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第十七章 キャンプ
緊急事態
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「あれ?」
「おや?」
リィカとユーリがつぶやいたのは、ほとんど同時だった。
他のチームが料理に失敗して阿鼻叫喚となっている中で、何も問題なく料理して食事を済ませた四人だ。
ちなみに、アークバルトたちのチームは、セシリーが料理の担当をしていた。アークバルトはレーナニアに作って欲しがっていたが、断固として拒否されて、微妙に落ち込んでいるのを見て、アレクが苦笑していた。
そして、片付けを済ませて、テントまで張り終えた。旅の途中でサルマたちからもらったテントは使えないが、普通のテントの張り方も覚えている。ルバドール帝国内にいる間は、常に他の誰かがいたから、その時には普通のテントを使っていたからだ。
そこまで終えて、まだ他のチームが料理後の後片付けに手間取っているのを眺めているときに、リィカとユーリがつぶやいたのだ。そしてやはりほぼ同時に、森の方に視線を向ける。
「どうかしたか?」
アレクの疑問にリィカは首を傾げて、ユーリは眉にしわを寄せる。
「今、なんか、魔力が……」
「ええ、感じましたよね、確かに。ずっと先ですけど」
膨れ上がった魔力を確かに感じた。だが、それも一瞬で消えてしまったので、詳しい事は分からない。
そんな二人の様子に、アレクとバルが顔を見合わせる。そして森の、そのさらに先に意識を向ける。
「特にこれと言って……待てっ!!」
「なんだこれ! マズいぞっ!?」
急に緊迫した声を出す二人に、リィカとユーリも改めて魔力を探る。そして、つい先ほどまで感じなかった多数の魔力を感じた。すべて魔物の魔力だ。
「……Cランク? でも、何で急に……」
「リィカ、今はそれを探るのは後だ。ヒューズと先生方に知らせるぞ!」
「あ、う、うん」
「アレク、どうした」
頷くリィカの声と被るように、アレクに聞いてきたのはアークバルトだった。その雰囲気から何かを悟ったのだろう。表情が険しい。
アレクは一瞬悩んだが、隠せることでもないし、隠していいこともない。自分たちが感じたそれを、素直に伝える。
「森の向こう側から、大量の魔物がこちらに向かっています! おそらくは、Cランクの魔物がほとんどかと! 急いで迎撃と守備の体制を整えなければ、足の早い奴はそろそろ姿を見せます!」
「――分かった」
アークバルトが驚愕の表情を見せたのは一瞬だった。「本当か」とも「どうして分かるんだ」とも聞くことなく頷き、さらに言った。
「アレクたちは迎撃に回ってくれ。私から知らせる」
「はいっ! お願いします!」
それだけ叫び、走り出す。その後をリィカたちが追った。もうすぐそこまで来ている。
※ ※ ※
最初に気付いたのは、森に一番近いチームだった。
魔物を狩りに行くのに近くていい、とは思われず、森に近いから危険度も一番高いと、生徒たちに嫌われる場所だ。
実際には兵士たちが監視しているし、森に近くても安全ではあるのだが、それでもやはり心理的な抵抗というのが働く。よって、その貧乏くじを引かされるのは、残念なことにCクラスの生徒、その中でも下位にある生徒たちだ。
そして、そのチームの中にはミラベルもいた。
「何かしら……?」
ガサガサという音に、ミラベルは顔を森の方に向ける。その顔に危機感はない。
魔物の数が多くて対処しきれない事態になっていたのは、二日目のみ。それ以降は何ともなかったのだ。「何もなくて良かった」と思って、すでに安心している。
森に近いからと言って、何も問題ないことも承知している。だから、森から姿を現したそれを見ても、一瞬何なのか分からなかった。
「……え?」
呆然とつぶやいて、そのつぶやきを拾って同じチームの人もそれを見るが、やはり反応は似たり寄ったり。ただ眺めるだけしかできないミラベルの耳に、この四日目は聞くことはないだろうと思っていた声が、響いた。
「ベル様!」
その声とともに小さい何かが飛んでいって、姿を現したそれに命中する。それがドォンと横倒しになっても、ミラベルは事態を把握できなかった。
が、その一瞬の後、森から姿を現した複数のそれに、頭が理解するより早く息を呑み、同時に血の気が引くのを感じた。
明らかに魔物だ。しかも、大きい。少なくとも、森にいるEランクの魔物ではあり得ない。
「《風の千本矢》! ベル様、逃げてっ!」
魔法を放ちつつ、ミラベルの前に飛び出たのは、声の主、リィカだった。
風の矢が現れ、魔物を貫く。中級魔法だが広範囲に効果のある魔法だ。その場の大半の魔物が倒れた。
「今、兄上が先生方に事情を話している。そこまで早く下がってくれ。悪いが、ここにいられると邪魔だ」
そう言ってきたのはアレクだ。そして、バルとユーリもいる。ミラベルは青ざめた顔ながら、緊急事態が起こったことを察した。そして、頷く。
「分かりました」
周囲に声を掛けつつ、ミラベルは教師たちのいる場所へ走り出した。他の生徒たちも悲鳴こそ上げていないが、顔色はミラベルと似たり寄ったりだ。大混乱に陥っていないだけマシだと思う。
後ろはふり返らない。自分たちにできることは、何もない。
※ ※ ※
「Cランクの魔物? それは本当か?」
「本当です。アレクたちがそれを察知したんですから。急ぎ、生徒たちを集めて安全の確保をして下さい」
「いやだが……」
ミラベルがその場に着いたとき、アークバルトと総責任者であるゼブの会話が聞こえた。アークバルトの切羽詰まった表情とは裏腹に、ゼブの表情は懐疑的というか、本気にしていない様子が伺える。
その様子を見て、アークバルトが顔をしかめた。
「分かりました。先生に報告したことが間違っていた。ヒューズに直接話を通します」
苛立っているのか、吐き捨てる言い方だ。気持ちは分かると思いつつ、ミラベルはアークバルトに声をかけた。
「早くしたほうがいいです。すでに魔物が現れています。アレクシス殿下たちが来てくれたので、私たちも無事にここまでこれましたが、四人だけでは……」
「ミラベル嬢か。そうか、急がなければ……」
「兵士から報告を受けました。すでに大多数の兵士を向かわせています」
アークバルトの言葉の途中で、ヒューズが姿を現した。話は聞こえていたのか、アークバルトにそれだけ伝えると、ゼブに視線を向けた。
「多数のCランクの魔物が、森から姿を現しました。原因は不明です。正直申しまして、兵士たちだけでは対応は不可能でしょう。アレクシス殿下方の力を借りて、何とかなるかどうか」
「は……」
言われたゼブは、息を吐き出すように"音"を出しただけだ。まだ事態がつかめていないのか、どこかボンヤリした顔をしている。
「荷はすべて放棄し、ここにある馬車や馬に生徒を乗せて急ぎ避難させて下さい。これ以上のキャンプは無理です」
「だ、だが……」
「だが、ではありません。これから夜になってしまえば、ますます避難が難しくなります。今、この場で、判断して下さい」
「い、いや……」
強い口調にも未だにモゴモゴしているゼブを見て、ヒューズが舌打ちする。さらに言い募ろうとしたのを止めたのは、アークバルトだった。
「いいよ、ヒューズ。時間がもったいない。――ゼブ、キャンプは中止だ。今から生徒と教師は避難だ。いいな?」
"先生"の敬称をつけずに言ったその口調は、最後こそ疑問形になってはいたものの、誰が聞いても命令だった。ゼブもそれを察したのだろう、顔が青白くなった。
「……は、はい」
項垂れて、小さく返事をするゼブをアークバルトは見る事なく、ヒューズをふり返った。
「ヒューズ、今から君に全責任を預ける。指示を」
「かしこまりまし……」
最後の言葉は言えなかった。代わりに、一方向を見て大きく目を見開く。訝しげにその方向をアークバルトも見て……似たような反応を示す。
「ヒィッ!?」
「い、いや……」
