちらも1人出せ」

「アタ___」「おい___」

血の気の多い戦闘狂2人が名乗り出ようとするが、それをラクルが封殺した。

「我輩が出よう。ユーキの仇をここで討たせてもらう」

同じ帝国を拠点としていて七英雄の中ではユーキと最も親交のあったラクルが名乗り出ると2人は仕方ないと言った風に諦めた。

「貴様がユーキを殺したのはゼギウスから聞いておる。その仇、ここで討たせてもらおうか」

そうラクルはナナシを鋭い眼光で睨みつけるが、ナナシは興味ないという風に目も向けない。

「私はゼギウスと戦いたい。ゼギウスが出てよ」

「面倒くせぇから出る訳ねぇだろ」

「えー、つまんなーい」

駄々をこねているナナシを前に眼中にもないことに腹が立ったのかラクルがナナシに詰め寄る。

「我輩を侮辱するのも大概にせよ、童!」

そうナナシの首を掴んで持ち上げようとするがナナシは持ち上がらない。

「今、ゼギウスと話してるの。雑魚は引っ込んでて」

「ナナシ、我が儘言うな。相手はラクルに決まった、俺と戦いたかったらその後にしろ」

これっぽっちも戦う気はないがこの場を収めるためにはそう言うしかない。七英雄とか七罪が集まると我が儘で自分勝手な奴しかいないせいで調整役に回らなければならない。本当に勘弁してほしい。特にナナシ。

「本当!?約束だよ!じゃあすぐに終わらせるね。あっ、でも本気で戦っちゃダメだもんね…」

少し落ち込んだように面倒くさそうにナナシはこちらをチラチラと見てくる。ラクルを目の前にその言葉は煽り以外の何物でもないが、そうではない。ナナシは煽るほどラクルの事を敵として見ていない。

だが、流石にそれではラクルが気の毒だ。最期くらい美しく散らせてやるのが情けというもの。

「ナナシ、ここは庭だし本気でやれ」

「分かった!」

秒殺で終わらせるねと後に続いてそうな返事をナナシはする。

「じゃあ俺たちは安全な屋内に避難するか。いいよな?」

「玄関までならな」

黄色の光に確認を取ると全員を連れて豪邸の中へと歩いて行く。
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