24 / 57
23.ダンジョンが消えて
しおりを挟む
二日連続の更新です。
前話でダンジョン編は終了です。
これからは、妹との決着だったり、ハインリヒとの関係だったりがメインの話になります。
ーーーーーーーーーーー
ハインリヒ様が無事にダンジョンの核を壊して帰還した。
その事実が嬉しくて嬉しくて、つい抱き付いて、抱き締められている事に気付いて顔が熱くなった。
慌てふためいて離れようとして……気付いたのは血の匂い。
「ハインリヒ様! 怪我は!?」
「……あ、やば」
ハインリヒ様の服には血がべったりとついていた。
目を見開いた。
「どこ!? 怪我はどこ!?」
「待ってくれ、怪我はどこもしてない。これは魔獣の返り血だ。倒すときに首を落としたから。それより、マレンの服も……」
怪我はないという言葉に半信半疑だったが、最後の言葉に疑問が浮かんだ。
そして、ハッとなって自分の服を見下ろす。
そりゃあ、抱き付いて抱き締められればこうなるよね、と言うしかない。血がべったりついていた。
ちなみに、今着ている服は学校の制服である。
「……うわぁ、どうしよう。血って落ちにくいのに」
「諦めて新しいのを買おうぜ。俺はもう洗うのは諦めた」
「……お前らな。貴族は、洗うなんていう考えには、なかなか行き着かないものだぞ」
突如、私とハインリヒ様以外の声が割り込んできた。
そちらに目を向ければ、いたのはシルベスト殿下。そしてもう一人は剣術科の生徒だったはずだ。
すっかり存在を忘れていた、と思って、慌てて話しかけた。
「で、殿下もダンジョンに乗り込んでいらっしゃったのですね」
何とか笑顔を作って言ったけど、殿下は何だか皮肉げな笑みを浮かべた。
「ようやく我々のことを認識してくれて、結構なことだ。ハインのことしか眼中にないのは我が国の将来としては結構なことだが、この状況で怪我の有無も聞かないのは、回復術士としてはどうなんだ?」
「も、申し訳ありません!」
表情と同じく嫌みっぽく言われたけど、内容は全くもってその通りなので、何も言い返せない。
「そ、それで、殿下、お怪我はございませんか?」
「かすり傷程度だ。治療は不要」
「――あ、は、はい」
不機嫌に言い放たれて、反射的に頷く。
そしてもう一人に視線を向ける。
名前を呼びかけようとして……知らない事に気付く。
「あ、あの、私はマレンと申します。メクレンブルク伯爵家の長女です。お怪我はございませんか?」
「は、はい。ありません。かすり傷程度です。――僕はミルコと申します。父は騎士の称号を頂いておりますが、僕自身は平民ですので、その、敬語で話して頂く必要はありません」
ここが辺境だったら「いやいやそんなことは」とか言い出してた。
関係はよく分からないけど、ハインリヒ様がダンジョンに乗り込むのに一緒に連れて行ったんだから、それなりに強さはあるはずだ。
十分に敬語で話す理由はあるんだけど、ここが王都である以上、貴族のマナーに従うべきだろう。
「分かったわ。じゃあ、そうさせてもらうわね」
頷いた。
かすり傷程度という自己申告だけど、問題なく立っているし、信じて問題ないだろう。
校庭で戦っていた四人を見る。
へたり込んでいるけど、私が見ている事に気付くと軽く手を振ってきた。
戦っている様子をずっと見ていたわけだし、治療を必要とする怪我はないはずだ。
「シルベスト殿下、この後はどうなさいますか?」
「ああ。ダンジョンがなくなったことは分かっただろうしな。王城に行って、父に報告しなければな。……その前に、避難している奴らに問題ない事を伝えるのが先か」
その言葉に、学校の最上階を見上げようとして、すぐその必要がないことが分かった。
「シルベスト殿下! ハインリヒ様!」
クラリッサ様が校舎から出てきたからだ。
息が僅かに切れているところを見ると、きっとダンジョンが消えるのを見て、走っておりてきたんだろう。
「クラリッサか。ちょうど良かった。ダンジョンの心配はなくなったと伝えろ。その後の対応は先生方にお任せする。とりあえず全員家に帰すべきとは思うが。我らは王城へ行って報告しに行く」
クラリッサ様からしたら唐突とも思える話じゃないかと思うけど、さすが将来の王妃様だ。
全く動揺することなく頷いた。
「承知致しました。学校内の連絡と今後の方針についてはお任せ下さいませ」
「うむ」
淑女の礼をしたクラリッサ様に、シルベスト殿下は満足そうに頷いた。
「では行くぞ、ハインリヒ。ミルコとマレン嬢もな」
「え、私も行くんですか!?」
「ぼ、僕もでございますか!?」
ハインリヒ様だけだと思っていたのに、名指しされてしまった。ミルコも同じように驚いている。
「お前らが来ないでどうする。行くぞ」
「マレン、行こう。ミルコも」
ハインリヒ様に手を取られた。
何かを疑問に思う間もなく、手を引かれる。
手を繋いでる、という事実に気付くまでに、若干の時間が必要だった。
「は、ハインリヒ様! 手……!」
「……ああ」
そっぽを向いているハインリヒ様の横顔が、赤い。
前に手を繋いだときもこうだったな、と思う。
ハインリヒ様の手は、大きくてゴツゴツしている。
剣を振る、男の人の手だ。
そう考えたら、ちょっとドキドキしてきた。
さっき抱き締められたことも思い出したら、一気に心拍数が上がった。
うわまずいどうしよう。
意識したら、何か急に色々恥ずかしくなってきた。
前話でダンジョン編は終了です。
