妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
上 下
14 / 57

13.回復

しおりを挟む

教室に入ったら、血の匂いが充満していた。

「マレン! 来てくれたのね!」
「リスベス先生!」

先生は、車椅子に座って治療をしていた。
治療をしている男子生徒は、肩から大きく爪か何かで切り裂かれたようで、骨まで見えている。

そして、他に三人の男子生徒が、リスベス先生の近くに寝かされている。
うち一人は、ファルター殿下だ。胸の辺りからの出血がひどい。

「マレン、まずは殿下の治療を」
「はい」

先生の指示に頷き、殿下の側に膝をついた。
ちなみに治療の順番は、殿下だから先に、というわけじゃない。
今リスベス先生が治療している生徒が一番重症だ。次に重症なのがファルター殿下だ、というだけだ。

「ま、待ちなさいよ!」
「あんたみたいな低能が、何をするって……」

口を出してきたのは、午前中の授業でなんやかんやと言ってきた女子生徒。

「じゃ、あんたたちが治しなさい」
「……………」

怯んだ二人を私は冷めた目で見た。

「できないなら、口出すな」

それだけ言って、その二人のことは意識から完全に切り離した。
ひどい傷と出血だ。呼吸状態も悪い。
すぐに怪我の治療の魔法を使いたいところだけど、その前にするべきことがある。

「《診断ディアグノーゼ》」

体の中の状態を診るための魔術だ。
魔方陣が出現し、ファルター殿下の体に消えていく。

魔物の中には毒を持つものもいる。
だから、傷を治す前に毒を受けていないかを確認しなければならない。毒が残っている状態で回復の魔術を掛けると、毒も一緒に活発化してしまうからだ。

もしも毒に侵されている場所があれば、その部分が紫色に光ってみえるんだけど、ファルター殿下は問題ないようだ。
ホッと息をついて、今度こそ怪我の治療に取りかかる。

「《傷回復・軽エルステヒルフェ》」

使うのは、怪我の回復に特化した魔術の中でも、一番効果の弱い初級の魔術。
ちなみに、中級・上級とあって、妹が授業で使った魔術は、上級魔術だ。

普通は、体を覆うくらいに大きな魔方陣が出現するんだけど、私が唱えて出現したのは、手と同じくらいの大きさの魔方陣だ。
この程度の大きさの魔方陣しか出せないから、私は低能と呼ばれるわけだけど……。

初級魔術とは思えないくらいに強い光を放つ。
そして、光が消えたとき、ファルター殿下の傷からの出血は止まっていた。呼吸状態も良くなっている。
それでも、まだ表情は険しい。出血は止まったけど、傷はまだ残っている。

「《回復全般ベハンドルング》」

続いて使った魔術は、傷と体力、双方を回復させるための魔術。
やはり出現した魔方陣は手の大きさ程度だ。

双方を回復させると言っても、回復量はそんなに多くない。それでも、両方を一度に回復させられる魔術はこれだけだ。

再び光を放つのを確認しながら、集中は切らさない。

「…………うぅ……」

小さく殿下が呻いたのが聞こえた。
同時に私は魔術を止める。

傷は塞がっていた。表情も穏やかになっている。
さっき呻いたけど、まだ目は覚まさないようだ。

体力も回復させたから、そう経たないうちに目を覚ますと思う。
可能であるならば、目覚めるまで側についているべきなんだけど、まだ重症者はいる。

ふと視線を感じた。
あの女子生徒の二人が、驚いた顔をしている。

「もうすぐ殿下が目を覚ますと思うから、側にいて頂戴。起きたら、状況を説明してあげて」

頼んで、別の生徒の元に向かう。
何か言いたそうにしているのは、無視する。

残っていた二人の重症者のうち、すでに一人は先生が治療を始めていた。
あとは、一人だけだ。

同じように、治療を開始した。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...