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追放された弟は、兄の手を取り、英雄への道を進む
7.悪魔との戦い、そして英雄への道
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ある日、日常を過ごす僕たちの平穏が、破られた。
兄さんと魔法の練習をしていた時。
僕がクタクタになって地面に寝転ぶと、兄さんが笑いながら飲み物を取りに行ってくれた。
その時。
(――グレン! 気をつけて!)
ミーシェのそんな声が聞こえて、視界に、それが写った。
黒いもや、そしてそのもやの塊のようなもの。
どこかで見たことがある、と思うも束の間。
心臓が、ドクン、となった。
――深淵の地。
あそこに、ボロの小舟で送られたときに、見たモノだ。
「…………あ……」
拘束された手足。動かない体。呼吸するだけで息苦しくなる。水が染み込んでくる。
(グレン!? しっかりしなさい!)
心臓のドクドクが止まらない。――沈んでいく、母さんの体。
もやの塊が、口を大きく開けて、そこに球状の塊ができていく。
それを認識しながらも、あの時の恐怖を思い出してしまった僕は、動けなかった。
「中級魔法――『炎防壁』!」
その声と一緒に、誰かが僕の手を掴む。
「――グレン、大丈夫か?」
そう心配そうに問いかけてくる声は。
「……………兄さん?」
「少し待ってろよ」
その言葉と同時に、球状の塊が、『炎防壁』にぶつかった。
「――反射!」
兄さんの言葉と同時に、その塊が跳ね返って、相手にぶつかる。
「ギュウウワァァァァァァァァァァ!!」
この世のものとは思えない悲鳴を上げる、そのもやの塊に、さらに兄さんが手を向ける。
「中級魔法――『大炎球』!」
放った魔法が直撃。そして、もやの塊は、跡形もなくなっていた。
へたり込む僕に、兄さんは心配そうな様子だった。
「――大丈夫か? 何があった?」
首を横に振る。言えば、きっと兄さんは気にしてしまう。
「……あれ、何なの……?」
だから、代わりに質問する。
兄さんもそれ以上は聞かずに、質問に答えてくれた。
「あれは、魔獣だな。前に一度、見たことがある」
「……まじゅう? あれが?」
「ああ。でも、何で急に……」
(グレン!)
兄さんが言葉を切るのと、ミーシェの声が頭に響くのは同時だった。
さっきのもやの塊……魔獣が、五体、現れた。
「――なっ!?」
「くそっ!! 上級魔法――『紅炎乱舞』!」
兄さんが毒づきながらも、上級魔法を発動させる。三体を同時に倒した。
けれど。
「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁーーーー!!」
学校中のあちこちから、悲鳴が聞こえた。
何が起きてるのかなんて、考えるまでもない。
震える手を握りしめる。
呼吸を整える。
「中級魔法――『大無球』!」
僕の放った魔法は、魔獣を一体倒すことに成功した。
あと一体。
――大丈夫だ。いける。
そう思ったら、またさらに五体増えた。
さすがに驚愕したけど、そんな事は言っていられない。
「兄さん、ここは僕がやるから、兄さんは他の人を助けて!」
「――できるのか?」
黙って頷く。
「――分かった」
そう言って、魔獣のいる方に駆け出したと思ったら、『大炎球』を唱えて一体倒して、そこを突破していく。
「ミーシェ、力を貸して」
(ええ)
その応えと同時に、僕の周りに魔力が渦巻く。
「上級魔法――『六造無色』!」
三体同時に倒した。
ここ最近、兄さんと一緒に基礎を徹底的にやっているせいだろう。前よりも、魔法が打ちやすい。威力も上がっている。
これなら。
そう思ったら、また五体増えた。
「……なんなんだよ、一体! 特級魔法――『無有無限撃』!」
ミーシェの力も借りての特級魔法なら、全部同時に倒せる。
そして、爆発が収まった後は、……何も残っていなかった。
「…………良かった」
(いえ、まだよ。グレン)
目の前に、黒い渦の塊が現れた。
「……なに、これ」
(――気をつけて、グレン! 悪魔だわ!!)