これからは、妹との決着だったり、ハインリヒとの関係だったりがメインの話になります。
ーーーーーーーーーーー
ハインリヒ様が無事にダンジョンの核を壊して帰還した。
その事実が嬉しくて嬉しくて、つい抱き付いて、抱き締められている事に気付いて顔が熱くなった。
慌てふためいて離れようとして……気付いたのは血の匂い。
「ハインリヒ様! 怪我は!?」
「……あ、やば」
ハインリヒ様の服には血がべったりとついていた。
目を見開いた。
「どこ!? 怪我はどこ!?」
「待ってくれ、怪我はどこもしてない。これは魔獣の返り血だ。倒すときに首を落としたから。それより、マレンの服も……」
怪我はないという言葉に半信半疑だったが、最後の言葉に疑問が浮かんだ。
そして、ハッとなって自分の服を見下ろす。
そりゃあ、抱き付いて抱き締められればこうなるよね、と言うしかない。血がべったりついていた。
ちなみに、今着ている服は学校の制服である。
「……うわぁ、どうしよう。血って落ちにくいのに」
「諦めて新しいのを買おうぜ。俺はもう洗うのは諦めた」
「……お前らな。貴族は、洗うなんていう考えには、なかなか行き着かないものだぞ」
突如、私とハインリヒ様以外の声が割り込んできた。
そちらに目を向ければ、いたのはシルベスト殿下。そしてもう一人は剣術科の生徒だったはずだ。
すっかり存在を忘れていた、と思って、慌てて話しかけた。
「で、殿下もダンジョンに乗り込んでいらっしゃったのですね」
何とか笑顔を作って言ったけど、殿下は何だか皮肉げな笑みを浮かべた。
「ようやく我々のことを認識してくれて、結構なことだ。ハインのことしか眼中にないのは我が国の将来としては結構なことだが、この状況で怪我の有無も聞かないのは、回復術士としてはどうなんだ?」
「も、申し訳ありません!」
表情と同じく嫌みっぽく言われたけど、内容は全くもってその通りなので、何も言い返せない。
「そ、それで、殿下、お怪我はございませんか?」
「かすり傷程度だ。治療は不要」
「――あ、は、はい」
不機嫌に言い放たれて、反射的に頷く。
そしてもう一人に視線を向ける。
名前を呼びかけようとして……知らない事に気付く。
「あ、あの、私はマレンと申します。メクレンブルク伯爵家の長女です。お怪我はございませんか?」
「は、はい。ありません。かすり傷程度です。――僕はミルコと申します。父は騎士の称号を頂いておりますが、僕自身は平民ですので、その、敬語で話して頂く必要はありません」
ここが辺境だったら「いやいやそんなことは」とか言い出してた。
関係はよく分からないけど、ハインリヒ様がダンジョンに乗り込むのに一緒に連れて行ったんだから、それなりに強さはあるはずだ。
十分に敬語で話す理由はあるんだけど、ここが王都である以上、貴族のマナーに従うべきだろう。
「分かったわ。じゃあ、そうさせてもらうわね」
頷いた。
かすり傷程度という自己申告だけど、問題なく立っているし、信じて問題ないだろう。
校庭で戦っていた四人を見る。
へたり込んでいるけど、私が見ている事に気付くと軽く手を振ってきた。
戦っている様子をずっと見ていたわけだし、治療を必要とする怪我はないはずだ。
「シルベスト殿下、この後はどうなさいますか?」
「ああ。ダンジョンがなくなったことは分かっただろうしな。王城に行って、父に報告しなければな。……その前に、避難している奴らに問題ない事を伝えるのが先か」
その言葉に、学校の最上階を見上げようとして、すぐその必要がないことが分かった。
「シルベスト殿下! ハインリヒ様!」
クラリッサ様が校舎から出てきたからだ。
息が僅かに切れているところを見ると、きっとダンジョンが消えるのを見て、走っておりてきたんだろう。
「クラリッサか。ちょうど良かった。ダンジョンの心配はなくなったと伝えろ。その後の対応は先生方にお任せする。とりあえず全員家に帰すべきとは思うが。我らは王城へ行って報告しに行く」
クラリッサ様からしたら唐突とも思える話じゃないかと思うけど、さすが将来の王妃様だ。
全く動揺することなく頷いた。
「承知致しました。学校内の連絡と今後の方針についてはお任せ下さいませ」
「うむ」
淑女の礼をしたクラリッサ様に、シルベスト殿下は満足そうに頷いた。
「では行くぞ、ハインリヒ。ミルコとマレン嬢もな」
「え、私も行くんですか!?」
「ぼ、僕もでございますか!?」
ハインリヒ様だけだと思っていたのに、名指しされてしまった。ミルコも同じように驚いている。
「お前らが来ないでどうする。行くぞ」
「マレン、行こう。ミルコも」
ハインリヒ様に手を取られた。
何かを疑問に思う間もなく、手を引かれる。
手を繋いでる、という事実に気付くまでに、若干の時間が必要だった。
「は、ハインリヒ様! 手……!」
「……ああ」
そっぽを向いているハインリヒ様の横顔が、赤い。
前に手を繋いだときもこうだったな、と思う。
ハインリヒ様の手は、大きくてゴツゴツしている。
剣を振る、男の人の手だ。
そう考えたら、ちょっとドキドキしてきた。
さっき抱き締められたことも思い出したら、一気に心拍数が上がった。
うわまずいどうしよう。
意識したら、何か急に色々恥ずかしくなってきた。
12
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる