転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
570 / 637
第十七章 キャンプ

昼休憩

しおりを挟む
「よーし、ではここで昼休憩とする。昼食を教師が配るから、チーム単位で固まって待て!」

 ゼブの声がかかったのは、森と森の半ば、草原が広がっている場所だった。その声に、生徒たちがガックリと地面に座り込む。
 本来であれば、地面に座るなどしないだろうに、それを気にする余裕もないようだ。

「休憩したら、本日の野営地まで一時間ほどだ! あと少しだからなっ!」

 ゼブは話を続けるが、はっきりいってこれは逆効果だ。「どこがあと少しだ」という文句を言う声があちこちから聞こえる。

 リィカは周囲を見回しつつ、つぶやいた。

「結局、ほとんどの人がちゃんと歩いたね」
「何人か、教師が馬車に押しやってましたが、その程度でしたね」
「王太子殿下方が歩ききったからな」
「そろそろ兄上も義姉上も、限界そうなんだよな」

 疲れ切って座り込んでいる生徒たちの中、リィカたち四人は平気そうな顔で立ったままだ。すぐ近くにはアークバルトたちがいるが、平然としている四人に驚くだけの余裕もないようだ。

 教師たちが昼食を配っているのを、何とはなしに眺める。教師たちは、馬に乗っていたり馬車を動かしたりしていた。それに対しての生徒たちの不平不満は当然あるのだが、必要物品を運ばなければならない。生徒の休憩中に動かなければならないし、教師が疲労でダウンしてしまっては生徒の面倒も見られない。

「先生たちも、大変だね」
「まだ今年は楽な方だ。いいからお前たちも休め。全く疲れがないわけではないだろう?」
「ハリス先生」

 リィカのつぶやきに答えたのは、担任であるハリスだった。苦笑しつつ、四人分の昼食が渡される。見れば、干し肉なんかの保存食と水だった。

「これだけかと文句を言うなよ。一応、軍隊の疑似体験なんだ。食事も相応のものになる」
「それは分かりますが、自分たちで取ってきて料理したら駄目ですか?」
「料理のできないアレクが言う台詞ではありませんね」

 渡された食事を見て言ったアレクに、ツッコんだのはユーリだ。その様子に、ハリスはやや呆れた様子を見せる。

「まだまだ元気だな、お前たちは。悪いが、昼食はそれだけで止めてくれ。夕食は現地調達する分には、好きにしてもらって構わんから」

 ただ他の人の分まで取り過ぎるなよ、と注意だけしてハリスは去っていく。それを見ながら、リィカも地面に座り込む。

「食べよっか」

 声を掛けると、バルとユーリも座り、アレクがやや難しい顔をしつつも座る。

「どうしたの、アレク?」
「他の人の分を気に掛けるのが、面倒だと思った」

 リィカは首を傾げて、ユーリは笑い、バルがアレクの頭にチョップを落とす。

「いてっ」
「しょうがねぇだろ。やろうと思えば、おれらはやりたい放題だ。周囲にペース合わせるのも、大切だぞ」
「――分かってはいるんだが」
「まあ、面倒と言えば、面倒ですけどね。何でしたら、ちょっと森に変な気配がするとかでっち上げて、今のうちに何か調達しちゃいます?」

 周囲の目がなければ、アイテムボックスが使える。こっそり調達していても、バレることはない。……というユーリのあくどい意見に、アレクだけではなくバルまで目を輝かせる。

「賛成だ……」
「羨ましいくらいに余裕だね。だけど、そういうことはしないこと」

 言いかけたアレクの言葉は、近づいてきていたアークバルトによって遮られた。元々近くにいたから、気配もあまり気にしていなかった。

「大丈夫です、兄上。出発時間までには戻ってきますから」
「そういう問題じゃないよ。でっち上げの理由で集団を乱す行為をしては駄目だ」

 そう言いつつアークバルトが視線を向けた先には、Bクラスのナイジェルの姿があった。一体どこから持ってきたのか、椅子に座ってふんぞり返り、その脇には魔法を教えているザビニーがいて、何やらヘコヘコしている。
 おそらく同じチームなのだろう生徒たちは、立ったままで緊張した顔を見せている。

「何をしているんだ、あいつは」
「さあね。ただ、現時点でああいう問題児がいるからね。アレクも程々にね」

 それだけ言うと、アークバルトはまたチームの元に戻っていく。その姿を見て、つぶやいたのはバルだった。

「なんつーか、旅の前ほど、アレク第一主義じゃなくなったな、王太子殿下は」
「ああ、それ僕も思いました。以前は、アレクが自分を優先しないと不満そう……というか、優先するのが当然、という様子でしたからね」
「なんだそれは」

 バルとユーリの言葉に、アレクが心底不思議そうな様子を見せる。リィカは訳が分かってないので、無言のまま話を聞いている。

「アレクも、王太子殿下を最優先に考える様子がなくなりましたよね」
「旅に出て、物理的に距離ができたおかげか? まあ、いい傾向だな」

 バルとユーリの言葉に、アレクはやはりよく分からなそうな顔をしているが、リィカは二人の話を聞きながら「そういえば」と思う。レーナニアが、アレクとアークバルトの仲の良さに嫉妬気味だったことを思い出したのだ。

 リィカ自身は、二人の仲睦まじい様子を見たわけでもないので、実感が湧かない、というのが正直な所だ。

 そこまで考えたところで、リィカはハッとして顔を向ける。ユーリも同じように顔を向けた。二人の視線の先は、同じ。この先、向かっていく方向だ。

「どうかしたか?」
「何があった?」

 アレクとバルは何も感じなかったのか。怪訝そうながらも、リィカとユーリの様子に周囲を警戒している。

「分かんない。けど、今一瞬、強い魔力を感じたの」
「ええ。一瞬だけ膨れ上がって弾けた、ように感じました」

 リィカ、ユーリと言葉を続ける。だが、その先は自信なさげだった。

「今は何も感じないよね?」
「ええ、あれだけでしたね。一瞬過ぎて、何の魔力だったのかも、よく分かりませんでした」

 不安そうな様子に、アレクもバルも気を引き締める。

「何も起こらなければいいが……」

 そうつぶやいたアレクだが、何となくそれは叶いそうにない気も、したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

処理中です...