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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑬

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(まずいな、魔力が足りなくなってきたか?)

 暁斗の回復をしつつ、泰基は歯がみする。
 元々、リィカやユーリに比べると、自分の魔力量は少ない。そう言うと、アレクやバルあたりには「比較対象が悪すぎる」と言われるが、少ないことは事実であると思っている。

 ユーリの回復で、混成魔法の《復活リジェネレーション》を使った。使わなければ、ユーリは回復しなかった。だが、あの回復でかなりの魔力を消耗したのは、確かだった。

 そして、回復が間に合わない。完全に回復させている余裕がないのだ。皆が皆、中途半端な回復のまま、戦う事を強いられてしまっている。

 ユーリは苦しそうにうずくまり、リィカはおそらく魔力が切れた。アレクが魔王の攻撃をまともに受けたが、回復に回る余裕がない。
 今はバルが魔王と戦っているが……。

「………………!!」

 魔王の放った鋭い魔力の刃が、バルの剣を真っ二つに切った。ほとんど同時に、その両腕すらも断ち切ろうとしている。

 暁斗から手を離すこと、回復をやめることを、一瞬ためらった。だが、魔力の刃はバルの腕に食い込んでいた。千切れれば回復できない、と聞いた事を思い出す。

「父さん、オレはもう大丈夫」

 泰基の躊躇いを察したかのような暁斗の言葉に、泰基は頷いた。暁斗から手を離し、そのまま剣の柄に手をかける。

「デフェンシオ!!」

 剣を抜きながら叫ぶ。バルを対象に、デフェンシオの防御能力を発動させる。
 だが、これだけでは駄目だ。魔力の刃は消えていない。十秒経てば、また刃はバルの腕を切り裂こうとするだろう。

 だから、その前にあの魔力を相殺する。

「《光の付与ライト・エンチャント》! 【光輝突撃剣こうきとつげきけん】!」

 光の突き技の剣技を、さらに細く鋭くなるようにイメージする。針のように細く、それを長く伸ばす。
 バルの腕を断ち切ろうとする刃に、それを突き刺した。同時にそこから魔力を流す。

 幸いにも、それで魔力は消え失せた。さほど魔力を使わずとも相殺できたのは、やはり魔王のダメージも相当なものであるからか。

 思い出したように、バルの両腕から血が噴き出す。千切れてこそいなくても、かなり深くまで刃は達していたのか。躊躇った自分を悔やむ。
 もしかしたら、動脈まで切れているかもしれない。回復したいが、目の前の魔王がそれを許さない。

「次はそなたが相手か。勇者の父親よ」

 満身創痍であるはずの魔王は、それでも余裕の笑みを崩していなかった。

 魔王は、別に勝っても負けてもどっちでもいいのだと、その事実に泰基は気付く。
 勝てば人の地に攻め込む。負けても、今までの歴史を繰り返すだけ。魔王の望みである魔族の生き残りは叶う。種の絶滅の可能性は、誓約によってなくなった。

(誓約って言っても、別に何かあるわけじゃない。おそらく、ただの口約束だが)

 仰々しい誓約という言葉だが、約束を破ったところで、おそらく何かペナルティがあるわけではないだろう。

 過去において、やっぱりやめた、と魔王亡き後の魔国へ攻撃を仕掛けることだって出来たはず。でも、この世界の勇者の仲間たちは、それをしなかった。
 口約束だと、気付いていなかったとは思えない。それでも約束を守り続けたのだ。

 そこにどんな理由があったかは分からない。けれど何となく思う。この魔王の、正々堂々とした戦いぶりに、敬意を表したのではないのか、と。

 そしてそれを、きっと魔王も感じている。知りはしなくても、分かっているのだ。この戦いが、交わした誓約が間違いなく果たされるために必要なものであるのだと。
 勝っても負けても、この戦いが始まった時点で、魔王は自らが望むことが叶うことを分かっているのだ。

(どっちが有利なんだろうな)

 絶対に勝たなければならない自分たちと。勝っても負けてもどちらでもいい魔王と。
 一見魔王の方が有利にも思うが、勝負への執念は自分たちの方が強い。

 剣を強く握る。自分たちの限界も近い。あとは、聖剣を持つ勇者である暁斗の、最後の攻撃を叩き込む瞬間を作り出すだけだ。
光の付与ライト・エンチャント》にさらに魔力を込めて、泰基は魔王に攻め込んでいった。


※ ※ ※


「ユーリ、聞こえる?」

 リィカは、なけなしの魔力を風の手紙エア・レターに流す。
 大声を出せる気もしない。魔力が切れたことだけではない。《天変地異カタクリズム》の二連発は、リィカの体への負担が想像以上に大きかった。体が強張ったように動かない。

 近くにいるのは、両腕からの出血が止まらないバルだ。
 暁斗が気にする様子を見せたが、すぐ視線は泰基と魔王へと向いた。聖剣に魔力を流し込んでいるのが分かる。これが最後だと、きっと分かっているんだろう。

 せめてバルの止血だけでもできればいいが、リィカはそれも出来る状態ではない。そして、もう一つの目的もあり、ユーリへと連絡したのだ。
 声を張り上げるより、風の手紙エア・レターの方がやりやすい。

『……リィカ?』

 もしかしたら強力な混成魔法を放って、その衝撃で気を失っていたのか。返事が一瞬遅れる。ユーリもかなりの大ダメージであることを知りつつも、リィカはそれを口にした。

「こっち、これる? バルの回復、して欲しい。……それとマジックポーション、もう一本あるよね。ちょうだい」
『………………』

 言葉での返事はなかった。
 けれど、胸を押さえて立ち上がるユーリの姿が見えた。

 かなりふらふらだが、泰基と魔王が戦っている場所を気にしながら、ユーリが近づいてきた。アイテムボックスに手を触れて、マジックポーションを取り出している。

「先ほど飲んだばかりですから、おそらく少ししか回復はしませんよ」
「うん、分かってる」

 カトリーズの街で魔封陣を壊した後のことを思い出しつつ、リィカは頷く。

 短い時間で二本目を飲むと、魔力の回復量が著しく落ちる。
 具体的にどのくらいの間をあければ良いのかまでは検証できていないが、おそらく今飲んだところで、あの時と同じく一割程度しか回復しないだろう。

 それを分かった上で、リィカはマジックポーションを受け取った。少し回復できれば、それでいい。
 混成魔法じゃなく、魔王に通じるかもしれない魔法があったことを思い出した。それにはそんなに魔力は必要ない。

「バル。とりあえず血を止めますね」
「ああ、任せる」

 ユーリとバルの会話を聞きつつ、リィカはマジックポーションを呷る。やはり一割、回復したかどうかだ。

 分かっていた事なので気にする必要もなく、リィカは泰基と魔王の戦いを見つめる。暁斗の最後の一撃のために、集中を高めた。

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