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第十四章 魔国
告げられた言葉
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「すごいね。ここからだと、景色が一望できるんだ」
「リィカ」
近くから聞こえた声に、暁斗が顔を上げれば、そこにいたのはリィカだった。そして、アレクもバルも、ユーリも屋根に上がってきていた。
それを見て、暁斗は思い出した。
「そう言えば、バル大丈夫? 腕が……」
魔王の攻撃で、腕が半分くらい千切れかけていたはずだ。そう思いつつ腕を見れば、まだかなり痛々しくはあるが、何とか腕はついている。
「何とかな。タイキさんのおかげで、無くさずに済んだ」
バルが少し悲しそうに笑う。その泰基の持つ剣が壊れたのだ。同じ魔剣を持つ者として、その気持ちが痛いほどに理解できてしまう。
アレクが、周囲を見回す。
「やはり、カストルやダランの気配はしないな」
「ジャダーカの魔力も感じない」
リィカも続ける。
魔王と戦っている最中に割り込んでくる可能性もあった、魔族たち。だが、一切の邪魔が入らないままに、魔王を打ち倒せた。
そして今、自分たちがまともに戦えない、ボロボロの状態であっても、攻撃してくる気配は見えない。
何となく全員が無言になった中、近づいてくる足音に皆が視線を向ける。
「終わったのか」
泰基だった。
もういいのか、お別れは済んだのか、と思っても誰も聞かない。アレクが、ただ泰基に頷いて、そして神妙な顔つきになった。
「アキト、タイキさん、二人ともありがとう。ここまで一緒に来てくれて、魔王を倒してくれて。そんな義理もないのに、戦ってくれて。……本当にありがとう」
言って、二人に頭を下げる。
そんなアレクに、バルとユーリも続いた。
「そうだな。……アキトもタイキさんも、ありがとう」
「ありがとうございます」
三人とも頭を下げ、そのまま上げない。
それを見て、暁斗が困った顔をして泰基を見るが、泰基は何も言わず、好きにしろと言うように笑うだけだ。
ますます困る暁斗だが、何か言わなければ三人は頭を上げない。深呼吸して、思いを口にした。
「お礼なんて、いらない。元々、そっちが先に父さんを助けてくれたんだから」
癌で余命僅かだった泰基を、治療してくれた。暁斗が魔王を倒すという話を受けたのは、それがあったからだ。
「それに、楽しかったよ。みんなと一緒に旅できて。大変だったけど、色んなことあったけど。……みんなと一緒にいられるならこの世界も悪くないって、そう思えるくらいには、楽しかった。だから、オレの方こそ、ありがと」
暁斗の、心からの言葉だ。
だが、その言葉に顔を上げたアレクの、バルとユーリの表情が、強張っているように暁斗には見えた。
「ああ。……このあとアルカトル王国に戻ったら、アキトもタイキさんも王宮で迎える。二人の生活は、しっかり責任を持つから」
「……うん」
暁斗は曖昧に頷いた。
分かっている。アルカトル王国の王宮にいたところで、決して今後「皆といっしょにいられる」わけではないのだ。皆それぞれ自分の道を進んでいくのだろう。だから、暁斗は思う。
「……オレは、どうしよう」
この先が、見えない。
約束は果たした。けれど、この世界で生きていく自分が、全く想像できない。
暁斗が黙り、アレクが何かを言おうとして、結局何も言えない。バルもユーリも何も言えず、この場に静寂が訪れる。
「暁斗」
そんな中、静かに言ったのは、泰基だった。
「日本に、帰りたいか?」
「………………え?」
何を言われたか分からない。
そういう表情の暁斗に、泰基は静かに笑いかけ、同じ問いをする。
「日本に帰りたいか、暁斗? この世界にいれば、何もしなくても全部面倒を見てくれる。日本に帰れば、勉強はしなければならないし、生きていくために自分で働かなければならない。それでも、日本に帰りたいか?」
呆然とした暁斗の頭に、泰基の言葉が染み込んでいく。まさか、と思う。だってその言い様は、まるで……。
「……日本に、帰れるの?」
その前提で、泰基が話している。帰れる前提で、帰りたいかどうかを、聞いている。
けれど、帰る方法なんて、ないはずで……。
「わたしが帰してあげる、暁斗」
いつの間にか近づいてきたリィカが、暁斗に笑いかける。泰基と目を合わせたリィカが、再び告げる。
「わたしが帰してあげる。暁斗も泰基も、二人とも。だから暁斗はどうしたいのか、自由に決めていいよ」
