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35話

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まさかゼギウスが自ら庭の出身だと言うとは思わなかった。

今までゼギウスは自分の出自に関しては適当にはぐらかし時には空から降ってきたとまで言っていたのに、この判断の早さは流石と言える。今からする話で後出しに庭の出身だと言えば即座に戦闘が始まっていただろうに相変わらずの嗅覚だ。

「へぇ、その話も気になるけどまずは庭について教えてよ。ゼギウスへの詰問の度合いはその後で決めるからさ」

「詰問は決定かよ…」

そうゼギウスは面倒くさそうに溜息を吐く。その様子からはまだ余裕が窺えた。

「庭については僕から話すよ。もし違っている部分があったらゼギウスが訂正してくれ」

庭についてはゼギウスの方が詳しい。だが、ゼギウスは自ら庭について語ることはないだろう。余程間違っているか隠したいことがない限りゼギウスは口を挟まないはずだ。

「庭というのはこの世界にしてこの世界に非ず。魔界のどこかにこの世界と繋がる部分を持っているが普段は繋がっていない。要するにほとんど分からない訳だけど、そこには僕たち七英雄のように魔物の七罪が居る。ユーキはその1人に負けた」

これは魔物との対戦に置いて根底から揺るがす話だ。七英雄と柱の戦いだと思っている者も多いが、それは違う。七英雄と七罪の戦い、それがこの大戦の大局図だ。

それを今のうちに七英雄で共有しておかなければならない。

「それってかなり不味くない?今まで大将だと思ってた相手が実は下っ端でしたって話でしょ。どうするのさ」

「シアンー、おいら難しい話は分からないよ」

昔からそうだが、グラは何を話しているか分かっていないようだ。普段なら呆れながらも笑っていられるが今そんな余裕はない。

「柱よりも強い魔物が7体居るってことさ」

「強い魔物がいっぱい居るの?おいら戦いたい」

グラの扱いはシアンが居ないと成り立たないな。と改めて思いながらもグラの単純さが羨ましく思える。

「焦らなくてもその場は近い内にあるよ。だけど、その前にゼギウスは庭出身って言ったけどどっちにつくのかな?」

返答如何ではここでゼギウスを倒す。犠牲は最悪でも1人か2人に留めたい。

そういつでも戦闘に移れるように身構えながらゼギウスを見つめる。ゼギウスもこの答え次第でどうなるのか分かっているようで真剣な表情に変わった。

「何回も答えてるが俺はどっちもつく気はねぇ。ついでに言うなら庭には触れるな。庭は余計なことをしなければ関与してこねぇ」

「それを信用できると思っているのかい?柱の城に住み着いていながらどちらにもつかないは無理があるよ」

「何を勘違いしてるのか知らねぇが、俺がドラルの城に住んでるのは元を正せば冒険者をクビになったからだぞ」

「だったら帝国でも皇国でも人間界に選択肢はいくらでもある。特に帝国はゼギウスの事を気に入っているじゃないか」

そう。何もドラルの城に行く理由はない。ゼギウスのことだから近いというのも考えられるが、それだけで敵対している魔物の城の行くのは無理がある。

「アホか。帝国でも皇国でも面倒事に巻き込まれるだけだろ。それに俺はそこまで人間に尽くす気はねぇ」

「それは君の生い立ちの話かな?」

そう探りを入れるとゼギウスの雰囲気が変わる。命を感じさせないような体が凍り付くような冷たさだ。やはりゼギウスは底がしれない。

「知ってるか?この世には触れていいことといけないことがある。それが庭の事であり、俺の過去の事だ」

「だったら納得がいくように説明してくれないかな?」

「はぁ…そもそも俺とお前たちでは大きく価値観が違ぇ。お前たちは魔物を敵と思ってるのかもしれないが、俺はそうは思ってねぇ」

やはりそうだったのか。噂ではゼギウスは魔物に育てられたと聞いたことがある。そもそもこれだけ強い人間が人間界に居て無名な訳がなく、だから魔界に居たのではないか。というのは推測の1つとしてあったけど、どうやら庭で育ったようだ。

そうなると味方につけるのは厳しいか。しかし、ゼギウス無くしては魔物の七罪に勝つことは不可能だ。

「なるほど。確かに根本の価値観が違えば僕たちには不信に見えても君には普通ということもある。だけど、この状況でそれだと納得できないかな」

「なら付け加えてやろうか。今は人間側に味方するのは100%ねぇな。お前は俺を悪意ある利用をした。無駄に面倒事に巻き込み嵌めた。そんな奴と戦うのはあり得ねぇな」

そうゼギウスは苛立ちを露わにして言う。恐らく王国の1件のことだろう。

しかし、それで苛立っているのはこちらの方だ。あのせいで計画が狂った。

本当はあの時、魔物との大戦を起こし魔物が成長し切る前に全滅させる予定だった。そうしなければ人類は滅んでしまう。それなのにゼギウスの登場によって全てが狂った。

あの時は嬉しい誤算だとも思ったが、今の状況からはそう思うことはできない。

「王国の事を言っているのなら怒っているのは僕の方だよ。僕の計画を狂わせて置いてよくそんなことが言えるね」

おっと、今のは失言だったかな。リースレットが口を塞がれながらも声を上げている。

確かにあの1件についてはリースレットには悪いことをした。だけど、謝る気はない。僕には僕の正義、譲れないものがありそれを軸に行動している。

全てを守り全てを助ける。そんなことは不可能だ。

「王国を滅ぼしておいてよく言えるな」

「王国を滅ぼしたのは君だよ。僕はフロンの街辺りまで犠牲になってくれればそれでよかった。中立だった王国が大戦を始めれば帝国も皇国も睨み合いを中断して戦力を魔物に向けた」

「それは俺には関係ねぇ」

「そうかもしれない。だけどあの時の僕にも君の登場は想像できなかった。だから王国の滅亡は運が悪かったとしか言えないね」

ゼギウスには後付けの言い訳に聞こえるかもしれないが、これが真実だ。別に僕が滅ぼしたということになっても構わないが今は真実を話しゼギウスが味方につく可能性の高いことをする。

「俺たちの事情を知った上でルルがどう判断するか。それが全てだと思うけどな」

ゼギウスは強いがまだ子供だな。この大局に置いてもうリースレットがどう思うかなんて関係ない。今更そんな小さなことを気にしている余裕はない。

「ゼギウスは七英雄の1人なんだからもう少し大を見て判断した方がいい。身近で思い入れのある小さなものよりも時には興味もない大きなものを守らなければならない時もある」

「勝手に押し付けといてよく言えたな。俺はそんな肩書に興味はねぇ。だから剝奪するなら剥奪しろ」

「そういう訳にはいかないよ。今、ゼギウスの手には2つの選択肢がある。リースレットやレイネシア、この闇商人にメナドール、この4人を見捨てて自分だけ帰るか、僕に協力するかの2つだ」

あまりこの手は使いたくなかったが仕方がない。ゼギウスは優しいから絶対にこの4人を見捨てられない。今はその優しさにつけこむ。

「その脅しは意味ねぇだろ。この4人が居なくなればお前を守る盾はなくなる。その状況で俺に勝てると思ってるのか?」

痛いところをついてくる。だが、その覚悟はもう決めている。

「厳しいかな。だけど僕はもう覚悟を決めているしゼギウスもこの4人を見捨てられない」

僕が自分の命に拘っているのならこの脅しは成り立たないが、どのみちここでゼギウスを味方にするか消さなければ人類に可能性はなくなる。

そう覚悟が伝わるように真剣な眼差しを向けていると全員が光に包まれどこかへ飛ばされた。
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