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第十四章 魔国
VS魔王ホルクス⑪
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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ーリ、ユーリ!」
ユーリは瞼を震わせて、目を開ける。
目の前にいたのは、安心したような顔をした泰基だ。その顔を見て、自分の状況を思い出した。
「……魔王に、真正面からぶん殴られたんでしたね」
動こうしてズキッと胸部に痛みが走り、手で押さえる。魔王に殴られた場所だ。
「ユーリ、もう少し回復するから。本当に危なかったんだ」
「……いえ、少しでも動けて魔法が使えれば十分です。そんな状況じゃありませんから」
泰基の伸ばす手を、ユーリは押さえる。
危なかったというのは本当だろう。自分の身に纏う魔力を感じれば、分かる。
光と水の魔力。それはつまり、泰基が混成魔法の回復魔法である《復活》を使っていたことに他ならない。
それを使わなければならないほど、自分は危険な状態だったということだ。
だが、今はまだ戦いの途中だ。
状況は分からない。けれど、リィカが《天変地異》を使い、魔王の魔力を受け止めている。
その後ろには倒れ込む暁斗と、それを支えるバル。
少し離れた所にいるアレクは、傷口から出血しているのが見える。
「タイキさん、アキトをお願いします。アレクは僕が見ます」
「……分かった」
そういう分担にしたのは、単にアレクの方がまだ距離が近いというだけだ。まだ痛みの残るユーリには、ほんの少しの差でも距離は近い方がありがたかった。
躊躇いを振り切るように、泰基が暁斗に向かって走る。
それを見送りつつ、ユーリはまずアイテムボックスに手を触れる。分かる。リィカの魔力は、もう切れる。
と思った瞬間、まさにリィカの《天変地異》が消滅した。
「リィカっ! 受け取ってっ!」
「ありがとっ、ユーリっ!」
アイテムボックスから取り出したマジックポーションを、リィカに投げる。受け取ったリィカの顔が、泣きそうな笑顔を見せる。
「まだ、もう一発っ! 《天変地異》!!」
最強の魔法を連発したリィカを横目に、ユーリはアレクの元へと移動した。
※ ※ ※
「アレク、回復しますね」
「……大丈夫か、ユーリ」
「さあね。勝ったらゆっくり休みますので、今はとっとと回復して下さい」
ユーリのその言いようにアレクは不満を覚えるが、ユーリは全く気にする様子を見せない。
せっかく気遣ってやったというのに……と思うが、ユーリの額に汗が流れているのを見てしまうと、文句も言えない。
「……すいません、アレク。本当はもっとしっかり回復したいんですけど、僕もちょっとキツいです」
「ああ。出来る範囲でいい」
アレクが頷くと、ユーリは視線をリィカへと向けた。
「アレクは攻撃の準備を。リィカが魔王の攻撃を相殺したら、まず僕が魔法を仕掛けます。その後は、任せます」
「ああ」
リィカが相殺できなかった場合のことは口にしない。キツいと言った口で攻撃を仕掛ける気か、とも思うが、それも言わない。
今は、何よりも魔王を倒すことだ。
アレクは魔剣アクートゥスを持つ手に力を入れる。
リィカが自分の回復を途中で投げて、暁斗の助けに入ったことに複雑な気持ちはある。リィカの手が離れていったあの瞬間、アレクは引き留めようと、思わず手を伸ばしかけた。
リィカが割って入らなければ、暁斗もバルもただでは済まなかっただろう。そう言い聞かせて、自分を納得させる。
「いけぇっ!」
リィカが叫ぶ。
そして、大きな爆発を起こしながら、リィカが魔王の魔力を相殺した。――瞬間。
「《太陽爆発》!」
その瞬間、宣言通りにユーリが魔法を使った。
何の魔法を使うか聞かなかったのも悪かったが、まさか混成魔法を使ってのけるとは思わなかった。
放った直後、ユーリは苦しそうにうずくまる。
だが、アレクはすぐに視線を魔王に向ける。「後は任せる」と言われたのだ。今することは、ユーリを気遣うことじゃない。
「《風の付与》!」
エンチャントを唱える。同時に、魔剣に魔力を流す。
魔力を流すと、その鋭さと切れ味が増す能力を持つ魔剣アクートゥス。その能力によって、唱えた風のエンチャントもさらに鋭さを増していく。
爆発が収まる。見えた魔王の姿は、全身に傷が見られるものの、深い傷は見当たらない。五体満足だ。
だが、今までであれば傷一つつけられなかった攻撃で、傷がついた。それは大きな変化だ。
