妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
上 下
32 / 57

31.心に浮かんだ想い

しおりを挟む
「……………!!」

怖い。嫌だ。気持ち悪い。
そんな気持ちが一気に頭をよぎる。

「ハインリヒ様!!!」

気付けば、その名前を叫んでいた。

「何言ってるの。こんなところに来るわけ……え?」

嘲るような妹の口調が疑問に変わった。
同時に聞こえたのは、聞き慣れた……大好きな男の人の声。

「お前ら、マレンから離れろ」

目の前にいた男子生徒が吹っ飛んだ。
いや、ホントに文字通り。
ついでに、腕や足を押さえていた人たちも吹っ飛んでいた。

「マレン! 平気か!?」
「……ハインリヒさま」

ボロボロ泣き出して、すがりつく。

「何された!?」

怒ってくれるハインリヒ様の声が、とても嬉しい。
私は首を横に振った。

「……だいじょうぶ。地面に押し倒されただけだから。ちょっと背中が痛かったけど」
「なるほど分かった。あいつらの背中を踏み潰そう」

本気でやりそうなハインリヒ様に、ちょっと笑う。
さっきまであんなに怖かったのに、もう笑える自分にビックリだ。

「ハインリヒ様、十分って約束だったのに、まだ五分も経ってないよね?」
「……いいじゃないか、別に。様子次第じゃ、邪魔はしないつもりだったんだから」

ハインリヒ様が出した条件。
それが、「話をする時間は十分だけ」というものだ。十分経って迎えに行くまでと言われて、私はそれに頷いた。

でも、どう考えても十分なんか経ってない。言い訳がましいハインリヒ様が、ちょっと可愛い。

「でも、助けてくれてありがとう。来てくれて嬉しかった」
「ああ」

素直にハインリヒ様が十分待ってたら、私も無事じゃ済まなかった。
自然に出た笑顔でお礼を言ったら、ハインリヒ様は少し照れたように笑った。

「なんでっ!? なんでハインリヒ様、そんな低能のこと、助けるんですか!!」

すっかり忘れてた妹が、そこにいて叫んでいた。
ハインリヒ様が私を背中で庇うように立って、妹に向き直る。

「ピーア嬢、これはどういう状況だ? マレンはファルター殿下に呼び出されたはずだが、殿下はどこだ? なぜあなたがここにいる? 無関係ではないよな?」

「お姉様が悪いんです! ハインリヒ様、目を覚まして下さい! お姉様が何かして、ハインリヒ様を騙しているんです! あたしは、ハインリヒ様を助けようと……!」

ハインリヒ様が、目を細めた。

「ほお。俺を助けようとして、マレンを男子生徒に襲わせたと、そういうことか? ファルター殿下の名前を騙って?」
「そうです! ハインリヒ様、分かってくれましたか!?」

ハインリヒ様の声は低くて、どう聞いても怒ってるんだけど、なぜか妹は分かってくれたと顔を輝かせている。
どうしてそう、自分の都合の良いように取る事ができるのやら。

「……話は分かった。とりあえず、シルとファルター殿下に話を通そう。ピーア嬢、一緒に来い」
「はいっ!」

何も考えない妹は、満面の笑みで頷いている。
それを不気味そうに見たハインリヒ様は、倒れて呻いている男子生徒三人の所に行く。
私の手を掴んだままだ。

「さてお前ら、背中を踏み潰されて引きずられるのと、自分の足で立って歩いて、俺たちについてくるの、どっちか選べ」

私でさえヒィッと悲鳴を上げたくなるくらいの迫力だから、目の前の男子生徒の恐怖はそれ以上だったろう。

本当に踏み潰されると思ったのか、痛みに顔を歪めつつも機敏に起き上がっている。

「あ、歩きます」
「分かった、ついてこい。言っておくが、顔は覚えたからな。逃げようとしたらどうなるか、分かっているな?」

ハインリヒ様の脅しに、男子生徒たちは真っ青な顔をして、無言のまま何度も頷いていた。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

処理中です...