妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
上 下
10 / 57

9.一ヶ月後の現状

しおりを挟む
ハインリヒ様が入学してから一ヶ月。
相変わらずハインリヒ様は女生徒たちに人気だ。

ファルター殿下は真面目に剣や勉強に取り組みだしたらしい。国王陛下に、王族の権利を取り上げると言われたことがショックだったのか。

王族としての権利を取り上げられて、その後どうなるか国王陛下は明言しなかったけど、おそらく碌な事にはならないと思う。

一度、親心で私との婚約を結ばせた陛下だけど、二度目があるほど優しくない。

一方そんな殿下を支えるべき立場の妹はと言えば、相変わらずハインリヒ様へ声をかける。

学年が違うからファルター殿下と一緒にいられないのは分かるけど、何でハインリヒ様に近づこうとするのか。

婚約したからと言って他の男性と話しちゃいけないわけじゃないけど、特定の男性に近づくのは問題だと思う。

「マレン様、本気でお分かりになりませんの?」

私が漏らした疑問にそう言ったのは、シュトロハイム公爵家のご令嬢、クラリッサ様だ。
王太子シルベスト殿下の婚約者様でもある。

「クラリッサ様は分かるのですか?」

反問したら、なぜか笑われた。

「マレン様は、真っ直ぐで素直な考え方をお持ちの方ですのね」
「物は言いようだな。なぜ分からないんだ?」

シルベスト殿下にも言われた。

ちなみに今は昼休みだ。
シルベスト殿下とハインリヒ様。
学年は違っても同じ歳のお二人が、実は仲が良いと知ったのは最近で、それで一緒に食事をする機会が増えている。

「ピーア様はハインリヒ様の婚約者の座を狙っているんですよ」
「………………はあっ!?」

反射的にハインリヒ様を見る。
クスクスと笑うクラリッサ様の言葉を理解するには、少し時間を要した。

「何で俺を見るんだ。俺にそのつもりはないぞ」
「それは分かるけど……」

ハインリヒ様はムスッとして不機嫌そうだけど、驚いてはいない。

「なぜですか。妹はファルター殿下の事が好きで、ようやく婚約できたんじゃないですか」

「恋愛感情がどこまであるかは分かりませんが、ざっくばらんに言ってしまえば、お互いの利害関係が一致したのではないでしょうかね」

「利害関係……?」

私が辺境の地に行っている間に好き合ったわけじゃないんだろうか。
ファルター殿下が私と婚約破棄をしてきたのは、そういうことだと思い込んでいたんだけど。

「マレン嬢はファルターに迎合することはないだろう? ピーア嬢は逆で、ファルターに媚びて甘える。それが、ファルターの自尊心をくすぐったんだろうな」

「……はあ」

気のない返事が出た。
シルベスト殿下の言葉に無礼な反応だけど、学生の昼休みの雑談だから問題にはされないだろう。
確かに、ファルター殿下にかかわらず、私が誰かに媚びるとか想像がつかない。

「ピーア様からしたら、相手は王子殿下。結婚すれば、不自由なく贅沢な暮らしができるでしょう? 婿に来てもらうより、自分が嫁に行った方がより優雅に暮らせると思っているかも知れないわね」

「……ああ、なるほど。分かりました」

ファルター殿下と妹の婚約が成った時、国王陛下が妹に嫁に来てもらうと言ったとき、嬉しそうな顔をしていたのを思い出した。
つまりはそういうことなのだ。

「恋愛感情もあるかもしれないけれど、それよりも何よりも妹からしたらファルター殿下との婚約は、自分が贅沢するための手段でしかない、ということなんですね」

だから、ファルター殿下が王族から外されるかもしれない、となって、別の相手を捕まえようとしているわけか。
そこまで考えが及んで……呆れてしまった。
そんなの、無理に決まってる。

「頑張っているファルター殿下の力になろうとかないんでしょうか」
「同感だわ」

クラリッサ様は頷いて、でも物憂げに続けた。

「けれどね、困ったことにハインリヒ様とピーア様の組み合わせって、"武神様の息子"と"聖女の再来"でお似合いだって、他の生徒たちには人気あるのよ」
「……………へぇ」

驚くやら呆れるやらで、何もコメントが出てこない。
あえて言うなら……何となく面白くない。
何か、ムッときた。

「マレン、だから俺にその気はないからな。俺にはお前だけなんだから」
「……えっ、あ、い、いや、だから、そんなことは思ってないから!」

なんでか、ものすごく動揺した。
慌てて言ったら、何かハインリヒ様は不機嫌そうだ。

「"そんな事は思ってない"は、どっちに対してだ? 俺にはお前だけだって方を否定するのか?」
「ち、違うから!」
「そうか。じゃあ、信じてくれるんだな」
「……えっと、うんまあその……」

なんて答えれば正解なんだろう?
妹とどうにかなりはしないというのは、間違いない。
でも、えーと……まあこんなことで嘘をついたりはしないだろうから、信じてると言えば、信じてるけど……。

「百面相してますわね、マレン様」
「大体だな、ハイン。お前まだマレン嬢に婚約を受け入れてもらってないのか」
「……うっさいな、聞くな。まだだよ」
「さっさとしろ」

私が混乱しているのを余所に、会話が始まっていた。

「父上がマレン嬢をファルターの婚約者に選んだのは、マレン嬢をこの国に留めるためでもあるんだぞ。お前がノンビリしていて、その隙に他国に持っていかれたら我が国の損失だぞ」

……初めて聞いたんですけど。
単に、ファルター殿下のためだけに私を選んだわけじゃなかったってこと?

「……国の損失というほどでもないと思いますけど」

回復魔術の腕には、確かに自信はある。でも、私と同等以上の腕の人なんて、探せば結構いると思う。

「腕の良い回復術士は多いが、マレン嬢と同世代以下に限れば、その数は激減するだろう。もちろん、これから伸びてくる奴もいるだろうが、そういう奴らにマレン嬢の存在は大きな刺激となる。いなくなられては困るのだ」

なるほど、そっかー。
確かに、私が思い浮かぶ腕の良い回復術士は年上の人たちばかりだ。

今はいいけど、将来シルベスト殿下が国王となったときに、腕の良い回復術士がお年寄りだけ、なんてことになったら、大変だろう。

「分かったなら、さっさとハインと婚約しろ。あまり遅いと、陛下の命令で婚約させられる可能性もあるぞ」
「ぶっ」
「必要ない。俺がちゃんと口説き落とすから、余計な事するな」

噴いた。
でもって、赤くなった。

いやほんと、勘弁して下さい。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...