「……あ、くま……?」
確か、伝承の中にあったはずだ。
深淵の地。そこに住む魔獣。
その魔獣を生み出しているのが、悪魔だと。
大昔、悪魔が人の住む世界に攻撃をしかけてきた。
人間側は、多大な犠牲が出しながらも、その悪魔を討ち滅ぼした。
「――ほう。人間ごときが、このワタクシを知りますか。精霊王臭いと思ったけれど、やはりその通りでしたね」
黒い渦が少しずつ薄れていくと、そこにいたのは、燕尾服のようなものを来た、細身の男。でも、その背には、黒い翼が見える。
「……………………なっ!?」
「精霊王の契約者とは、やっかいですからねぇ。――滅びなさい」
その手に、巨大な球……、上級魔法の巨大球に匹敵する、黒い球が浮かぶ。
「上級魔法――『無大防壁』!」
防御魔法が、間に合った。
だが、悪魔がこっちを凝視している。
「……ほう! ほうほうほう!! これはこれは、驚いた!! 人間の中に、その属性を操るものがいようとは!」
興奮して叫んだと思えば、急にその顔が一変する。
「昔、我ら悪魔を、ほとんど全滅にまで追いやった、あの男! やっかいです! 面倒です! 非常に煩わしい! 無属性さえなければ、我らが勝っていた!
だからこそ、長いながーい年月をかけて、人の世に浸透させてきた! 無属性ではない! 属性がないのだと! 精霊から祝福を受けない忌み子だと! 苦しめて殺せと! だと言うのに! 貴様は! なぜ、生きている!!!」
「……………………な……!?」
僕が、苦しんだのは。義父さんの従弟が、これまでたくさんの人たちが、忌み子と呼ばれてきたのは、……全部、悪魔のせいだった!?
「……ふざけんなよ!」
手を握りしめる。もう恐怖はなかった。
「上級魔法――『巨大無球』!」
放った魔法が、悪魔を直撃する。しかし――、
「……ヒ、ヒ、ヒ……、確かに厄介……。しかし、まだ発展途上のようですねぇ。今なら倒すのは簡単です……」
現れた悪魔は、無傷だった。
(いえ、無傷じゃないわ。頭の所、黒い……瘴気というのだけど、出ているでしょう? あれがニンゲンで言う血のようなものよ)
ミーシェの言葉に、少しだけ勇気づけられる。
「……無傷じゃないなら、何度でも、攻撃するだけだ! 特級魔法――『無有無限撃』!」
「ヒ、ヒ、……特級魔法――『瘴気砲煙爆』」
悪魔が魔法を唱えたことに、驚いた。
――が、すぐに中央でぶつかった二つの魔法が、大爆発を引き起こし、その余波で飛ばされて、地面に叩き付けられた。
「……う……くそっ!」
痛いけどそうも言っていられない。
すぐに起き上がれば、翼を広げて空を飛んでいる悪魔が目に入った。
あいつも、爆発の余波は受けたはずだけど、空を飛べる分、向こうに有利か?
「……いや、何度だって、やってやる」
「ヒ、ヒ、ヒ。大変申し訳ありませんが、わざわざあなたと魔法の打ち合いなどしたくないのですよ。ですのでね、こうしましょう」
突然、悪魔の魔力が高まり、それが一直線に空に向かって走り、消えていく。
「魔獣を呼びました。どうかそちらと戦って下さい。その間、ワタクシは高みの見物といきましょう!」
両手を広げ、大仰に宣言する。そのまま空高く上がっていく、悪魔を食い止めようとしたとき――。
「特級魔法――『猛火炎爆撃』!」
炎が、悪魔の頭上から降ってきた。――唱えたのは。
「――兄さん!」
「怪我はないか、グレン」
「ちょっと痛いけど、大丈夫」
「そうか。良かった。――ところであれは、もしかして、悪魔か?」
兄さんが厳しい目で、炎に包まれているそいつを見ている。
「そうみたいだよ。分かるの?」
「悪魔の絵、みたいなのを見たことがある。それに似ている」
いや、兄さん、本当にいろんな事に詳しすぎる。
悪魔なんて、ちょっと伝承で語られるだけの存在だ。絵なんて、そんなもの見たことない。
「グレン、学校内の魔獣は全部討伐した。後は、あいつだけだ」
「――分かった」
「ヒ、ヒ、ヒ。……魔獣をすべて倒したとは、お見事。あなた、たかが炎にしては、ずいぶん強い。けれど、人間の使う六属性じゃ、届きませんよぉ? 特級魔法――『瘴気砲煙爆』」
「特級魔法――『猛火炎爆撃』!」
悪魔の魔法に、兄さんがすぐに対抗魔法を放った。
「――…………なっ!?」
悪魔の魔法が、兄さんの魔法を飲み込んで、さらに巨大化した。
これって、無属性と同じ!?
