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番外編 どこに行くのも、いつであっても
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「泰基、どうしても大学卒業と同時に結婚したいの?」
翌日、わたしは真正面から泰基に問いかけた。少し驚いた顔をしたけど、泰基は当たり前のように頷いた。
「ああ、したい」
「どうして?」
前に聞いた時は「別に」って言われた。「ただ結婚したいんだ」と。でもそれだとどうしても納得できない。
今度は同じ返事にごまかされるつもりはない。
そんな気持ちで聞けば泰基も真剣に答えてくれ……って、あれ? 妙にバツの悪そうな顔だ。
「お前が、モテるから」
「……へ?」
返ってきた答えは、想像の外だった。
「お前、色んな男に声かけられて。お前にその意識はないんだろうけど、デートに誘われて。お前が鈍いのが良い方向に転がって、今のところ全部お前自身が鉄槌を下しているのが、面白いと言えば面白いが」
「……へ?」
えーと……てっつい? って、なに?
「いつまでもその鈍さに助けられるとも限らない。だから、何か起こる前に結婚したい」
「……………えーとごめん、よく分かんない」
泰基がごまかしてはいないことだけは分かる。分かるけど、意味が分からない。
ちゃんと分かるように言って欲しいなぁ、と思ったら、泰基が大きくため息をついていた。……なんで?
「はあ……。もうだから、どうせ正直に言ったって分かってなんかくれないから、強引に押し通そうと思ったのにな」
「いいから、分かるように説明してよ」
すっごい失礼に聞こえる泰基の言葉に、わたしはちょっと腹が立った。言ってくれなきゃ分からない事って、たくさんあると思う。
わたしの考え、間違ってないと思うのに、なんでか泰基はもう一度ため息をついた。
「……いいか、凪沙。まずこれは大前提なんだが、お前は美人だ。男にモテる。納得しなくてもいいが、分かれ」
「へ?」
「そこをまずお前が理解しないと、話が始まらない」
「……………?」
首を傾げた。わたしには、泰基がなんか変な事を言い始めたようにしか聞こえない。けど、泰基の目が据わった。
「そんなだから、説明しても無駄なんだ。いいか、お前は美人だ。モテる。大学までは一緒にいられて目を光らせていられたけど、就職して別々になって、気付かないうちに他の男にお前を盗られたら嫌だ。だから、卒業したら結婚する。以上だ」
「………………」
とりあえず、わたしのできた反応は、目をパチパチさせることだけだった。
※ ※ ※
わたしは公園のブランコに座ってゆらゆら揺れながら、ついさっきの泰基の言葉を思い出していた。
――お前は美人だ。モテる。
――納得しなくてもいいが、分かれ。
「いやいや、そんなことを自分で思ったら、ただのヤバいヤツでしょっ!?」
「ヤバくてもいいから、分かってくれ」
独り言に返事が返ってきて、ギョッとした。いやまあ、隣のブランコに泰基がいることくらい、当然分かってたけど。
近所の公園。最近ちょこちょこ立ち寄っている気がする。小さい頃、泰基とよく一緒に遊んだ公園だ。いつの間にか、来ることが少なくなっていたけど。
「……そう言われても」
正直、困ったというのが正しいかもしれない。
理由はちゃんと聞けた、ハズ。いまいち納得しきれない理由だけど、泰基が本気で言っていることは分かる。でもなぁ、と思ってしまうけど。
「……………」
泰基の顔をマジマジ見る。わたしが美人かどうかはさておき、泰基だって十分にイケメンの部類に入るんじゃないかと思う。
「なんだ?」
「……泰基だって、モテるよね」
泰基は剣道をやっている。詳しくは分からないけど、結構強いらしい。剣道着姿の泰基を見て、女の子たちがキャーキャー騒いでいることくらいは知ってる。
「別にどうでもいいな。凪沙以外の女を、女として見た事がない」
「いやいや、結構可愛い子とか、いたと思うけど」
そこまで言って、何となく考えた。
泰基は、わたしが他の男に盗られたら嫌だと言った。じゃあ、わたしはどうなんだろう。泰基の隣に、他の女の子がいたとしたら。
――すっごく、嫌かもしれない。
泰基が剣道をやっている。結構強い。その事実を知っている人は多い。
でも、どうしても全国に届かなかったことを悔しがっている顔とか。手がゴツゴツしていることとか。将来は剣道を教える立場につきたいと思っていることとか。
そんなことを知っている女の子は、わたしだけであって欲しいって、思う。
「よしっ」
「なんだ、どうした?」
だったらもう、答えは一つだ。
気合いを入れて、ブランコから立ち上がる。泰基の前に立った。
「泰基。――どこに行くのも、いつであっても、わたしと一緒にいてくれる?」
「凪沙?」
泰基が驚いた顔をした。でもすぐに笑顔になる。
「ああ、もちろん」
その力強い返事に、わたしの覚悟は決まった。……いや、覚悟なんて必要なかった。単に戸惑っていただけだったんだから。
「じゃあ、結婚お受けします。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
そう言った途端、腕をグイッと引かれた。うわっと声をあげたかもしれない。気付けば、泰基に抱きしめられていた。
「ああ、よろしく頼む。凪沙、嬉しい」
「ちょ、ちょっと泰基! ここ、公園! 見られちゃう! 離してよ!」
今は人はいないけど、いつ見られるか分からない。こんなご近所の公園で見られたりしたら、恥ずかしくて外を歩けなくなる。
「だったら、ラブホにでも行くか?」
「なんでっ!? 誰が行くか! 離せ!」
泰基のワケ分かんない言葉に、全力で叩いて蹴って、ようやく手を離してくれた。
すっごい不満そうな顔をしてたけど、文句を言いたいのはこっちだ。
翌日、わたしは真正面から泰基に問いかけた。少し驚いた顔をしたけど、泰基は当たり前のように頷いた。
「ああ、したい」
「どうして?」
前に聞いた時は「別に」って言われた。「ただ結婚したいんだ」と。でもそれだとどうしても納得できない。
今度は同じ返事にごまかされるつもりはない。
そんな気持ちで聞けば泰基も真剣に答えてくれ……って、あれ? 妙にバツの悪そうな顔だ。
「お前が、モテるから」
「……へ?」
返ってきた答えは、想像の外だった。
「お前、色んな男に声かけられて。お前にその意識はないんだろうけど、デートに誘われて。お前が鈍いのが良い方向に転がって、今のところ全部お前自身が鉄槌を下しているのが、面白いと言えば面白いが」
「……へ?」
えーと……てっつい? って、なに?
