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第十七章 キャンプ

VSティアマト③

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「リィカっ!」

 アレクが声まで蒼白にして叫ぶ。バルとユーリも、顔色はアレクと変わらない。アレクは、グッと唇を噛んだ。

「アクートゥス!」

 右手に握る魔剣の銘を叫ぶ。ユーリは、魔剣に流れる魔力の強さに、目を見張る。そして強く剣が輝いた。

 ――斬!

 アレクの魔剣アクートゥスが、ドラゴンの翼を切り裂いた。

 それは、先ほど切り落とした左側の翼と同じ側だ。二対あった翼は、右側に二枚を残すのみで、左の翼はなくなった。これでもう、飛ぶことは不可能だ。

「ギャアアァァァアァッ!」

 翼を切り落とされた痛みだろう。ドラゴンが大きく叫び、その凄まじい水流が止まった。

 リィカがどうなったのか、確認したかったアレクだが、ドラゴンがアルクを睥睨したため、動かずその場で剣を構える。その代わりというわけでもないが、ユーリがリィカに駆け寄ろうとして、その足が止まった。

「いけぇっ!」

 リィカが、剣を真っ直ぐドラゴンに向けて叫んだのだ。無事だ。
 リィカの剣は、風の魔力である緑色のほかに、水の魔力の色の青も宿り、緑と青の魔力の綺麗なコントラストができていた。

 それが、剣から一直線にドラゴンに向かって射出された。

「ギャアァァァァッ!」

 ドラゴンは完全にリィカに背中を向けていた。命中するかと思われたが、咄嗟に左の前足を振るって、リィカの射出した魔力を受け止めた。……いや、受け止めようとした。

「ギャアァァッ!?」

 リィカの攻撃を受け止めきれず、ドラゴンの前足を消滅させる。その瞬間、アレクが走り出した。ドラゴンが痛みで動揺している今がチャンスだ。だが、ユーリの声が響いた。

「《輪光リング・ライト》!」
「………!」

 光の中級魔法が、アレクのスレスレの場所をかすめていった。何とか立ち止まって回避したアレクが息を呑んだ。ドラゴンの長い尻尾が、自分めがけてふるわれていたのだ。

 ユーリの魔法で弾かれた尻尾だが、すぐまたアレクめがけてふるわれた。

「フォルテュード!」

 が、今度はバルがその尻尾を正面から受け止めた。ギリギリと押されながらも、バルはアレクにチラッと視線を向ける。その視線に、アレクは躊躇わずにドラゴンに向けて走り出した。尻尾の攻撃など、ドラゴンを倒してしまえば何も問題ない。

 だが、ドラゴンが口を大きく開いた。何度も見た、水流の攻撃だ。アレクは躊躇うことなく、そのスピードを上げた。

「ギャアアァァァッ!」

 その口から、予想通りに凄まじい水流が放たれた。しかし、その後はアレクの予想を完全に裏切った。

「どわっ!」
「ギャワッ!?」

 バルが尻尾に跳ね飛ばされる。それはバルが力負けをしたからではない。尻尾が想定外の動きをしたからだ。

 そしてドラゴンも驚いた声をあげる。水流の攻撃を繰り出した瞬間、ドラゴンの体が右側に傾いたのだ。左足が宙に浮く。その動きで尻尾も思わぬ動きをすることになった。

(そうか、しまった)

 今、ドラゴンは右側にのみ翼が二枚ある。つまりは体のバランスが右に寄ってしまったのだ。そのために強力な攻撃を生み出した際、バランスを保つことができなかった。

 それでもドラゴンは倒れなかった。自分で何とか体勢を立て直している。だが、バランスを崩したことで、繰り出された水流は、ドラゴン自身でさえ思っていなかった場所へと向かった。

 ――つまりは、リィカの元だ。

「リィカ!」

 リィカは、手で胸を押さえて苦しそうに呼吸をしている。先ほどの水流のダメージがあるのだろうか。
 声まで蒼白にして叫んだアレクだが、そのリィカを庇うようにユーリが立った。

「《結界バリア》!」

 もう何回それを聞いたか分からないくらいに慣れた、ユーリの魔法。だが、アレクはそれを見て驚いた。

 ユーリは剣を真っ直ぐに伸ばしている。その先から、透明な《結界バリア》がまっすぐに伸びているのだ。そして、それが水流と激突した。

「くっ!」

 ユーリが、少し苦しそうに呻いた。

 細長い《結界バリア》と水流の激突で、弾かれた水が周囲にまき散らされる。アレクとバルは、慌てて避けた。弾かれただけとは言っても、ぶつかったら余裕で骨の一本や二本はやられそうな威力がある。

 もう少し考えろ、と思わなくもないが、正攻法で凌ぐのは無理なのだろう。だがそのせいで、その攻撃に割って入るのが難しくなっている。やるとするなら……。

「背後からか」
「だな。尻尾はおれに任せろ」
「分かった、頼んだ」

 アレクとバルは短く会話を交わし、ドラゴンの背後へと回り込む。ユーリの《結界バリア》が、徐々に水流に押されているのが分かった。

「ギャアァッ!」

 背後に回った二人に、ドラゴンも気付く。予想通りに、尻尾が二人を薙ぎ払うべく振るわれてきた。

「今度は負けねぇぞ!」

 バルが魔剣フォルテュードで受け止める。先ほどは後ろに押されてしまった足は、今回はびくともせずにその場から動かない。

 アレクは、右にある翼を避けて、左側から走り寄る。たいしたものだと思う。口からは水流で攻撃し、後ろは尻尾で攻撃する。全く別々の攻撃を同時に繰り出しておきながら、どちらも強い攻撃力だ。

 だが、もう取れる手はないだろう。翼で風を起こしていたが、片翼になってしまった今、それをしようとすれば、またバランスを崩すだけ。前足も左側はリィカの攻撃によって失っている。

 後は、アレクの剣がドラゴンの首を捉えるだけ。

 そう思った瞬間、ドラゴンが残っている翼を動かした。

「えっ!?」
「なっ!」
「ぐあっ!」

 動かされた翼の勢いで、ドラゴンの体が回転した。
 右足を軸に、水流の攻撃を続けたまま、長い尻尾を存分に伸ばしたまま回転した。突然攻撃が途絶えたユーリが疑問をもらし、アレクが横から襲ってきた水流を何とか躱し、回転の勢いでバルがまたも弾かれる。

 胸を押さえているリィカを庇いつつ、何とかアレクたちは攻撃範囲外まで下がる。だが、それで見た光景に、唖然とした。

 ドラゴンが回転を続けている。風がドラゴンを取り囲むように回転している。それは、風の中級魔法《竜巻トルネード》のよう。

 いや違う、とリィカは思う。その風の中に水も一緒に渦巻いている。周囲の木々もその竜巻の中に取り込まれてしまっている。どちらかと言えば、風と土の混成魔法《砂塵嵐ダスト・ストーム》に近い。だが、そんなものが比較にならないほどに、デカい。

「……どうすんだ、これ」
「力尽きて自滅してくれればいいんですけど」

 バルの言葉にユーリが希望混じりの言葉を発するが、アレクが首を横に振った。

「そんな楽観視はできない。それに移動を始めた。こっちに来ている」

 確かに、その大きな竜巻は、ジリジリと向かってきている。このスピードなら逃げるのは簡単だ。だが、もしもこの威力を維持したまま山を下りて、街に向かってしまえば、その被害は甚大なものになる。

「ここで何とかするぞ」
「分かった。わたしがやる」

 アレクの言葉に、苦しそうにしながら応じたのはリィカだった。
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