――って、違う。今はこれをどうにかしないと……!
「上級魔法――『炎大防壁』!」
僕が考えている間に、兄さんが冷静に防御魔法を唱えていた。
でも、いくら防御魔法でも、特級魔法ふたつの威力だ。耐えるのはムリだ。
「上級魔法――『無大防壁』!」
兄さんの魔法に重ねるように、防御魔法を発動させる。
バァン!
派手な音がして、特級魔法も防御魔法二枚も、消え去った。
「……ほう! 相殺しましたか。やりますねぇ。――では」
悪魔の魔力が、急激に高まりを見せ、さらに強くなっていく。
「………ちっ」
兄さんが軽く舌打ちをした。
「――グレン、おそらく、特級魔法超えの魔法がくる。俺じゃ対抗できない。お前に同調して制御を手伝うから、精霊王の力も借りて、全力で特級魔法を放て!」
「……え、同調? 全力……って……」
「グレン、今は細かいことは置いときなさい。やるわよ」
姿を現したミーシェから、力が流れ込んでくる。
兄さんは、僕の後ろに立って、背中に手を置いている。――心臓の辺りだ。
「……………ぐっ……」
呻いたのは、兄さんだ。
僕は、いつになく多いミーシェの魔力が暴走することなく、僕の中に流れていることに驚きしかなかった。
一つ、呼吸を入れる。
そうだ。今は細かいことはどうでもいい。
あの悪魔をどうにかする。
「……せいれいおう! せいれいおう!! 姿を現しましたね……! 潰します。今度こそ、潰して差し上げます!! 特級魔法・超――『――――――』!!」
悪魔が興奮して、高らかに叫ぶ。
最後の技の名前は、聞き取れなかった。
けれど、あの模擬戦の時の、兄さんが使った魔法に勝るとも劣らない魔法が放たれたのは、分かった。
「特級魔法――『無有無限撃』!!」
自分の魔力と、ミーシェの魔力。それを全部込めて、放つ。
視界が白く塗りつぶされ――、大爆発が起こった。
思わず目を瞑った僕が、次に目を開けて見たのは、僕たちを守っている、炎の障壁だった。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
苦しそうに息をしながら、両膝をついて、それでも魔法を維持している。
「――兄さん!?」
「……………………悪魔は……」
すぐにでも兄さんに駆け寄りたかったけど、その言葉に、視線を戻す。
「…………………やぁってくれますねぇ、あなたたち……!」
そこにいたのは、憤怒の表情の悪魔だ。
身体中、全身から瘴気が漏れ出している。
「次は、こうはいきません!!」
それだけ叫んで、悪魔の姿が、そこから消えた。
「――…………えっ!?」
姿が消えたそこに駆け出そうとして、
「逃げたわ。もうここにはいない」
ミーシェの言葉に、立ち止まった。
ドサッ
兄さんが、力尽きたように、地面に座り込んだ。
「……兄さん、どうしたの、大丈夫? 一体何を……!」
兄さんの呼吸は荒い。理由は、一つしか思い当たらない。
「……同調ってなに……?」
「あなたの魔力に、自分の魔力を重ねることで、あなたの魔力をお兄さんが制御したのよ。他人の魔力をコントロールするなんて途方もなく大変なのに、その直後に防御魔法まで発動させて。――無茶したわね、お兄さん」
兄さんは、チラッとミーシェを見たけど、答える余裕もないみたいだ。
でも、そうか。
ミーシェからの大量の魔力が暴走しなかったのは、兄さんのおかげなのか。
「……兄さん、ごめんね。――ありがとう」
うつむいたら、黙って頭を撫でられた。
その手の温かさに、何となく理解した。
兄さんに手を伸ばす。
疲れ切っていた兄さんの体は、簡単に僕の思うように動いて、僕は兄さんの背中にピッタリくっついて、後ろから抱きしめる。
「――おい、こら、グレン。勘弁しろ。本当に疲れてるんだ」
「兄さんの側にいると、落ち着くんだよ。――兄さんの背中でこうしていると、守られてる気がする。すごく安心するんだ」
だから、いつでもこの人の側にいたい。離れたくないと思うんだ。
「……お前なぁ」
素直に言ったのに、兄さんは困った声だ。
でも、それ以上続かないから、兄さんの顔をのぞき込もうとしたら、
「人が事情を聞きに来ているのに、なんで君たちはイチャイチャしてるわけ?」
王太子の、冷たい声が響いた。
「してません! グレン、離せ」
「やだ。事情話すだけなら、このままでも大丈夫でしょ」
そして、僕は最初から全部話していく。
悪魔の復活、悪魔の魔法、そして忌み子の真実。
聞き終えた王太子は、珍しく絶句して、そのまま王宮に連れて行かれた。
国王の前でも、同じ説明を繰り返す。
僕は国王に頭を下げられた。
悪魔を倒して欲しいと頼まれて、僕はそれを、引き受けることになる。
※ ※ ※ ※
――悪魔の復活。
その驚愕の事実に、世界が揺れた。
悪魔に、唯一対抗できる術を持った、たった一人の無属性魔法を使い手。
彼は、悪魔との戦いを通して、英雄への道を歩み始める事になる。
兄さんと魔法の練習をしていた時。
僕がクタクタになって地面に寝転ぶと、兄さんが笑いながら飲み物を取りに行ってくれた。
その時。
(――グレン! 気をつけて!)
