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第十七章 キャンプ

戦いの様子:リィカとユーリ

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 前方から来ている魔物が、このキャンプ地を囲うように動いていることにリィカたちが気付いたとき、その対策のための決断は早かった。

「中央へっ」
「分かった」

 リィカの一言に、アレクが答えて抱えて走り出す。駆け付けてきた兵士たちの、疑問の表情を無視して、その横を走り抜ける。そして同時にユーリも走り出した。その場に残ったのはバルだ。

 すでに魔物は近い。ちんたら倒している余裕はない。上級魔法で一掃してしまったほうが早いし、安全だ。そして、四方から襲ってくる魔物を倒すには、できれば中央で魔法を使った方が、対処がしやすい。

 別にユーリがそれをやってもいいのだが、リィカが咄嗟にあげた声にユーリも何も言うことはなかった。あえて言うなら、リィカの方が魔力量が多いというのが、理由と言えば理由だろう。

 そして移動するなら、アレクが一番早い。リィカが走るより、アレクが抱えた方が早い。
 それらを各自がほとんど本能的に判断した結果、ギリギリで生徒たちに被害が及ぶ前に、魔物を倒すのに間に合ったのだ。


※ ※ ※


 アレクと別れたリィカは、凝縮魔法二十発を生み出しては魔物を倒す、という行程を繰り返していた。
 上級魔法で魔物を倒したとはいっても、それは前方の魔物を倒したというだけで、まだまだ魔物はいる。

 近くに兵士たちもいる。リィカが魔法使いだからだろうか、魔法師団員はほとんどいなく、騎士団員がほとんどのようだ。だが、誰の表情を見ても、ひどく険しい顔をしている。

(たぶん、これだけのCランクの相手を、したことがないんだろうな)

 リィカはそう思う。
 馬車で移動の二日目、兵士たちの戦いぶりを見たが、Dランクの相手であれば多少の余裕はありそう、という程度に見えた。Cランクの魔物が相手では、その余裕もないだろう。

 再び凝縮魔法を発動し、放つ。
 魔物の全種類を覚えてはいないが、魔物の持つ魔力量や体格なんかで、その魔物のおおよその攻撃スタイルは推測できる。動きの速かったり遠距離でも攻撃してきたり、空を飛んできたりする魔物を、リィカは優先的に狙って倒していた。

 たどり着くのは、力は強くとも動きの鈍い魔物がほとんど。油断していいわけではないが、まだ倒しやすい相手だ。兵士たちの様子を見ながら、それが正解であったことにリィカはホッとした。

 気になるのは、ユーリだ。
 凝縮魔法は、自分ほどには使えない。光魔法は、多数に対して攻撃できる魔法が上級魔法しかない。だが、上級魔法を連発していたら、いくらユーリでも魔力がなくなってしまう。

「いや、今は人のこと、気にしてる場合じゃないね」

 小さくつぶやいて、再び魔法を放った。
 後から後から魔物が押し寄せてくる。他に気を向けている場合ではなかった。


※ ※ ※


 一方のユーリは、まさにリィカが気にしたことを気にしていた。誰に言われるまでもなく、それはユーリ自身が一番よく分かっている。

(もう少し、凝縮魔法の練習をしておくべきでしたかね。それと、火と水の練習も)

 今さら思ってもしょうがないのだが。
 リィカは二十発もの凝縮魔法を同時に発動できる。魔王と対戦した頃に比べて、その精度も上がっている。

 ユーリも練習していないわけではないのだが、リィカほどに使えない。使えたとしても、一つの属性につき五発しか発動できないことを考えると、現状ではそこまで役に立たない。四属性を持つリィカだから、二十という数字を出せるのだ。

 そういう意味では、ユーリは火と水も持っているから、三属性持ちということになるのだが、現時点でさえその二つの単独発動はできていない。光と組み合わせた混成魔法という形で発動できるのみだ。

 上級魔法の連発はしていられない。魔力量が少ないわけではなくとも、リィカより少ないことは確かで、そんなことをしてしまえば、早々に力尽きることが目に見えている。だから、ユーリは全く別の手段をとっていた。

「《結界バリア》!」

 普通は攻撃を防御するために使う魔法だが、ユーリの唱えると、細く尖った透明なものが十数個も出現し、それぞれが魔物を貫いた。
 それを確認するかしないかのうちに、ユーリは再び《結界バリア》を唱えた。

 かつて、ユーリがアルテミや人食い馬マンイート・ホースと戦ったときに使った手だ。《結界バリア》は、その形を自由に変えることができる魔法だ。防御にしか使えない、などという決まりはどこにもない。

 何もリィカの真似をする必要はどこにもない。ユーリはユーリのできることをすればいい。

「まあ、逆にリィカはこれと同じことはできないでしょうしね」

 ユーリは魔法を放ちながら、クスッと笑った。地属性の《防御シールド》も自由に形を変えられるが、そもそもこの魔法を使おうとしないリィカだ。やれと言っても全力で拒否するだろう。

 結局、支援魔法への苦手意識が治ることのなかったリィカを思い浮かべながら、ユーリは何度目になるかも忘れた《結界バリア》を唱えたのだった。
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