妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

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32.連行

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私たちの集団は目立った。

ハインリヒ様の左手は私と繋がれ、右腕は妹が掴んでいる。
その後ろからは、項垂れた学校の問題児三人がトボトボとついてきている。

「ピーア! 何をしているんだ!」

まずファルター殿下が姿を見せてくれた。
事情は後で説明するからと、とりあえず一緒に来て頂く。

「一体何があったんだ?」

多分話を聞きつけたんだろう。シルベスト殿下も来て下さったので、これでメンバーは揃った。

空いている教室を使わせてもらい、事の次第を報告することになった。


*****


シルベスト殿下は、額に手を当てている。
ファルター殿下は、真っ青だ。

だと言うのに、未だに妹はニコニコと「あたしは良いことをしたんです」と言わんばかりの笑顔である。

「……とりあえず、そこの三人」

シルベスト殿下が気を取り直したように顔をあげた。
まず声を掛けたのは、問題児三人組だ。

「例え未遂でも、婦女子暴行は立派な罪。貴様らには、それぞれ家に相応の処分を求める。何も処分がなされなければ、陛下から何かしらの沙汰が下ると思え」

言い終わったシルベスト殿下はニヤッと笑った。あくどい笑みだ。

今までは問題児にその場限りの対応しかできなかったのが、今回の件は「お坊ちゃんの我が儘」で済ませるわけにはいかない案件だ。
こんなチャンスを逃しはしないだろう。

「そ、そんな……!」
「ちょっと待ってくれ……下さいよ! オレらは、その女に言われて……!」
「そうだ! 悪いのは、その女じゃないか!」

一斉に三人が指さしたのは妹だけど、その妹は不思議そうに首を傾げてみせる。

「あたしが何かした?」
「――てめぇっ!」
「だいじょうぶだよぉ。だって、ハインリヒ様を低能から救ってくれたんだもん。そんなひどいことにはなりませんよぉ」

パタパタと手を振る妹。
その様子を見て、文句を言いかけた男子生徒は胡散臭いものを見るような目で見て、ファルター殿下の顔色がますます悪くなる。

「ピーア、君は……」
「なんですかぁ?」

心底不思議そうに聞き返す妹に、ファルター殿下はそれ以上何も言えなくなる。
代わりに口を開いたのは、シルベスト殿下だった。

「ピーア嬢」
「はいっ」
「この後、国王陛下に君とファルターとの婚約破棄を、希望することとする」

その言葉にファルター殿下は項垂れて、妹は顔を輝かせた。

「うわぁ、嬉しいです! そして、ハインリヒ様と婚約できるんですね!」
「そんなわけないだろう!」

妹の発言に、ファルター殿下が真っ向から言い返した。
その勢いに妹が驚いている。

「ど、どうしたんですか、ファルター様」

「どうしたじゃない! ハインリヒ殿と婚約できるだと!? できるはず、ないだろう! 君は問題を起こしすぎたんだ! すでに君はもう、貴族女性として認められる範囲内にないんだよ!」

「え? 何のことですか?」

首を傾げる妹に、ファルター殿下は諦めたように笑った。
その笑みは、自虐のようにも見えた。

「ああ、本当に、なんで、俺は……」

小さくつぶやいた声が聞こえた。
それ以降、力尽きたように動こうとすらしなかった。

シルベスト殿下が、厳しい表情を妹に向けた。

「ピーア・メクレンブルク、君を王宮に連行する。様子見などせず、マレン嬢監禁事件の時点で処分を下すべきだったな。伯爵家に処分を任せるには、君のしたことは重すぎる」
「え?」
「……監禁?」

その時ちょうど、コンコンとドアがノックされた。
姿を見せたのは、クラリッサ様だ。

この教室に入る途中にクラリッサ様とも会ったんだけど、シルベスト殿下が何か言ったようで、すぐに去っていったのだ。

「殿下、兵士を連れて参りましたが」
「ああ、ご苦労。ちょうど良かった」

確かに、クラリッサ様の後ろには兵士が二人いた。
ダンジョン出現後、学校に詰めるようになった兵士たちだ。

「本来の仕事とは離れている事は承知しているが、ピーア・メクレンブルクを罪人として王宮へ連行しろ」
「かしこまりました」
「詰め所には、他の兵士もおりますので、問題ございません」

シルベスト殿下に答えて、妹の両脇を二人の兵士が抱えた。

「ちょっと! なんなのよ! 離しなさいよ!」
「来い!」
「ちょっと! いや! ハインリヒ様、助けて!」
「行くぞ」

暴れる妹を兵士たちが連れて行く。
その様子を見て、私は大きく息を吐いた。
何とも言えない、やりきれない気持ちだ。

「ハイン、マレン嬢、我々もこれで失礼する」

シルベスト殿下に声を掛けられた。

「マレン嬢には、辛い事を再度思い出させることになるが、後日王宮に招聘することになるだろう。メクレンブルク伯爵も呼んで、ピーア・メクレンブルクの処分を決めることになる」

「はい、殿下。かしこまりました」

すぐにハインリヒ様に助けてもらえたからだろう。
辛いとか怖いとか、そんな感情は一瞬で済んだ。だから、大丈夫だ。

ハインリヒ様と繋いでいる手が震えているのは、気のせいだ。

「では、また後日。ファルター、行くぞ」
「ま、待って下さい、兄上! 監禁って何ですか!?」
「王宮へ戻るぞ。ここで話を出来ることではない」
「……はい、承知いたしました」

シュンとしたファルター殿下は、シルベスト殿下の後について出て行く。
私にペコッと頭を下げて。

殿下方が出て行くと、気が抜けてヘタッと床に座り込んでしまった。

「マレン様、大丈夫ですか? 一体何が……」

クラリッサ様が心配そうに声をかけてくれたけど、返事が出ない。
一言、大丈夫と言えば良いのに、それが出てこない。

「マレン」

ハインリヒ様が膝をついて、私を抱き締めてくれた。
ホッとする。

その様子を見て、クラリッサ様は何かを感じたのだろうか。

「では、私は失礼致しますね」

それだけ言って、教室を出て行った。
そして、中には私とハインリヒ様の二人だけが残った。


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