周囲の生徒たちも、気付く。そして、その口から小さく悲鳴が上がる。……そこにいたのは、多数のCランクの魔物だった。
「副団長! 魔物の群れに周囲を囲まれています!」
「な……」
兵士の悲鳴が混じった報告に、ヒューズも言葉が出ない。何かしなければという思考はあるが、どうするべきか、それが浮かばない。
複数の兵士で当たれば、Cランクの魔物は倒せる。数に頼らなければ倒せないのに、魔物の数の方が多い。
ヒューズの思考がまとまらず、魔物に囲まれているという状況に、生徒たちが限界を超えて、悲鳴を上げようとした、瞬間だった。
「《流星群》!」
響いた少女の声とともに、空から降ってきた岩の塊が魔物達を押しつぶしていく。土の上級魔法だ。目の前でそれを見たアークバルトは、ハッとして声のした方を見ると、そこにいたのはアレクに抱えられたリィカだった。
さらに、目の前だけではなく、四方にその岩が降り注ぎ、魔物たちに命中しているのが見えた。それでようやくアークバルトは察する。先ほどの魔法は、リィカが使った魔法なのだと。
「リィカはここを頼むな。俺は向こうに行く」
「うん」
アレクがリィカに声をかけていて、リィカがそれに頷く。そしてアレクはヒューズに視線を向けた。
「ヒューズ、気付いただろうが、四方を魔物に囲まれた。俺たちも四人、それぞれ四方に散るから、兵士たちも分けてくれ。それと先生と生徒は中央に。脱出の準備が整い次第、教えてくれ。道を作る」
それだけ言うと、アレクは凄まじい速さでその場を走って去っていった。声もかけられず、アークバルトはその場に立ちすくむ。代わりに聞こえたのは、リィカの声だった。
「皆さんはもっと下がって下さい。危ないです」
その視線はアークバルトたちの方を向いていなかった。《流星群》で積まれた岩の向こう側、そこにまたさらに多数の魔物が見えて、アークバルトは息を呑んだ。
「…………っ……」
出かけた悲鳴は、何とか飲み込んだ。リィカが冷静な様子であったことが、アークバルトを落ち着かせた。言われたとおりに、周囲を促しつつその場を離れたのだった。
「おや?」
リィカとユーリがつぶやいたのは、ほとんど同時だった。
他のチームが料理に失敗して阿鼻叫喚となっている中で、何も問題なく料理して食事を済ませた四人だ。
ちなみに、アークバルトたちのチームは、セシリーが料理の担当をしていた。アークバルトはレーナニアに作って欲しがっていたが、断固として拒否されて、微妙に落ち込んでいるのを見て、アレクが苦笑していた。
そして、片付けを済ませて、テントまで張り終えた。旅の途中でサルマたちからもらったテントは使えないが、普通のテントの張り方も覚えている。ルバドール帝国内にいる間は、常に他の誰かがいたから、その時には普通のテントを使っていたからだ。
そこまで終えて、まだ他のチームが料理後の後片付けに手間取っているのを眺めているときに、リィカとユーリがつぶやいたのだ。そしてやはりほぼ同時に、森の方に視線を向ける。
「どうかしたか?」
アレクの疑問にリィカは首を傾げて、ユーリは眉にしわを寄せる。
「今、なんか、魔力が……」
「ええ、感じましたよね、確かに。ずっと先ですけど」
膨れ上がった魔力を確かに感じた。だが、それも一瞬で消えてしまったので、詳しい事は分からない。
そんな二人の様子に、アレクとバルが顔を見合わせる。そして森の、そのさらに先に意識を向ける。
「特にこれと言って……待てっ!!」
「なんだこれ! マズいぞっ!?」
急に緊迫した声を出す二人に、リィカとユーリも改めて魔力を探る。そして、つい先ほどまで感じなかった多数の魔力を感じた。すべて魔物の魔力だ。
「……Cランク? でも、何で急に……」
「リィカ、今はそれを探るのは後だ。ヒューズと先生方に知らせるぞ!」
「あ、う、うん」
「アレク、どうした」
頷くリィカの声と被るように、アレクに聞いてきたのはアークバルトだった。その雰囲気から何かを悟ったのだろう。表情が険しい。
