転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
547 / 637
第十六章 三年目の始まり

魔法の授業

しおりを挟む
 魔法の実技の時間。リィカはミラベルが魔法を唱えているのを見ていた。

 クラスは剣や魔法、座学など関係なしに、成績順に分けられているが、クラスとは関係なく、それぞれの分野での授業というものも存在している。

 アレクとバルは剣術の授業に行き、リィカはユーリと一緒に魔法の授業に来た。そして、そこでミラベルも見つけたのだ。

「『水よ。我が指先に宿れ』――《アクア》』。……あ」

 一瞬だけ水が指先に生まれた。本来であれば、そのまま指先に留まるはずの水が、一瞬で砕けて下に落ちる。
 それを見て、ミラベルは小さく声を上げるが、すぐ諦めたような顔になる。

「レイズクルス、君はまたですか。何をしているんですか。君は本当に魔法師団長様の娘ですか」

 ミラベルにそう言っているのは、教師のザビニー。リィカがこの学園に入学して最初の魔法の授業の時、平民クラスに来て授業をした先生だ。

 結局は最初の一回のみで終わったので、それ以降リィカがザビニーに会うことはなかった。リィカは別に会いたくなかったし、おそらく先方も同じ気持ちであったろうと思う。

 この授業が始まってすぐ、ザビニーはリィカを一瞥したのみで、特に声を掛けてくることもなかった。

(相変わらず、ヤな先生だな。誰の娘とか関係ないし。先生なんだから、使えるように教えてあげればいいのに)

 ミラベルとザビニーの様子を見ながら、リィカはそう思う。ダスティンはちゃんと教えてくれた。出来ないからといって、貶めるような発言をしたりはしなかった。

 周囲の生徒たちも、ミラベルを小馬鹿にするような笑いを浮かべているが、ミラベルはそれらに反応せずに、うつむいたまま「すいません」と言っていた。

「リィカ、もしかしてザビニー先生を知ってますか?」

 ユーリに声を掛けられて、頷く。

「うん。最初だけだけど、平民クラスに来て、教えてもらったことがあるの。でも、なんかダメだった」

 まああれを「教えてもらった」と言っていいのかどうかは微妙だが、一応そういう表現にしておく。ユーリは、リィカの「なんかダメだった」という言葉に笑った。

「まあそうでしょうね。まともな人間なら、当然の感想だと思いますよ。よくあんなのが、この学園の教師をやっていると、思ってしまいますからね」

 そんな毒を吐きつつ、ユーリが語るところによると、ザビニーは魔法師団員の親戚筋に当たるらしい。当然、魔法師団長であるレイズクルス公爵の派閥の所属だ。
 こんなところにまでその権力が及んでいるため、下手に解雇も出来ないらしい。

「だったら、その娘のミラベル様には、もっと敬意を払った方がいいんじゃないの?」

「公爵本人が蔑ろにしていたら、周囲もそれに習いますよ。そうしないと不興を買う、というのもありますけど、純粋に公然と誰かを馬鹿に出来る機会というのは、なかなかないでしょうから」

「……そうなんだ」

 何とも嫌な話だ。
 きっと、そうやってミラベルは小さい頃から周囲に馬鹿にされて下に見られて、自分自身を抑え込んできたんだろう。それが、魔力すらも抑え込んでしまっている。

「ユーリッヒ様、リィカさんも。お二方とも余裕で羨ましいです。おしゃべりしている暇がありましたら、わたくしに教えて下さいな」

「そうですよ! っていうかユーリ様! 対戦しましょう! 強くなった私を見せてあげます!」

 同じく魔法の授業に出ているレーナニアとエレーナに声をかけられて、リィカは笑ってユーリはゲンナリする。

「……まあ対戦したいならいいですけど。はっきり言って、僕の楽勝だと思いますけど」
「そんなこと、やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
「……やらなくても分かる……いえ、いいです。エレーナの気が済むまで付き合いますよ」

 ユーリは、言葉の途中でギロッとエレーナに睨まれて肩をすくめつつ、「やれやれ」と言いたげにエレーナと一緒に対戦スペースに去っていく。

 もう三学年ともなれば、ある程度生徒どうしで教え合ったり、自由な対戦なんかも許可されている。教会から神官も派遣されているから、多少怪我を負っても回復してもらえる。
 上級魔法の使用は禁止されていて、どちらかの攻撃が一発でも直接当たれば、それで試合終了。それが対戦のルールだ。

 二人の背中を見送り、リィカはレーナニアを見る。その目が、期待に満ちている気がする。

「……えと、何を教えればいいですか?」
「わたくし、魔法は《回復ヒール》しか使えないんです。ですから、《上回復ハイヒール》を使えるようになりたいんです。もう一つ言えば、あの模擬戦の時の水の固まり……《防御シールド》の水属性版、でしたよね。あれも使ってみたいです」

 また無茶を言う、と思ったリィカだが、その前に確認だ。

「《回復ヒール》って、水属性のですよね? レーナニア様はどの属性を持っていらっしゃるんですか?」

 《回復ヒール》には、光魔法もある。同じだから、確認しないとどちらなのかが分からない。水属性を持っていなければ、《防御シールド》の水属性版である《水防御アクア・シールド》も使えない。

「ええ、水属性です。残念なことに、わたくしが持っている属性は、それ一つなんです」
「そうなんですかっ!?」

 正直意外だった。レーナニアから感じる魔力量は多い。二つ以上の属性を持っているもの、と勝手に思っていた……。

(……違った。レーナニア様は、確か魔力病だったんだ)

 そう思いつつレーナニアの魔力を感じてみると、確かに余剰分がずいぶん多い気がする。

 "森の魔女"と呼ばれていた香澄からもらった、魔力病を治療するための方法を思い返す。あれも、いつどうやって公表するか、まだまだ検討中だが。

(たぶん魔力病が治ったら、レーナニア様の魔力はずいぶん少なくなるんだろうな)

 属性一つというのが、妥当な程度に。
 魔力病を治せるとなったとき、その事実も同時に告げたとして、レーナニアは何を選ぶのだろうか。

 そこまで考えて、リィカはフウッと息を吐いた。考えたところで、その時に答えを出せるのはレーナニアだけだ。リィカが気にしてもしょうがない。

 それよりも、今現在のレーナニアからの頼み事をどうするか、だが。

「……あの、わたし、支援魔法って苦手なんです。教えられるかどうか……」
「使えないんですか?」
「い、いえ、使えることは使えますけど」

 一応、使えるようにはなった。なったが、苦手意識がなくなったわけでは決してない。が、レーナニアはそんな逃げ腰のリィカに詰め寄った。

「でしたら問題ありませんよね。よろしくお願いします」
「……はい」

 他にどう答えようもなく、リィカはただ頷くしかなかったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら
ファンタジー
森の中の草むらで、10歳くらいの女の子が1人で眠っていた。彼女は自分の名前がわからず、それまでの記憶もあやふやな状態だった。 そんな彼女が最初に出会ったのは、森の中で枝が折られてしまった若い木とそして時折、人間のように見えるツキノワグマのクリティアスだった。 そこから、彼女は森の中の色んな動物や木々と仲良くなっていくのだが、その森の主と呼ばれている木から、新しい名前であるアルテア・イフィジェニーという名前を与えられることになる。 彼女は様々な種族との出会いを経て、自分が何者なのかを思い出すことになり、自分が名乗る名前で揺れ動くことになるとは思いもしなかった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

処理中です...