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第十七章 キャンプ

キャンプ地到着

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 ゼブは一時間と言ったが、生徒たちの疲労がひどく、到着までには一時間半を要した。最終的には、馬車に乗る生徒の方が多くなった。演技でもズルでも何でもなく、体力の限界で、アークバルトやレーナニアも教師たちによって強制的に馬車に乗せられた。

 歩ききったのは、リィカたち四人と、セシリーたち三人。他は、体力に自信があるもの数名程度だ。

 だが、到着して終了ではなく、到着してからが本番である。
 チームごとに区画を割り当てられ、そこにテントや食材が配られていく。後は自分たちでテントを組み立てて、魔物を捕まえて解体し、調理をしなければならない。

「これだけか」
「もっと欲しいな」

 食材を見て、アレクとバルがほぼ同時にぼやく。ユーリも口には出さずとも同感のようだ。リィカは苦笑した。

「どうする? みんなで行く?」

 他のチームはまずテントの組み立てから入っているが、リィカたちはそちらには手をつけずに、食べ物確保の話から先に入る。

「いや、俺とバルで行く。リィカとユーリは、火を熾して調理の準備を頼む。そっちは俺たちは手伝えないから」
「分かった」
「くれぐれも狩りすぎには注意して下さいね。……それと、ついでに森の中の様子も見てきて下さい」

 アレクの言葉にリィカが頷き、ユーリが注意事項を口にする。

 森の様子を見るのは、昼休憩時に感じた魔力が原因だ。
 今いる場所は、北の山脈の麓だ。北に森があり、その先は高い山々が連なり、そこを越えればデトナ王国にたどり着く。だがその道は険しいし、山には高ランクの魔物が存在すると言われており、通る者はほとんどいない。だがそれだけに、魔族が潜んでいる可能性があるのだ。

「ああ、分かっている」
「こっちも頼んだ」

 アレクが真剣に頷き、バルは言いつつ視線を向けたのはフランティアがいる方向だ。それに気付き、ユーリもエレーナに目をやりつつ頷く。
 危険度は森の中の方が高いだろうが、キャンプ地が絶対安全という保証もない。

 森に向かう二人を見送り、リィカとユーリは周囲に目を向ける。

「何でみんな先にテントを立てちゃうんだろうね」
「区画が決められているから、狭くなって解体も料理もしにくくなるんですけどね」
「……それでお前ら、全く手をつけてないのか。そういうことは最初に言ってくれ」

 横からかかった声は、ブレッドだ。区画が隣同士なので、話し声が聞こえたのだろう。ユーリが、相手をからかうように口の端をあげた。

「どんな段取りで行うかは、各チームの好き好きじゃないですか。わざわざ教えてあげる必要は感じませんね。大体、少し考えれば分かるじゃないですか」
「こちとら、分かんねぇド素人なんだよ」

 憮然としたブレッドの言い様にリィカは少し笑って、あちらの区画を見る。テントの骨組みだけは出来上がっている状態だ。まだそこまで到達していないチームが多い中で、十分早いと言える。

 話し声が聞こえたのか、アークバルトがフーッと息を吐いて、地面に座り込んだ。

「……そう言われれば確かに当然だね。でも、私たちも含めて皆が最初にテントに取りかかっているのは、単にやるべきことの中でこれが一番できそうだ、というだけだよ」

 テントを組み立てて、魔物と戦って倒し解体して、料理する。その中で、いきなり魔物と戦う選択肢をとるのは難しい。やりやすいのがテントの組み立てだから、まずはそこから始めたというだけであって、段取りなど考える余裕はない。

 それを聞いて、リィカはなるほどと思う。貴族クラスの生徒たちの中で、実戦経験のある人がどれだけいるのか分からないが、いきなり魔物と戦えと言われても尻込みするだろう。

「じゃあ、テントはここまでにして、魔物を狩りに行こうか。ブレッド、レンデル、私と一緒に行くぞ。レーナとセシリー嬢はここに残って、調理の準備を」

 アークバルトの言葉に、聞いていた全員が驚きを示す。視線を交わして、口を開いたのはレンデルだった。

「殿下が行かれるつもりですか?」
「もちろん。これでも多少は剣を使えるようになったんだ。少しくらい実戦経験を積んでもいいだろう?」

 暗にやめて欲しいという希望が籠もっていたことにアークバルトも気付いただろうに、無視して行くと主張する。そう言えば、彼らが断れないことまで承知の上だ。

「……分かりました。本当はやめてほしいですけど。無茶はしないで下さいね」
「分かってるよ」

 アークバルトも、自身の立場は十分に分かっている。森の中にも護衛がいるから、状況によっては手を貸してくれること。事前に森の中を兵士たちが確認し、森の中にいる魔物のランクは最低ランクのEランクのみになるように討伐がされていること。

 それらの状況から、よほどでなければ危険はないと判断できるのだ。その話は、当然レンデルたちも承知している内容だ。だからこそ、頷くことができる。

 一方、リィカとユーリはその話の進行に、目配せをする。
 確かに普通であれば心配はいらないかもしれない。しかし、今は何があるのか分からない状況だ。"よほどのこと"が起こる可能性も十分にあり得る。

「アレクとバルに言っとく?」
「そうしましょうかね」

 小声で会話し、ユーリが風の手紙エア・レターに魔力を流す。言わなくても気付くだろうが、言った方が心構えができるだろう。

 異変らしいものは何も感じない。だが、嫌な予感が消えない。風の手紙エア・レターで話すユーリを見ながら、リィカは万が一が起きないことを願うのだった。
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