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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑭

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「《強化・速シュネリーカイト》」

 泰基が唱えたのは、速さをアップさせる強化魔法だ。それを自分にかけて、魔王へと斬りかかる。

 暁斗のように、魔王の動きについていける自信は、欠片もない。
 日本にいたとき、暁斗は泰基をあっさり越した。剣道において、泰基は一度も全国に届いたことはないのに、暁斗はそれの常連となっている。

 この魔国に至るまでに、泰基とて強くなった。けれど、泰基は剣も魔法も、どちらもやってきた。剣をメインに戦ってきた暁斗に比べれば、成長度合いは劣るだろう。

 それを分かっているから、泰基は剣だけに拘らない。
 どちらも使える。それが、泰基の強みだ。

 自らの唱えた強化魔法に振り回されないよう、ただただ集中する。泰基の目的は、たった一つ。暁斗が攻撃するための隙を作ること。それだけだ。

「はっ」

 軽く息を吐くように声を出して、魔王へと剣を振り下ろす。
 剣技は使わない。使うのは、これまで泰基が剣道で振るってきたものだ。
 もちろん、剣道なら相手だって竹刀を持っている。無手ということはあり得ない。それでも、基本は変わらない。

 泰基に向かって振るわれる拳に、剣を振り下ろす。簡単に弾かれるが、その流れで面へと振るう。避けられるが、今度は胴へ。

「……………!」

 当たった。ほんの僅かに傷を負わせた。
 今までであれば、かすり傷一つつかなかっただろう。そういう意味では、傷がついただけ良いのかもしれないが、それでも僅か過ぎる。

「《水波紋アクアリング》!」
「なにっ……」

 一瞬で思考を切り替えて、泰基はゼロ距離で魔法を発動させた。水の中級魔法。そのリングは、鋭い刃のようになっている。

 与えた傷に重なるように、魔法が当たる。さらにその傷を深くする……かと思われたが、そう簡単にさせてくれる相手ではない。

 驚いていた魔王だが、すぐにその拳で《水波紋アクアリング》を消滅させる。その隙に、泰基は一歩後ろに下がった。

「《氷の竜巻ブライニクル》!」

 再び発動させた。自らの、最大の攻撃魔法だ。
 近距離からの攻撃。だが、魔王は右手で受け止める。

「……まだ押し切れないのか」
「我を舐めるな、と言ったな。この程度の魔法、我の敵ではない!」

 その瞬間、魔王が右手を握り、そして《氷の竜巻ブライニクル》が消滅した。

「うそだろ……っ……!」

 いともあっさり消滅させられ、一瞬だけ泰基の動きが止まった瞬間。
 魔王が拳を握り、泰基に向かって突き出す。距離はある。物理的には届かない。だが、その拳からは、魔力の丸い塊が射出された。

「《反射鏡リフレクター》!」

 唱えたのは、光と光の混成魔法。砂漠を旅しているときに、バシリスクの石化視線の対策で覚えた魔法だ。
 これで、魔王の放った魔力の塊は跳ね返る……はずだった。

「……………!」

 跳ね返らない。跳ね返そうとする泰基の魔法の力よりも、魔王の魔力の力の方が強い。ミシミシ音を立てる。

 ――パリィィン!!

 泰基の《反射鏡リフレクター》が壊され、魔力の塊が泰基へ向かう。

「っっっ! デフェンシオ!」

 左手を前に出す。ギリギリ間に合った。デフェンシオの防御能力が発動し、左手一本で受け止めた泰基を守る。

「デフェンシオ、行けるか……」
『うん、タイキ』

 十秒でこれを相殺しきるのは無理だ。そう判断した泰基が、右手に持つデフェンシオに問いかける。
 その答えを聞いて、泰基は能力発動中の魔剣に、さらに魔力を流した。

 ――ピシッ

 どこからか、そんな音が聞こえたが、集中している泰基が気にすることはなかった。ただ、手にする魔剣に魔力を流す。

(八、九、十……!)
「【光輝突撃剣こうきとつげきけん】!」

 十のカウントと一緒に、左手で受け止めている魔力の塊に、発動させた剣技を突き刺す。ジュッという音を立てて、魔力が消え失せた。

 突き技の剣技を発動させた勢いのままに、泰基は足を前に踏み込む。
 距離は……少し遠い。剣は届かない。

 だが、そこから剣が伸びた。
 光が真っ直ぐ、魔王の心臓に伸びる。

「またかっ」

 魔王の言葉に、そういえば先ほどアレクもやっていたなと思う。
 最初にやってみせたリィカや、実際に魔族に披露したユーリがやれば、魔王も余裕で対処していたのだろうが、今の魔王には若干の焦りが見えている。

 魔王は、横に躱す。が、間に合わない。そう泰基の目には見えた。倒せはしないだろう。それでも、ダメージは通る。
 泰基が、そう思った瞬間だった。

 ――ピシピシッ、ピシッ

 その音は、泰基の手の近くから聞こえた。
 そこに視線を向けて……。

「――デフェンシオ!?」

 泰基は、思わず叫んでいた。
 自らの持つ魔剣デフェンシオ。その刀身に、たくさんのヒビが走っていた。

 ――ピシピシピシッ、ピシピシピシピシッ

 音が、さらに広がる。合わせてヒビも広がっていく。
 そして、ボロッと刀身が崩れ落ちた。同時に、伸びた光も魔王に到達する前に消滅する。

「…………………」

 呆然と、柄だけになった剣を泰基は見つめる。
 隙だらけになった泰基に、魔王が近寄った。

「ここまでだな、勇者の父親」

 魔王の右手が振り上げられる。それの意味するところが理解できないまま、泰基の目に振り下ろされる拳が映る。

「いけぇっ!!」

 そこで響いた声は、少女の声。――リィカだ。
 小さな複数の球が、放たれた。

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