妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
上 下
6 / 57

5.マレンとハインリヒ

しおりを挟む
「お話しは終わりでよろしいでしょうか、陛下」

ファルター殿下が真っ白い顔になったところで切り出してきたのは、ずっと黙ったままだったハインリヒ様だった。
陛下の眉がピクッと動く。
なぜか悔しそうな表情をされる。

「ああ、終わった」

ずいぶんと投げやりな感じで答えている。
どうしたんだろう?

不思議に思っていると、ハインリヒ様が私の前に来て、突然跪いた。

「は、ハインリヒ様!?」
「メクレンブルク伯爵令嬢」

左手を取られた。
他人行儀な呼び方だけど、たまにはこういう気取った呼び方もいいね、と呼び合っていた事もある。

「俺もモンテリーノ学校に入学することになったんだ。その手続きのため、父も一時王都に帰還した」
「え?」

あんな学校、と評していたのに、なぜわざわざ入学するの?
しかも、何で跪く必要があるの?

「君を追いかけてきた、と言ったら、信じてくれるか?」
「……え?」

今度は理解が追いつかない。
ハインリヒ様は少し緊張した顔をしていた。

「マレンが父の命を救ってくれたあの日からずっと、君を見てた。マレンしかいないと、そう思っていたんだ」

緊張した顔に、わずかに笑みが浮かべられた。

「君が王子殿下の婚約者と知って諦めた。でも諦めきれなくて……今、君に婚約者はいなくなった。だから、と言ってはなんだが、その座に立候補したいんだ」

「え?」

「マレン・メクレンブルク嬢、あなたのことが好きなんだ。俺と婚約してくれ。そして、ゆくゆくは俺の妻になってほしい」

真っ直ぐ私の目を見て、告げる。
そして、手の甲に恭しく口付けされて、ようやっと告白された事を理解した。

私ができたのは、ただ呆然とすることだけだった。


*****


今から五年前。

突如現れたダンジョン。
逃げ惑う人々。あちこちから上がる悲鳴。
明らかに人と違うモノが現れた。

「父上っ!!」

その、人と違うモノから私たちを守って、大きな傷を負った男の人。
そして、その人にしがみついて泣き出さんばかりの、私より少し年上の男の子。

怖かった。
男の人から赤い血が流れる。流れる血が、その男の人の命を削っていく。

『目を逸らしちゃ駄目よ、マレン。辛いし、苦しい。どんなに頑張ったって、報われないときだってある。それでも、私たち回復術士は絶対に目を背けちゃいけないの』

母から教えられたことが、頭をよぎる。

「私が治す!」

気付けばそう叫んで、その男の人の側に駆け寄った。
まだ私は未熟だ。
患者さんの治療をさせてもらったことはない。

でも、未熟でも何でも、この場にいるのは私だけだった。

『報われないときもあるけど、報われるときだってあるわ。だからね、いつでも全力で、真剣に向き合うのよ』

報われるか報われないかは分からない。
でも、今の私にできる最高の治療をするんだ。

そう決意して夢中で治療をしている間、その男の子が父親じゃなくて私を見ていた事には、まったく気付かなかった。


この男の子がハインリヒ様だ。
これが、私たちの出会いだった。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...