妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
上 下
3 / 57

2.婚約破棄に向けて①

しおりを挟む
そして、放課後。
王宮の会議室には関係者が集まっていた。

シルベスト殿下にファルター殿下。
私と妹のピーア。
ついでに、私の父と義母も。
国王陛下はまだいらっしゃっていない。

けれど、私は関係者じゃない、お二人の姿に驚いた。

「ローベルト様、ハインリヒ様、お久しぶりです。辺境から戻られていたのですか?」
「久方ぶりだ、マレン嬢。帰還は一時的なものだ。少なくとも私はすぐ戻るよ」

この国の将軍閣下、辺境の軍をまとめていたローベルト様。ハインリヒ様の父君だ。

武神とも名高いローベルト様。
軍隊の指揮もできないわけじゃないけど、どちらかと言えば、個人の武勇で地位を上げていった方だ。

だから、辺境の軍を実際に指揮していたのは他の人だけど、だからといってローベルト様がいなくていいはずがない。

「何かあったのですか?」

心配になって聞いたけど、ローベルト様は含みを持たせた笑みで、ハインリヒ様をチラッと見る。
すると、ハインリヒ様も似たような笑みを見せた。

「マレン。これから何やら話をすると聞いた。その後に説明するよ」

そう言われてしまえば、それ以上聞くこともできない。
というか、お二方はこれから何の話をするのか、ご存じなのだろうか。

「お姉様ばかり話をしてズルいです。その方たち、どなたですか?」
「そうよ、マレン。知り合いなら、まず紹介するのが筋でしょう?」

妹と義母だ。
何がずるいのか分からないし、知り合いだからって絶対に紹介しなければいけないなんて事はない。

これが普通の家族のように仲が良ければ別かも知れないが、正直なところあまり紹介したくない。

ローベルト様もハインリヒ様も、顔立ちがいい。はっきり言ってイケメンだ。
そのイケメンを前にして、目がギラギラしている二人に、何が悲しくて紹介せねばならんのか。

「皆、集まっているな」

だが、ちょうどよく国王陛下が入室された。
皆が礼を取り、雑談は終了だ。

国王陛下が頭を上げるように言って、重々しく話し始めた。

「さて、前置きは良かろう。さっそく要件から入る。ファルター、お主から何か話があるそうだな」

ズン、と腹に響くような声だ。
思わずゴクッと唾を飲み込んでしまったけど、ファルター殿下は顔を真っ青にしていた。

「ち、父上、俺は……」
「父ではない。今余は国王としてこの場におるのだ」
「も、申し訳ありません、国王陛下」

出鼻からくじかれたファルター殿下だけど、それでもしっかり顔を上げた。

「国王陛下、俺……じゃなく、私はマレン・メクレンブルクとの婚約を破棄します。そして、ピーア・メクレンブルク嬢と婚約します!」

真っ青な顔で、若干声も裏返ってたけど、それでも最後まで言い切ったことだけは褒めても良いかもしれない。
だけれども、致命的な間違いがある。

「ファルターよ。貴族の婚約は余が許可することによって初めて成り立つ。そのため、その解消や破棄にしても余の許可が必要。そなたができるのは、それを希望することだけだ」
「え、あ……」

ファルター殿下の顔色がさらに悪くなった気がする。
でも、国王陛下の仰る通りだ。
婚約の破棄を希望します、婚約を希望します、という言い方をしなければいけないのだ。

些細なことでは済まない。
ここが非公式の場だからまだいいけど、公式の場だったら陛下の職権を乱用したと言われてもおかしくない。

「ではファルターよ、理由を聞こう。マレン嬢との婚約破棄を希望する理由。そしてピーア嬢との婚約を希望する理由。述べてみよ」
「え、あ……は、はい」

完全に国王陛下に呑まれてる。
もし私が普通に婚約者のままだったら、何かフォローするべく口出ししていたかも知れないけど、婚約破棄を告げられた身でそれは必要ないだろう。
ただ黙って殿下が口を開くのを待った。

殿下がゴクッと唾を嚥下するのが見えた。
意を決したように話し始めた。

「へ、陛下もご存じかと思います。ピーア……ピーア嬢の回復魔術の成績はとても良いです。わずか十五歳で上級の魔術まで使えるようになり、聖女の再来とまで言われるほどです」

ファルター殿下の言葉に、妹が頬を赤く染める。
それを無感動に見ていると、ファルター殿下の視線が私にも向けられた。

「それに対してマレンの成績は、地に落ちています。辺境の地で回復術士をしていたという話ですが、どこまで本当か分かりません。王子たる私は、能のないマレンより、優秀なピーアと結婚して子孫を残すことが、この国のためになると判断致しました」

おおっと拍手をしたくなった。
陛下に怯みながらも、きちんと自分の言いたいことを言い切った。
言葉遣いも話の持っていき方も悪くない。

場違いにも感動した私とは逆に、陛下は力なく肩を落としたようだった。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...