アレクは一瞬悩んだが、隠せることでもないし、隠していいこともない。自分たちが感じたそれを、素直に伝える。
「森の向こう側から、大量の魔物がこちらに向かっています! おそらくは、Cランクの魔物がほとんどかと! 急いで迎撃と守備の体制を整えなければ、足の早い奴はそろそろ姿を見せます!」
「――分かった」
アークバルトが驚愕の表情を見せたのは一瞬だった。「本当か」とも「どうして分かるんだ」とも聞くことなく頷き、さらに言った。
「アレクたちは迎撃に回ってくれ。私から知らせる」
「はいっ! お願いします!」
それだけ叫び、走り出す。その後をリィカたちが追った。もうすぐそこまで来ている。
※ ※ ※
最初に気付いたのは、森に一番近いチームだった。
魔物を狩りに行くのに近くていい、とは思われず、森に近いから危険度も一番高いと、生徒たちに嫌われる場所だ。
実際には兵士たちが監視しているし、森に近くても安全ではあるのだが、それでもやはり心理的な抵抗というのが働く。よって、その貧乏くじを引かされるのは、残念なことにCクラスの生徒、その中でも下位にある生徒たちだ。
そして、そのチームの中にはミラベルもいた。
「何かしら……?」
ガサガサという音に、ミラベルは顔を森の方に向ける。その顔に危機感はない。
魔物の数が多くて対処しきれない事態になっていたのは、二日目のみ。それ以降は何ともなかったのだ。「何もなくて良かった」と思って、すでに安心している。
森に近いからと言って、何も問題ないことも承知している。だから、森から姿を現したそれを見ても、一瞬何なのか分からなかった。
「……え?」
呆然とつぶやいて、そのつぶやきを拾って同じチームの人もそれを見るが、やはり反応は似たり寄ったり。ただ眺めるだけしかできないミラベルの耳に、この四日目は聞くことはないだろうと思っていた声が、響いた。
「ベル様!」
その声とともに小さい何かが飛んでいって、姿を現したそれに命中する。それがドォンと横倒しになっても、ミラベルは事態を把握できなかった。
が、その一瞬の後、森から姿を現した複数のそれに、頭が理解するより早く息を呑み、同時に血の気が引くのを感じた。
明らかに魔物だ。しかも、大きい。少なくとも、森にいるEランクの魔物ではあり得ない。
「《風の千本矢》! ベル様、逃げてっ!」
魔法を放ちつつ、ミラベルの前に飛び出たのは、声の主、リィカだった。
風の矢が現れ、魔物を貫く。中級魔法だが広範囲に効果のある魔法だ。その場の大半の魔物が倒れた。
「今、兄上が先生方に事情を話している。そこまで早く下がってくれ。悪いが、ここにいられると邪魔だ」
そう言ってきたのはアレクだ。そして、バルとユーリもいる。ミラベルは青ざめた顔ながら、緊急事態が起こったことを察した。そして、頷く。
「分かりました」
周囲に声を掛けつつ、ミラベルは教師たちのいる場所へ走り出した。他の生徒たちも悲鳴こそ上げていないが、顔色はミラベルと似たり寄ったりだ。大混乱に陥っていないだけマシだと思う。
後ろはふり返らない。自分たちにできることは、何もない。
※ ※ ※
「Cランクの魔物? それは本当か?」
「本当です。アレクたちがそれを察知したんですから。急ぎ、生徒たちを集めて安全の確保をして下さい」
「いやだが……」
ミラベルがその場に着いたとき、アークバルトと総責任者であるゼブの会話が聞こえた。アークバルトの切羽詰まった表情とは裏腹に、ゼブの表情は懐疑的というか、本気にしていない様子が伺える。
その様子を見て、アークバルトが顔をしかめた。
「分かりました。先生に報告したことが間違っていた。ヒューズに直接話を通します」
苛立っているのか、吐き捨てる言い方だ。気持ちは分かると思いつつ、ミラベルはアークバルトに声をかけた。
「早くしたほうがいいです。すでに魔物が現れています。アレクシス殿下たちが来てくれたので、私たちも無事にここまでこれましたが、四人だけでは……」
「ミラベル嬢か。そうか、急がなければ……」
