転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十五章 帰郷

終幕に向けて

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「アレクシス、リィカ嬢、ダンス見事であった」
「ありがとうございます、陛下」
「……恐れ入ります」

 踊り終わってかけられた声に、堂々と答えたアレクに、リィカも慌てて付け加える。踊っている最中は楽しくて忘れていたが、そういえば衆人環視の中で踊っていたのだ。

「バルムート、ユーリッヒ。両名もこちらへ参れ」

 呼ばれてバルとユーリも出てくる。
 リィカが二人と再会したのは、このパーティーが始まる直前である。それまでリィカはドレスの着付けで動けなかったからだ。

『ほぉ……』
『大人っぽい感じがいいですね。綺麗ですよ、リィカ』

 ドレス姿のリィカを見て、バルは一声感心したように漏らし、ユーリはサラッと褒め言葉を口にした。
 変わらないなと思う。旅の間と同じようにリィカと話してくれる。照れて笑いながら、王都の門前で別れてからの話をお互いにしたのだった。

 その二人は、国王に呼ばれてアレクの後ろに立って礼を取った。

「改めて、四名とも魔王討伐、誠にご苦労だった。そして、大変な役目を全うしてくれたことに感謝する」

 その国王の言葉に、アレクが大きく頭を下げたのが見えて、リィカも慌てて頭を下げる。

「さて、四名とも、それぞれに褒美を取らそう。希望があれば言うが良い」
(……………ほうび?)

 頭を下げたままリィカは固まった。
 なんだそれは……と思って、要するに魔王を倒した事によるお礼ということなのか、と言うことに思い至る。

(………………)

 けれどそこで思考は止まった。

 褒美。お礼。
 そんなもの急に言われたところで出てくるはずもないし、正直欲しいと思えるものもない。

 アレクはどうするんだろう、とチラッと横目で見たら、なぜか同じような横目のアレクと視線がぶつかった。

(……アレク?)

 すぐに視線は逸らされたが、確かにアレクは自分を見ていた。何か意味があるんだろうか。けれど、それが何かは分からなかった。

「陛下、後でお時間を頂けませんか。俺の望みは、その時にお伝えしたく存じます」
「ふむ、よかろう」

 アレクの言葉に国王は鷹揚に頷き、そのまま視線をバルとユーリに向ける。二人は、迷うように一瞬口ごもった。

「……申し訳ありませんが、少しお時間を頂けるでしょうか」
「……考える時間を頂けると、幸いでございます」
「まあ良かろう。じっくり考えると良い。リィカ嬢は、いかがかな」

 バルとユーリは答えの先延ばしだ。
 リィカは、必死に考えを巡らす。おそらく「いらない」と断ることは、失礼に当たるのだろう。くれるというのだから、何かしらもらった方がいい。しかし、そう簡単に何か思いつくはずもない。

「……その、私も、少しお時間を頂ければ」
「欲しいものがすぐ出てこぬか。無欲だな」

 怒る風ではなく、少し笑いを交えた国王の言葉に、リィカはホッとする。時間をもらって考えたところで、それをこの国王に伝える術は自分にはないのだから、無理に何かを考えなくても、きっと問題ないはずだ。

 国王が、周囲を見回した。

「ではパーティーを再開しよう。皆で踊り、食べ、平和を祈ろう。それをもたらしてくれた勇者様ご一行への感謝を捧げるとしようではないか」

 大きな拍手が起こる。
 そして、音楽が再び流れた。


※ ※ ※


 夜遅く。
 パーティーが終了してリィカはドレスを脱いで、王宮の門の所にいた。

「本当に泊まっていかないのか、リィカ」
「うん、明日から学園だしね。寮に戻るよ」

 目の前のアレクに告げる。
 明日からは、旅に出る前の元々の生活に戻る。だからリィカは「泊まっていけ」という言葉に断りを入れた。
 明日の準備のためにも、今日は寮に戻った方がいいから、と。

「明日は休んでもいいって言ってただろ」
「無理しないで下さいね。リィカは昨日から着せ替え人形にされて、疲れたでしょうから」

 バルとユーリの言葉に、リィカは苦笑した。アレクもバルもユーリも、それぞれの家で休んだわけだが、リィカはそうではないし、確かに旅とは違った疲れもある。
 それでも、リィカは告げた。

「でも寮に帰る。明日、ちゃんと行きたいから」
「そうか」

 アレクが少し目を伏せる。その様子を見て、リィカは「言うべき言葉」を言おうとしたが、アレクの方が早かった。

「送っていく」
「え、い、いいよっ」
「送っていく。俺がそうしたい。こんな夜遅くに女の子一人で歩かせるものでもないだろう?」

 大丈夫だよ、と言おうとしたが、それは口にはできなかった。

「おれも行く」
「僕も一緒に行きますよ」

 バルとユーリにも言われてしまったからだ。
 断るのは無理だと思って、リィカは頷いた。……いや、そんなんじゃない。

 自分でも情けないと思っていても、あと少しだけ、一緒にいられる時間が伸びたことを、喜んでしまったのだ。
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