ミーシェのそんな声が聞こえて、視界に、それが写った。
黒いもや、そしてそのもやの塊のようなもの。
どこかで見たことがある、と思うも束の間。
心臓が、ドクン、となった。
――深淵の地。
あそこに、ボロの小舟で送られたときに、見たモノだ。
「…………あ……」
拘束された手足。動かない体。呼吸するだけで息苦しくなる。水が染み込んでくる。
(グレン!? しっかりしなさい!)
心臓のドクドクが止まらない。――沈んでいく、母さんの体。
もやの塊が、口を大きく開けて、そこに球状の塊ができていく。
それを認識しながらも、あの時の恐怖を思い出してしまった僕は、動けなかった。
「中級魔法――『炎防壁』!」
その声と一緒に、誰かが僕の手を掴む。
「――グレン、大丈夫か?」
そう心配そうに問いかけてくる声は。
「……………兄さん?」
「少し待ってろよ」
その言葉と同時に、球状の塊が、『炎防壁』にぶつかった。
「――反射!」
兄さんの言葉と同時に、その塊が跳ね返って、相手にぶつかる。
「ギュウウワァァァァァァァァァァ!!」
この世のものとは思えない悲鳴を上げる、そのもやの塊に、さらに兄さんが手を向ける。
「中級魔法――『大炎球』!」
放った魔法が直撃。そして、もやの塊は、跡形もなくなっていた。
へたり込む僕に、兄さんは心配そうな様子だった。
「――大丈夫か? 何があった?」
首を横に振る。言えば、きっと兄さんは気にしてしまう。
「……あれ、何なの……?」
だから、代わりに質問する。
兄さんもそれ以上は聞かずに、質問に答えてくれた。
「あれは、魔獣だな。前に一度、見たことがある」
「……まじゅう? あれが?」
「ああ。でも、何で急に……」
(グレン!)
兄さんが言葉を切るのと、ミーシェの声が頭に響くのは同時だった。
さっきのもやの塊……魔獣が、五体、現れた。
「――なっ!?」
「くそっ!! 上級魔法――『紅炎乱舞』!」
兄さんが毒づきながらも、上級魔法を発動させる。三体を同時に倒した。
けれど。
「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁーーーー!!」
学校中のあちこちから、悲鳴が聞こえた。
何が起きてるのかなんて、考えるまでもない。
震える手を握りしめる。
呼吸を整える。
「中級魔法――『大無球』!」
僕の放った魔法は、魔獣を一体倒すことに成功した。
あと一体。
――大丈夫だ。いける。
そう思ったら、またさらに五体増えた。
さすがに驚愕したけど、そんな事は言っていられない。
「兄さん、ここは僕がやるから、兄さんは他の人を助けて!」
「――できるのか?」
黙って頷く。
「――分かった」
そう言って、魔獣のいる方に駆け出したと思ったら、『大炎球』を唱えて一体倒して、そこを突破していく。
「ミーシェ、力を貸して」
(ええ)
その応えと同時に、僕の周りに魔力が渦巻く。
「上級魔法――『六造無色』!」
三体同時に倒した。
ここ最近、兄さんと一緒に基礎を徹底的にやっているせいだろう。前よりも、魔法が打ちやすい。威力も上がっている。
これなら。
そう思ったら、また五体増えた。
「……なんなんだよ、一体! 特級魔法――『無有無限撃』!」
ミーシェの力も借りての特級魔法なら、全部同時に倒せる。
そして、爆発が収まった後は、……何も残っていなかった。
「…………良かった」
(いえ、まだよ。グレン)
目の前に、黒い渦の塊が現れた。
「……なに、これ」
(――気をつけて、グレン! 悪魔だわ!!)
