上 下
576 / 629
第十七章 キャンプ

戦いの様子:バルとアレク

しおりを挟む
 数が多い。それが、バルの偽りのない感想だ。
 四方から魔物が襲ってきていることを察したとき、バルはその場を動かなかった。移動するなら、他の三人の方が早い。だったら自分が残った方が面倒がない。

 それを口にしたわけでもないのに、アレクもユーリもリィカも、バルに確認することなくこの場を離れた時には、少し笑ってしまった。何も言わなくても分かってくれる、などというのは幻想だと思っているが、今の自分たちの関係はそれに近い気がしている。

「【犬狼遠震撃けんろうえんしんげき】!」

 土の、縦に振り下ろす剣技を放ち、十数体もの魔物に命中して倒れる。元々複数の魔物に対して攻撃可能なこの剣技だが、十以上もの相手に放とうとすると、逆に一撃辺りの威力が落ちる。

 それでもCランクの魔物を倒せているのは、バルの実力の証明でもある。だが、バルは剣から聞こえたピシッという音に、眉を寄せた。

(そろそろ限界か)

 何せ加減などしていられない。ほとんど全力で放っているのだ。この普通の剣が、そうそう保ってくれるはずもない。

(ま、しょうがねぇか)

 出し惜しみできる状況ではない。自分が倒れてしまえば、あっという間に瓦解する。見られたくない、と言っていられる場合ではなかった。

「【鯨波鬨声破ときこうせいは】!」

 今度は、水の縦に振り下ろす剣技を唱える。再び十数体の魔物を倒すが、ここまでだった。ビシッという音とともに、刀身が砕け落ちる。

「バルムート様!」
「問題ねぇよ」

 近くにいた騎士団員の一人が、その剣を見て悲鳴のようにバルの名を呼ぶが、チラとも見る事なく、バルはアイテムボックスに手を触れる。
 そしてその瞬間、バルの手には抜き身の剣が握られていた。

「頼むな、フォルテュード」

 応えるように、鍔の青い宝玉が光った。


※ ※ ※


「【百舌衝鳴閃もずしょうめいせん】!」

 一番遠い場所までの移動をあっという間に終えたアレクは、やはりバルと同じく縦に振り下ろす剣技を繰り出す。

「魔剣を使わずに済ませるのは、無理だな」

 早々にその事実にアレクも気付く。そんなことを気にしていられる余裕はない。生徒と教師が脱出するまで、一体も後ろに通さずに倒し続けなければならないのだ。

 そこまで考えて、唐突に言い忘れていたことあったことに気付いた。チラッと横を見れば、そこにいるのは魔法師団員だ。大丈夫だろうかと脳裏をよぎったが、ここに師団長派閥の団員はいないだろう。であれば問題ないはずだ。

「悪いが、ヒューズに伝言頼んでいいか」
「……え? は、はいっ!」

 驚いたように肩をビクつかせた魔法師団員に、アレクは告げる。

「この場には俺たち四人だけが残る。護衛たちも全員、生徒や教師と一緒に脱出するよう伝えてくれ」
「そ、そういうわけには……!」
「俺たちだけの方が自由に動ける」

 淡々と言い切れば、魔法師団員は反論しようとしてできなかったのか、悔しそうな表情を見せた後に一礼して去っていく。
 それを見送る余裕などはなく、アレクはさらに剣技を繰り出した。

「【隼一閃しゅんいっせん】!」

 風の横凪ぎの剣技。三日月型の弧を描く剣技は、その大きさは通常の倍以上あった。複数の魔物に命中し、さらにそれだけでは終わらずに、後ろにいた魔物まで巻き込んで倒していき、ぽっかり中央が空いた。

 だが、空いた中央も、すぐ魔物に埋め尽くされる。
 それを確認すると同時に、剣がボロッと崩れ落ちた。アレクは口の端をあげて、刀身の壊れた剣を魔物の群れに投げつける。そして、アイテムボックスに触れた。

「力を貸してくれ、アクートゥス」
『言われるまでもない』

 抜き身の剣を手に持ち、久しぶりに感じる脳裏に響く声に、アレクの口元ははっきりと笑みを浮かべたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

追放された陰陽師は、漂着した異世界のような地でのんびり暮らすつもりが最強の大魔術師へと成り上がる

うみ
ファンタジー
 友人のサムライと共に妖魔討伐で名を馳せた陰陽師「榊晴斗」は、魔王ノブ・ナガの誕生を目の当たりにする。  奥義を使っても倒せぬ魔王へ、彼は最後の手段である禁忌を使いこれを滅した。  しかし、禁忌を犯した彼は追放されることになり、大海原へ放り出される。  当ても無く彷徨い辿り着いた先は、見たことの無いものばかりでまるで異世界とも言える村だった。  MP、魔術、モンスターを初め食事から家の作りまで何から何まで違うことに戸惑う彼であったが、村の子供リュートを魔物デュラハンの手から救ったことで次第に村へ溶け込んでいくことに。  村へ襲い掛かる災禍を払っているうちに、いつしか彼は国一番のスレイヤー「大魔術師ハルト」と呼ばれるようになっていった。  次第に明らかになっていく魔王の影に、彼は仲間たちと共にこれを滅しようと動く。 ※カクヨムでも連載しています。

処理中です...