転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
536 / 637
第十六章 三年目の始まり

模擬戦の前

しおりを挟む
 昼休みが終わり、午後。
 リィカたちは、校舎の外に出てきていた。

 一番近くて広い広場で模擬戦を行うと言われて、連れてこられた場所を見て唖然とした。

「なにこれ……」

 中央には一段高くなった台があり、四隅にあるコーナーポストはやたらと華美で目につく。周囲は境目が分かるようにだろう、低いブロックのようなものがある。その周囲にはいくつもの椅子が設置されていた。
 リィカの目には、立派な試合会場にしか見えない。

 つぶやいたきり絶句しているリィカに、アレクたちは苦笑するしかない。

「試合、模擬戦、模範試合……、まあ色々あるが。そういったものを行うときは、ここを使用することが多い。放課後の練習でも使えて、目立ちたがりの称賛を受けたい貴族連中なんかには、人気の場所だな」
「……へぇ」

 この学園には、生徒たちが自主練習に使用できる広場があちらこちらにある。リィカも一年生の時は、よくそういった広場を利用しては練習していた。……まあそこでうっかりアレクたちに遭遇して、黙って逃げ出してしまったことがあったりするのだが。

(そういえば、あの時のこと、アレクたち何にも言わないなぁ)

 別に話題にして欲しいわけではないし、されたところで「ごめんなさい」と謝るしかできないのだが。

 広場は貴族用・平民用とはっきり区別されているわけではない。ただ、平民用の校舎に近い広場は、ただ草を刈っただけの、広いだけの場所だった。そして、貴族校舎に近い場所に点在する広場は、立派な施設が整えられている、とは聞いた事がある。

 それをとやかく思った事はない。下手に立派な施設があって、貴族たちに全部独占されて、平民が練習できない、なんて事態にならないための配慮でもあっただろうと思う。

 だけどそれにしても、目の前のものは立派である。
 アレクの言い方にトゲがあったが、自尊心の高い貴族たちはこういう立派なところを使いたがる、というところだろうか。

 現れたリィカたちに視線が集中している。それに気付いてリィカが緊張する中、アレクが手を差し出した。

「模擬戦、よろしくなリィカ。頼りにしているからな」
「……うん、よろしく」

 アレクだって視線を感じていないはずはないだろうに、まるでそんなものを感じさせない。頼もしく感じるその手に、リィカが重ねる。

「任せて。ユーリとバル、ボコボコにしちゃおう!」
「その意気だ」

 視線をはね除ける気持ちで、あえて強気で言い放つ。それにアレクが嬉しそうに頷く。そして、そんな会話をしていれば、特にユーリが黙っているはずがなく。

「へえ、言いましたねリィカ。ボコボコにされるのは、果たしてどっちでしょうね」

 ユーリの放ってきた挑発に、リィカは口の端を上げただけの笑みで応戦する。
 バチバチ火花を散らす二人に、リィカの意識が自分から逸れてしまったアレクが不満そうな顔をして、そんな三人をバルが呆れて眺める。

「おいお前ら、そこでにらみ合ってないで試合場に上がれ」

 近づいてきたハリスが、四人の様子を見て明らかに呆れた様子を見せた。が、すぐに真剣な……というよりも、どこか切羽詰まった表情で、注意事項を口にする。

「いいか。くれぐれも、試合場を壊すのはやめてくれよ? それと周囲に人がいることも忘れるな。うっかりそちらに攻撃がいかないように注意しろ。いいな?」

 そんなことをわざわざ注意されるのには理由がある。
 ユーリがハリスに質問したからだ。会場が壊れて良いか、周囲に被害が出るのは構わないか。

 ちなみに、聞いていたリィカとアレクとバルは、同時に内心でツッコんでいた。「いいわけない」と。

「面倒なんですよねぇ……」
「シュタイン、分かったな?」
「はい、大丈夫です。分かってはいます」
「……本当に大丈夫だな?」

 そのためか、ハリスの注意もユーリにだけ向いている。とはいっても、ユーリの返答が微妙なせいで、不安を拭えないようだが。

「あ、だったらユーリ、《結界バリア》でも張る? ほら、街中でBランクの魔物と戦ったとき、泰基が張った……」

 リィカが良いことを思いついたとばかりに提案した。

 それは、モントルビア王国の王都モルタナでの出来事だ。魔族たちに騙されたモントルビア王国の王太子らが、王都のまさに街中でBランクの魔物を復活させた。その時、周囲の人々に戦いの余波が行かないような《結界バリア》を、泰基が張ったのだ。

 あれを張れば、少なくとも周囲への被害を気にする必要はない。妙案だ、とリィカは思ったが、ユーリにすげなく拒否された。

「嫌ですよ。それって、僕だけが《結界バリア》を張る負担を負うわけでしょう? リィカは無理でしょうから」
「……ええと、はい、うん、まあ」
「ということで、却下です」
「……はい」

 ユーリが面倒と言うから提案したのに、バッサリ切られてリィカはガクッとした。別に落ち込みはしない。ユーリはこういう人だ。

「それよりリィカ。ルールを確認しますよ。使う魔法は初級と中級、そして支援魔法のみ。他は使用禁止です。いいですね?」

 それは、試合場と周囲への影響を考えて自分たちで決めたルールだ。基本的に否はないのだが、どうしても一つだけ押し通したいことがある。

「ねぇ、《防御シールド》だけでいいから混成魔法使いたい」
「駄目です」
「ぶー」
「ぶーじゃありません。頬を膨らませても駄目です。そんなもの使われたら、初級と中級だけでどう対抗しろっていうんですか」

 分かる。ユーリの言いたいことは、もっともだろう。けれど、リィカ側にも事情がある。

「混成魔法使えなかったら、わたし防御できない」
「普通の《防御シールド》使えばいいじゃないですか」
「だって、ずっと使ってないんだもん」
「それはリィカの責任でしょう。僕に言われても知りません」
「ぶー」

 もう一度、リィカは頬を膨らませた。
 責任とはなんだ。普通の防御が役に立ちそうな場面など、そうそうなかったはずだ。……苦手な支援魔法を使いたくなかった、というのもあったにせよ。

「まあまあ。リィカ、大丈夫だ。俺が何とかする」
「何とかって言ったって」

 そういうアレクとバルも、制限はつけているのだ。

「バル、確認だ。お互いに、飛び技系の剣技は禁止。エンチャントと剣技を合わせるのも……ついでに魔力付与も禁止な」
「おう」

 バルは頷く。
 二人が手にしている剣は、当然ながら魔剣ではない。この学園で練習用として使用されている、刃を潰した剣だ。

 ある一定以上の技量を持つと判断された生徒は、こうした試合の場で真剣を使用することも許可されている。

 だが、バルの持つ真剣は魔剣フォルテュードしかなく、さすがにこんな場では使えない。そのため、二人揃って練習用の剣を使う事にしたのだ。

 正直言えば、武器が変わっただけで二人の攻撃力は削られる。本気を出してしまえば武器があっという間に壊れることが、目に見えているからだ。

「じゃあ、改めてリィカ。頑張ろうな」
「うん」
「足を引っ張らないで下さいね、バル」
「へいへい」

 この模擬戦、どう戦うか。
 旅の間、アレクとバル、リィカとユーリは何度も手合わせをしてきた。一対一で戦うならこの組み合わせになるが、それだと面白くない。

 ユーリがそんなことを言い出して、それに皆が賛同した結果、二対二の戦いをすることになった。アレクとリィカ、バルとユーリの組み合わせだ。

 四人が、試合場に上がる。
 模擬戦の開始だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

処理中です...