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第十七章 キャンプ

騎士団長登場

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「やったな、アレク」
「ああ」

 声をかけてきたバルに答えて、アレクは剣をしまう。辺りはすでに真っ暗だが、迷うことなくリィカとユーリのいる場所に戻る。
 ユーリが、リィカに《回復ヒール》をかけていた。

「大丈夫なのか、リィカ」
「うん、平気」
「平気じゃないですよ、リィカ。《回復ヒール》の効果も薄いようですし、休まないと駄目です」

 ユーリがリィカにピシャリと言って、アレクとバルを見る。

「ドラゴンの攻撃してきた魔力を、一度自分の内側に取り込んだことで、リィカ自身の魔力が不安定になっています。おそらくは時間がたてば落ち着くでしょうが、今はあまり動かさない方がいいですね」

 ユーリの言葉を受けて、アレクはリィカを見る。「大丈夫なのに」とやや不満そうにしているのは受け流した。周囲を見回す。

「できれば、山からは下りたいな。キャンプ地に行けば、色々物品は残っているだろう」
「行ったところで、魔物が大量じゃねぇの?」
「……ああ、そうか」

 今いる場所も、ドラゴンが倒れているそのすぐ側だが、キャンプ地とてその周辺は倒れた魔物が大量である。季節はすでに夏だ。魔物の死骸の匂いのことなどを考えると、どちらも微妙だ。

「では、ここで一晩泊まりましょうか。ちょっと骨が折れますが、あのドラゴンを浄化してしまいますから、待って下さい」
「待て待て、んなもったいねぇことすんじゃねぇ。軍が引き受けっから、お前らは山を下りろ」

 ユーリの言葉に、思わぬ方向から答えが返ってきた。驚いて四人がそちらに顔を向ける。

「親父っ!?」

 現れた人物に、そう言ったのはバルだ。
 そう、そこにいたのはバルの父親であり、アルカトル王国の騎士団長、ラインハルト・フォン・ミラーだった。

「どうしてここにいるんだ?」

 このキャンプに同道していたわけではない騎士団長の登場に、アレクが不思議そうに問う。有事の際の切り札として、騎士団長は王都から動かないことが多いのだ。

「キャンプ二日目に、大量の魔物が出たって報告が届いていたからな。それ以降は問題ないってことだが、念のため追加の軍を編成して出発した。ギリギリ間に合わんかったが、ま、後片付けには間に合ったってことで、良しとしてくれや」

 なるほど、とアレクは納得した。確かに定期連絡くらいはしているだろうし、魔物が大量に出た話が王都に届いていないわけがない。そうなれば、応援の軍の派遣くらい当然されるだろう。

「ミラー団長がいたのなら、少しくらい魔物を通してしまっても問題なかったな」
「んだな。少しくらい仕事を残しておいてやれば良かったぜ」

 アレクが言うと、バルも同意する。騎士団長の目がつり上がった。

「ドアホウが。Bランクまでなら何とかなるが、Aランクもいたんだろうが。そんなのの相手は、ごめんだぞ」
「Bランクまでならいいのかよ」

 バルが突っ込んだ。自らの父親が強いとは知っていても、実際にどの程度の魔物にまで通じる強さなのかを知ることはなかった。

 旅に出る前に手合わせをしていたときは、勝負は一進一退。実力は拮抗していた。だが、あの頃の自分に、Bランクまでなら何とかなると言い切れたかと考えると、無理と思わざるを得ない。

 父親が手加減していたとまでは言わないが、やはりあの頃はまだまだ差があったんだろうな、と改めてバルは思う。
 そして、アレクも似たようなことを考えつつ、騎士団長へ質問を続ける。

「兄上たちとは会ったのか?」

「当たり前だろ。そこから情報を聞いた。――心配すんな、あっちは問題ねぇよ。無事に宿に到着した。とはいっても、今晩は泊まる予定じゃなかったから、宿側もかなりバタバタしていたが、そこで一泊できるだろうさ」

「そうか、良かった」

 一体も魔物は通していないとは思ったが、不安がなかったわけではない。ホッと息を吐く。

「俺たちは、キャンプ地で一晩泊まるのか?」
「ああ、そうしてくれ。今、兵士たちが魔物達の片付けをしてる。俺は山の中の状況確認とお前ら探しに、一人でここまで来たが。できれば、こっちの状況も聞きてぇが……嬢ちゃんは大丈夫か?」

 騎士団長の目が、先ほどから苦しそうに胸の辺りを抑えているリィカに向かう。リィカが慌てて返事をした。

「あ、はい、だいじょうぶで……」
「魔法での回復は効果が薄いので、ゆっくり休ませないと駄目な状態です。状況の説明は、リィカを休ませてからでいいでしょうか」

 大丈夫と言いかけたリィカの言葉を、ユーリが遮って伝える。不満そうなリィカを見て、騎士団長が笑った。

「ユーリッヒのそういうところは、神官長そっくりだな。諦めろ、嬢ちゃん。駄目と言ったら、何を言ったって駄目の一点張りだ。状況説明は明日でいい。お前ら全員、疲れてんだろうからな」

 そう言うと、リィカに手を伸ばして、その膝裏をすくい上げる。

「え?」

 騎士団長の左腕の上にちょこんと座る形になったリィカは、疑問の声をあげつつ、慌ててその肩に捕まった。

「悪ぃな、嬢ちゃん。ホントならちゃんと抱えるべきなんだろうが、山ん中障害物も多いから、これで勘弁してくれ」
「い、いえ、あのその……わたし、自分で歩け……」
「おっかねぇ顔してる神官様を、あんたが自分で説得すんなら構わねぇぞ?」
「……ムリです」

 リィカはガクッと項垂れた。本当にユーリが怖い顔をしているのかどうかは、もう暗くて分からないが、そういう顔をしていることは想像できる。

「んじゃあ行くぞ」

 そう言って、さっさと歩き始めた騎士団長に、リィカがしっかり捕まったところで、アレクの不満そうな声がした。

「なんでミラー団長がリィカを抱えるんだよ」
「お前ら疲れてんだろ? 人一人抱えんの、キツイだろうが」
「リィカは軽いから、問題ない」
「ブホッ」

 突然、騎士団長が吹き出した。抱えられているリィカがギョッとした。

「いやぁそうか、アレクがなぁ。そうかそうか、好きな女に他の男が触るのはイヤか。いやぁいいね」

 騎士団長は、アレクをからかうような口調で笑いながら、リィカを下ろすことなくさっさと山を下っていく。
 アレクが「待てっ」と言いながら後を追いかけ、バルとユーリも顔を見合わせて苦笑しながら、後をついていったのだった。
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