「……あ、くま……?」
確か、伝承の中にあったはずだ。
深淵の地。そこに住む魔獣。
その魔獣を生み出しているのが、悪魔だと。
大昔、悪魔が人の住む世界に攻撃をしかけてきた。
人間側は、多大な犠牲が出しながらも、その悪魔を討ち滅ぼした。
「――ほう。人間ごときが、このワタクシを知りますか。精霊王臭いと思ったけれど、やはりその通りでしたね」
黒い渦が少しずつ薄れていくと、そこにいたのは、燕尾服のようなものを来た、細身の男。でも、その背には、黒い翼が見える。
「……………………なっ!?」
「精霊王の契約者とは、やっかいですからねぇ。――滅びなさい」
その手に、巨大な球……、上級魔法の巨大球に匹敵する、黒い球が浮かぶ。
「上級魔法――『無大防壁』!」
防御魔法が、間に合った。
だが、悪魔がこっちを凝視している。
「……ほう! ほうほうほう!! これはこれは、驚いた!! 人間の中に、その属性を操るものがいようとは!」
興奮して叫んだと思えば、急にその顔が一変する。
「昔、我ら悪魔を、ほとんど全滅にまで追いやった、あの男! やっかいです! 面倒です! 非常に煩わしい! 無属性さえなければ、我らが勝っていた!
だからこそ、長いながーい年月をかけて、人の世に浸透させてきた! 無属性ではない! 属性がないのだと! 精霊から祝福を受けない忌み子だと! 苦しめて殺せと! だと言うのに! 貴様は! なぜ、生きている!!!」
「……………………な……!?」
僕が、苦しんだのは。義父さんの従弟が、これまでたくさんの人たちが、忌み子と呼ばれてきたのは、……全部、悪魔のせいだった!?
「……ふざけんなよ!」
手を握りしめる。もう恐怖はなかった。
「上級魔法――『巨大無球』!」
放った魔法が、悪魔を直撃する。しかし――、
「……ヒ、ヒ、ヒ……、確かに厄介……。しかし、まだ発展途上のようですねぇ。今なら倒すのは簡単です……」
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「……無傷じゃないなら、何度でも、攻撃するだけだ! 特級魔法――『無有無限撃』!」
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悪魔が魔法を唱えたことに、驚いた。
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痛いけどそうも言っていられない。
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「……いや、何度だって、やってやる」
「ヒ、ヒ、ヒ。大変申し訳ありませんが、わざわざあなたと魔法の打ち合いなどしたくないのですよ。ですのでね、こうしましょう」
突然、悪魔の魔力が高まり、それが一直線に空に向かって走り、消えていく。
「魔獣を呼びました。どうかそちらと戦って下さい。その間、ワタクシは高みの見物といきましょう!」
両手を広げ、大仰に宣言する。そのまま空高く上がっていく、悪魔を食い止めようとしたとき――。
「特級魔法――『猛火炎爆撃』!」
炎が、悪魔の頭上から降ってきた。――唱えたのは。
「――兄さん!」
「怪我はないか、グレン」
「ちょっと痛いけど、大丈夫」
「そうか。良かった。――ところであれは、もしかして、悪魔か?」
兄さんが厳しい目で、炎に包まれているそいつを見ている。
「そうみたいだよ。分かるの?」
「悪魔の絵、みたいなのを見たことがある。それに似ている」
いや、兄さん、本当にいろんな事に詳しすぎる。
悪魔なんて、ちょっと伝承で語られるだけの存在だ。絵なんて、そんなもの見たことない。
「グレン、学校内の魔獣は全部討伐した。後は、あいつだけだ」
「――分かった」
「ヒ、ヒ、ヒ。……魔獣をすべて倒したとは、お見事。あなた、たかが炎にしては、ずいぶん強い。けれど、人間の使う六属性じゃ、届きませんよぉ? 特級魔法――『瘴気砲煙爆』」
「特級魔法――『猛火炎爆撃』!」
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「――…………なっ!?」
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これって、無属性と同じ!?