「いつまでもその鈍さに助けられるとも限らない。だから、何か起こる前に結婚したい」
「……………えーとごめん、よく分かんない」
泰基がごまかしてはいないことだけは分かる。分かるけど、意味が分からない。
ちゃんと分かるように言って欲しいなぁ、と思ったら、泰基が大きくため息をついていた。……なんで?
「はあ……。もうだから、どうせ正直に言ったって分かってなんかくれないから、強引に押し通そうと思ったのにな」
「いいから、分かるように説明してよ」
すっごい失礼に聞こえる泰基の言葉に、わたしはちょっと腹が立った。言ってくれなきゃ分からない事って、たくさんあると思う。
わたしの考え、間違ってないと思うのに、なんでか泰基はもう一度ため息をついた。
「……いいか、凪沙。まずこれは大前提なんだが、お前は美人だ。男にモテる。納得しなくてもいいが、分かれ」
「へ?」
「そこをまずお前が理解しないと、話が始まらない」
「……………?」
首を傾げた。わたしには、泰基がなんか変な事を言い始めたようにしか聞こえない。けど、泰基の目が据わった。
「そんなだから、説明しても無駄なんだ。いいか、お前は美人だ。モテる。大学までは一緒にいられて目を光らせていられたけど、就職して別々になって、気付かないうちに他の男にお前を盗られたら嫌だ。だから、卒業したら結婚する。以上だ」
「………………」
とりあえず、わたしのできた反応は、目をパチパチさせることだけだった。
※ ※ ※
わたしは公園のブランコに座ってゆらゆら揺れながら、ついさっきの泰基の言葉を思い出していた。
――お前は美人だ。モテる。
――納得しなくてもいいが、分かれ。
「いやいや、そんなことを自分で思ったら、ただのヤバいヤツでしょっ!?」
「ヤバくてもいいから、分かってくれ」
独り言に返事が返ってきて、ギョッとした。いやまあ、隣のブランコに泰基がいることくらい、当然分かってたけど。
近所の公園。最近ちょこちょこ立ち寄っている気がする。小さい頃、泰基とよく一緒に遊んだ公園だ。いつの間にか、来ることが少なくなっていたけど。
「……そう言われても」
正直、困ったというのが正しいかもしれない。
理由はちゃんと聞けた、ハズ。いまいち納得しきれない理由だけど、泰基が本気で言っていることは分かる。でもなぁ、と思ってしまうけど。
「……………」
泰基の顔をマジマジ見る。わたしが美人かどうかはさておき、泰基だって十分にイケメンの部類に入るんじゃないかと思う。
「なんだ?」
「……泰基だって、モテるよね」
泰基は剣道をやっている。詳しくは分からないけど、結構強いらしい。剣道着姿の泰基を見て、女の子たちがキャーキャー騒いでいることくらいは知ってる。
「別にどうでもいいな。凪沙以外の女を、女として見た事がない」
「いやいや、結構可愛い子とか、いたと思うけど」
そこまで言って、何となく考えた。
泰基は、わたしが他の男に盗られたら嫌だと言った。じゃあ、わたしはどうなんだろう。泰基の隣に、他の女の子がいたとしたら。
――すっごく、嫌かもしれない。
泰基が剣道をやっている。結構強い。その事実を知っている人は多い。
でも、どうしても全国に届かなかったことを悔しがっている顔とか。手がゴツゴツしていることとか。将来は剣道を教える立場につきたいと思っていることとか。
そんなことを知っている女の子は、わたしだけであって欲しいって、思う。
「よしっ」
「なんだ、どうした?」
だったらもう、答えは一つだ。
気合いを入れて、ブランコから立ち上がる。泰基の前に立った。
「泰基。――どこに行くのも、いつであっても、わたしと一緒にいてくれる?」
「凪沙?」
泰基が驚いた顔をした。でもすぐに笑顔になる。
「ああ、もちろん」
その力強い返事に、わたしの覚悟は決まった。……いや、覚悟なんて必要なかった。単に戸惑っていただけだったんだから。
「じゃあ、結婚お受けします。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
そう言った途端、腕をグイッと引かれた。うわっと声をあげたかもしれない。気付けば、泰基に抱きしめられていた。
「ああ、よろしく頼む。凪沙、嬉しい」
「ちょ、ちょっと泰基! ここ、公園! 見られちゃう! 離してよ!」
今は人はいないけど、いつ見られるか分からない。こんなご近所の公園で見られたりしたら、恥ずかしくて外を歩けなくなる。
「だったら、ラブホにでも行くか?」
「なんでっ!? 誰が行くか! 離せ!」
泰基のワケ分かんない言葉に、全力で叩いて蹴って、ようやく手を離してくれた。
すっごい不満そうな顔をしてたけど、文句を言いたいのはこっちだ。
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