「兵士から報告を受けました。すでに大多数の兵士を向かわせています」
アークバルトの言葉の途中で、ヒューズが姿を現した。話は聞こえていたのか、アークバルトにそれだけ伝えると、ゼブに視線を向けた。
「多数のCランクの魔物が、森から姿を現しました。原因は不明です。正直申しまして、兵士たちだけでは対応は不可能でしょう。アレクシス殿下方の力を借りて、何とかなるかどうか」
「は……」
言われたゼブは、息を吐き出すように"音"を出しただけだ。まだ事態がつかめていないのか、どこかボンヤリした顔をしている。
「荷はすべて放棄し、ここにある馬車や馬に生徒を乗せて急ぎ避難させて下さい。これ以上のキャンプは無理です」
「だ、だが……」
「だが、ではありません。これから夜になってしまえば、ますます避難が難しくなります。今、この場で、判断して下さい」
「い、いや……」
強い口調にも未だにモゴモゴしているゼブを見て、ヒューズが舌打ちする。さらに言い募ろうとしたのを止めたのは、アークバルトだった。
「いいよ、ヒューズ。時間がもったいない。――ゼブ、キャンプは中止だ。今から生徒と教師は避難だ。いいな?」
"先生"の敬称をつけずに言ったその口調は、最後こそ疑問形になってはいたものの、誰が聞いても命令だった。ゼブもそれを察したのだろう、顔が青白くなった。
「……は、はい」
項垂れて、小さく返事をするゼブをアークバルトは見る事なく、ヒューズをふり返った。
「ヒューズ、今から君に全責任を預ける。指示を」
「かしこまりまし……」
最後の言葉は言えなかった。代わりに、一方向を見て大きく目を見開く。訝しげにその方向をアークバルトも見て……似たような反応を示す。
「ヒィッ!?」
「い、いや……」
周囲の生徒たちも、気付く。そして、その口から小さく悲鳴が上がる。……そこにいたのは、多数のCランクの魔物だった。
「副団長! 魔物の群れに周囲を囲まれています!」
「な……」
兵士の悲鳴が混じった報告に、ヒューズも言葉が出ない。何かしなければという思考はあるが、どうするべきか、それが浮かばない。
複数の兵士で当たれば、Cランクの魔物は倒せる。数に頼らなければ倒せないのに、魔物の数の方が多い。
ヒューズの思考がまとまらず、魔物に囲まれているという状況に、生徒たちが限界を超えて、悲鳴を上げようとした、瞬間だった。
「《流星群》!」
響いた少女の声とともに、空から降ってきた岩の塊が魔物達を押しつぶしていく。土の上級魔法だ。目の前でそれを見たアークバルトは、ハッとして声のした方を見ると、そこにいたのはアレクに抱えられたリィカだった。
さらに、目の前だけではなく、四方にその岩が降り注ぎ、魔物たちに命中しているのが見えた。それでようやくアークバルトは察する。先ほどの魔法は、リィカが使った魔法なのだと。
「リィカはここを頼むな。俺は向こうに行く」
「うん」
アレクがリィカに声をかけていて、リィカがそれに頷く。そしてアレクはヒューズに視線を向けた。
「ヒューズ、気付いただろうが、四方を魔物に囲まれた。俺たちも四人、それぞれ四方に散るから、兵士たちも分けてくれ。それと先生と生徒は中央に。脱出の準備が整い次第、教えてくれ。道を作る」
それだけ言うと、アレクは凄まじい速さでその場を走って去っていった。声もかけられず、アークバルトはその場に立ちすくむ。代わりに聞こえたのは、リィカの声だった。
「皆さんはもっと下がって下さい。危ないです」
その視線はアークバルトたちの方を向いていなかった。《流星群》で積まれた岩の向こう側、そこにまたさらに多数の魔物が見えて、アークバルトは息を呑んだ。
「…………っ……」
出かけた悲鳴は、何とか飲み込んだ。リィカが冷静な様子であったことが、アークバルトを落ち着かせた。言われたとおりに、周囲を促しつつその場を離れたのだった。
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