――って、違う。今はこれをどうにかしないと……!
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でも、いくら防御魔法でも、特級魔法ふたつの威力だ。耐えるのはムリだ。
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バァン!
派手な音がして、特級魔法も防御魔法二枚も、消え去った。
「……ほう! 相殺しましたか。やりますねぇ。――では」
悪魔の魔力が、急激に高まりを見せ、さらに強くなっていく。
「………ちっ」
兄さんが軽く舌打ちをした。
「――グレン、おそらく、特級魔法超えの魔法がくる。俺じゃ対抗できない。お前に同調して制御を手伝うから、精霊王の力も借りて、全力で特級魔法を放て!」
「……え、同調? 全力……って……」
「グレン、今は細かいことは置いときなさい。やるわよ」
姿を現したミーシェから、力が流れ込んでくる。
兄さんは、僕の後ろに立って、背中に手を置いている。――心臓の辺りだ。
「……………ぐっ……」
呻いたのは、兄さんだ。
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そうだ。今は細かいことはどうでもいい。
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「……せいれいおう! せいれいおう!! 姿を現しましたね……! 潰します。今度こそ、潰して差し上げます!! 特級魔法・超――『――――――』!!」
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「はぁはぁはぁはぁはぁ」
苦しそうに息をしながら、両膝をついて、それでも魔法を維持している。
「――兄さん!?」
「……………………悪魔は……」
すぐにでも兄さんに駆け寄りたかったけど、その言葉に、視線を戻す。
「…………………やぁってくれますねぇ、あなたたち……!」
そこにいたのは、憤怒の表情の悪魔だ。
身体中、全身から瘴気が漏れ出している。
「次は、こうはいきません!!」
それだけ叫んで、悪魔の姿が、そこから消えた。
「――…………えっ!?」
姿が消えたそこに駆け出そうとして、
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ミーシェの言葉に、立ち止まった。
ドサッ
兄さんが、力尽きたように、地面に座り込んだ。
「……兄さん、どうしたの、大丈夫? 一体何を……!」
兄さんの呼吸は荒い。理由は、一つしか思い当たらない。
「……同調ってなに……?」
「あなたの魔力に、自分の魔力を重ねることで、あなたの魔力をお兄さんが制御したのよ。他人の魔力をコントロールするなんて途方もなく大変なのに、その直後に防御魔法まで発動させて。――無茶したわね、お兄さん」
兄さんは、チラッとミーシェを見たけど、答える余裕もないみたいだ。
でも、そうか。
ミーシェからの大量の魔力が暴走しなかったのは、兄さんのおかげなのか。
「……兄さん、ごめんね。――ありがとう」
うつむいたら、黙って頭を撫でられた。
その手の温かさに、何となく理解した。
兄さんに手を伸ばす。
疲れ切っていた兄さんの体は、簡単に僕の思うように動いて、僕は兄さんの背中にピッタリくっついて、後ろから抱きしめる。
「――おい、こら、グレン。勘弁しろ。本当に疲れてるんだ」
「兄さんの側にいると、落ち着くんだよ。――兄さんの背中でこうしていると、守られてる気がする。すごく安心するんだ」
だから、いつでもこの人の側にいたい。離れたくないと思うんだ。
「……お前なぁ」
素直に言ったのに、兄さんは困った声だ。
でも、それ以上続かないから、兄さんの顔をのぞき込もうとしたら、
「人が事情を聞きに来ているのに、なんで君たちはイチャイチャしてるわけ?」
王太子の、冷たい声が響いた。
「してません! グレン、離せ」
「やだ。事情話すだけなら、このままでも大丈夫でしょ」
そして、僕は最初から全部話していく。
悪魔の復活、悪魔の魔法、そして忌み子の真実。
聞き終えた王太子は、珍しく絶句して、そのまま王宮に連れて行かれた。
国王の前でも、同じ説明を繰り返す。
僕は国王に頭を下げられた。
悪魔を倒して欲しいと頼まれて、僕はそれを、引き受けることになる。
※ ※ ※ ※
――悪魔の復活。
その驚愕の事実に、世界が揺れた。
悪魔に、唯一対抗できる術を持った、たった一人の無属性魔法を使い手。
彼は、悪魔との戦いを通して、英雄への道を歩み始める事になる。
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