リィカの言葉に暁斗は何も返せず、ただその顔を見つめるしかできなかった。
「リィカ」
近くから聞こえた声に、暁斗が顔を上げれば、そこにいたのはリィカだった。そして、アレクもバルも、ユーリも屋根に上がってきていた。
それを見て、暁斗は思い出した。
「そう言えば、バル大丈夫? 腕が……」
魔王の攻撃で、腕が半分くらい千切れかけていたはずだ。そう思いつつ腕を見れば、まだかなり痛々しくはあるが、何とか腕はついている。
「何とかな。タイキさんのおかげで、無くさずに済んだ」
バルが少し悲しそうに笑う。その泰基の持つ剣が壊れたのだ。同じ魔剣を持つ者として、その気持ちが痛いほどに理解できてしまう。
アレクが、周囲を見回す。
「やはり、カストルやダランの気配はしないな」
「ジャダーカの魔力も感じない」
リィカも続ける。
魔王と戦っている最中に割り込んでくる可能性もあった、魔族たち。だが、一切の邪魔が入らないままに、魔王を打ち倒せた。
そして今、自分たちがまともに戦えない、ボロボロの状態であっても、攻撃してくる気配は見えない。
何となく全員が無言になった中、近づいてくる足音に皆が視線を向ける。
「終わったのか」
泰基だった。
もういいのか、お別れは済んだのか、と思っても誰も聞かない。アレクが、ただ泰基に頷いて、そして神妙な顔つきになった。
「アキト、タイキさん、二人ともありがとう。ここまで一緒に来てくれて、魔王を倒してくれて。そんな義理もないのに、戦ってくれて。……本当にありがとう」
言って、二人に頭を下げる。
そんなアレクに、バルとユーリも続いた。
「そうだな。……アキトもタイキさんも、ありがとう」
「ありがとうございます」
三人とも頭を下げ、そのまま上げない。
それを見て、暁斗が困った顔をして泰基を見るが、泰基は何も言わず、好きにしろと言うように笑うだけだ。
ますます困る暁斗だが、何か言わなければ三人は頭を上げない。深呼吸して、思いを口にした。
「お礼なんて、いらない。元々、そっちが先に父さんを助けてくれたんだから」
癌で余命僅かだった泰基を、治療してくれた。暁斗が魔王を倒すという話を受けたのは、それがあったからだ。
「それに、楽しかったよ。みんなと一緒に旅できて。大変だったけど、色んなことあったけど。……みんなと一緒にいられるならこの世界も悪くないって、そう思えるくらいには、楽しかった。だから、オレの方こそ、ありがと」
暁斗の、心からの言葉だ。
だが、その言葉に顔を上げたアレクの、バルとユーリの表情が、強張っているように暁斗には見えた。
「ああ。……このあとアルカトル王国に戻ったら、アキトもタイキさんも王宮で迎える。二人の生活は、しっかり責任を持つから」
「……うん」
暁斗は曖昧に頷いた。
分かっている。アルカトル王国の王宮にいたところで、決して今後「皆といっしょにいられる」わけではないのだ。皆それぞれ自分の道を進んでいくのだろう。だから、暁斗は思う。
「……オレは、どうしよう」
この先が、見えない。
約束は果たした。けれど、この世界で生きていく自分が、全く想像できない。
暁斗が黙り、アレクが何かを言おうとして、結局何も言えない。バルもユーリも何も言えず、この場に静寂が訪れる。
「暁斗」
そんな中、静かに言ったのは、泰基だった。
「日本に、帰りたいか?」
「………………え?」
何を言われたか分からない。
そういう表情の暁斗に、泰基は静かに笑いかけ、同じ問いをする。
「日本に帰りたいか、暁斗? この世界にいれば、何もしなくても全部面倒を見てくれる。日本に帰れば、勉強はしなければならないし、生きていくために自分で働かなければならない。それでも、日本に帰りたいか?」
呆然とした暁斗の頭に、泰基の言葉が染み込んでいく。まさか、と思う。だってその言い様は、まるで……。
「……日本に、帰れるの?」
その前提で、泰基が話している。帰れる前提で、帰りたいかどうかを、聞いている。
けれど、帰る方法なんて、ないはずで……。
「わたしが帰してあげる、暁斗」
いつの間にか近づいてきたリィカが、暁斗に笑いかける。泰基と目を合わせたリィカが、再び告げる。
「わたしが帰してあげる。暁斗も泰基も、二人とも。だから暁斗はどうしたいのか、自由に決めていいよ」
リィカの言葉に暁斗は何も返せず、ただその顔を見つめるしかできなかった。
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