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13.回復
しおりを挟む教室に入ったら、血の匂いが充満していた。
「マレン! 来てくれたのね!」
「リスベス先生!」
先生は、車椅子に座って治療をしていた。
治療をしている男子生徒は、肩から大きく爪か何かで切り裂かれたようで、骨まで見えている。
そして、他に三人の男子生徒が、リスベス先生の近くに寝かされている。
うち一人は、ファルター殿下だ。胸の辺りからの出血がひどい。
「マレン、まずは殿下の治療を」
「はい」
先生の指示に頷き、殿下の側に膝をついた。
ちなみに治療の順番は、殿下だから先に、というわけじゃない。
今リスベス先生が治療している生徒が一番重症だ。次に重症なのがファルター殿下だ、というだけだ。
「ま、待ちなさいよ!」
「あんたみたいな低能が、何をするって……」
口を出してきたのは、午前中の授業でなんやかんやと言ってきた女子生徒。
「じゃ、あんたたちが治しなさい」
「……………」
怯んだ二人を私は冷めた目で見た。
「できないなら、口出すな」
それだけ言って、その二人のことは意識から完全に切り離した。
ひどい傷と出血だ。呼吸状態も悪い。
すぐに怪我の治療の魔法を使いたいところだけど、その前にするべきことがある。
「《診断》」
体の中の状態を診るための魔術だ。
魔方陣が出現し、ファルター殿下の体に消えていく。
魔物の中には毒を持つものもいる。
だから、傷を治す前に毒を受けていないかを確認しなければならない。毒が残っている状態で回復の魔術を掛けると、毒も一緒に活発化してしまうからだ。
もしも毒に侵されている場所があれば、その部分が紫色に光ってみえるんだけど、ファルター殿下は問題ないようだ。
ホッと息をついて、今度こそ怪我の治療に取りかかる。
「《傷回復・軽》」
使うのは、怪我の回復に特化した魔術の中でも、一番効果の弱い初級の魔術。
ちなみに、中級・上級とあって、妹が授業で使った魔術は、上級魔術だ。
普通は、体を覆うくらいに大きな魔方陣が出現するんだけど、私が唱えて出現したのは、手と同じくらいの大きさの魔方陣だ。
この程度の大きさの魔方陣しか出せないから、私は低能と呼ばれるわけだけど……。
初級魔術とは思えないくらいに強い光を放つ。
そして、光が消えたとき、ファルター殿下の傷からの出血は止まっていた。呼吸状態も良くなっている。
それでも、まだ表情は険しい。出血は止まったけど、傷はまだ残っている。
「《回復全般》」
続いて使った魔術は、傷と体力、双方を回復させるための魔術。
やはり出現した魔方陣は手の大きさ程度だ。
双方を回復させると言っても、回復量はそんなに多くない。それでも、両方を一度に回復させられる魔術はこれだけだ。
再び光を放つのを確認しながら、集中は切らさない。
「…………うぅ……」
小さく殿下が呻いたのが聞こえた。
同時に私は魔術を止める。
傷は塞がっていた。表情も穏やかになっている。
さっき呻いたけど、まだ目は覚まさないようだ。
体力も回復させたから、そう経たないうちに目を覚ますと思う。
可能であるならば、目覚めるまで側についているべきなんだけど、まだ重症者はいる。
ふと視線を感じた。
あの女子生徒の二人が、驚いた顔をしている。
「もうすぐ殿下が目を覚ますと思うから、側にいて頂戴。起きたら、状況を説明してあげて」
頼んで、別の生徒の元に向かう。
何か言いたそうにしているのは、無視する。
残っていた二人の重症者のうち、すでに一人は先生が治療を始めていた。
あとは、一人だけだ。
同じように、治療を開始した。
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