アレクは一気に魔王の懐に入り込む。
「【天馬翼轟閃】!」
風の直接攻撃の剣技を発動させた。
今までであれば、躱されていた。だが、魔王の動きが遅い。
躱そうとする動きを読み切り、さらに一歩踏み込む。
――そして、剣技は魔王の腹部に命中した。
「ぐあぁっ!」
舞う鮮血に、魔王が明らかに苦痛の声を上げた。
アレクは再度魔力を流す。再び剣技を発動させようとして……目の端に動くものを捉えたときには、すでに魔王の拳が眼前にあった。
「…………がっ……!」
顔面を殴られ、吹き飛ばされる。飛ばされながら、剣を真っ直ぐ魔王に向ける。脳裏に浮かぶのは、リィカがエンチャントを使ったときの事だ。
そして《風の付与》は、アレクがイメージしたとおりにムチのように伸びて、魔王を叩く。
どの程度効いたかは分からない。だが、アレクの攻撃を追うように、バルが魔王に攻撃を仕掛けた。
今年もよろしくお願いします。
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「……ーリ、ユーリ!」
ユーリは瞼を震わせて、目を開ける。
目の前にいたのは、安心したような顔をした泰基だ。その顔を見て、自分の状況を思い出した。
「……魔王に、真正面からぶん殴られたんでしたね」
動こうしてズキッと胸部に痛みが走り、手で押さえる。魔王に殴られた場所だ。
「ユーリ、もう少し回復するから。本当に危なかったんだ」
「……いえ、少しでも動けて魔法が使えれば十分です。そんな状況じゃありませんから」
泰基の伸ばす手を、ユーリは押さえる。
危なかったというのは本当だろう。自分の身に纏う魔力を感じれば、分かる。
光と水の魔力。それはつまり、泰基が混成魔法の回復魔法である《復活》を使っていたことに他ならない。
それを使わなければならないほど、自分は危険な状態だったということだ。
だが、今はまだ戦いの途中だ。
状況は分からない。けれど、リィカが《天変地異》を使い、魔王の魔力を受け止めている。
その後ろには倒れ込む暁斗と、それを支えるバル。
少し離れた所にいるアレクは、傷口から出血しているのが見える。
「タイキさん、アキトをお願いします。アレクは僕が見ます」
「……分かった」
そういう分担にしたのは、単にアレクの方がまだ距離が近いというだけだ。まだ痛みの残るユーリには、ほんの少しの差でも距離は近い方がありがたかった。
躊躇いを振り切るように、泰基が暁斗に向かって走る。
それを見送りつつ、ユーリはまずアイテムボックスに手を触れる。分かる。リィカの魔力は、もう切れる。
と思った瞬間、まさにリィカの《天変地異》が消滅した。
「リィカっ! 受け取ってっ!」
「ありがとっ、ユーリっ!」
アイテムボックスから取り出したマジックポーションを、リィカに投げる。受け取ったリィカの顔が、泣きそうな笑顔を見せる。
「まだ、もう一発っ! 《天変地異》!!」
最強の魔法を連発したリィカを横目に、ユーリはアレクの元へと移動した。
※ ※ ※
「アレク、回復しますね」
「……大丈夫か、ユーリ」
「さあね。勝ったらゆっくり休みますので、今はとっとと回復して下さい」
ユーリのその言いようにアレクは不満を覚えるが、ユーリは全く気にする様子を見せない。
せっかく気遣ってやったというのに……と思うが、ユーリの額に汗が流れているのを見てしまうと、文句も言えない。
「……すいません、アレク。本当はもっとしっかり回復したいんですけど、僕もちょっとキツいです」
「ああ。出来る範囲でいい」
アレクが頷くと、ユーリは視線をリィカへと向けた。
「アレクは攻撃の準備を。リィカが魔王の攻撃を相殺したら、まず僕が魔法を仕掛けます。その後は、任せます」
「ああ」
リィカが相殺できなかった場合のことは口にしない。キツいと言った口で攻撃を仕掛ける気か、とも思うが、それも言わない。
今は、何よりも魔王を倒すことだ。
アレクは魔剣アクートゥスを持つ手に力を入れる。
リィカが自分の回復を途中で投げて、暁斗の助けに入ったことに複雑な気持ちはある。リィカの手が離れていったあの瞬間、アレクは引き留めようと、思わず手を伸ばしかけた。
リィカが割って入らなければ、暁斗もバルもただでは済まなかっただろう。そう言い聞かせて、自分を納得させる。
「いけぇっ!」
リィカが叫ぶ。
そして、大きな爆発を起こしながら、リィカが魔王の魔力を相殺した。――瞬間。
「《太陽爆発》!」
その瞬間、宣言通りにユーリが魔法を使った。
何の魔法を使うか聞かなかったのも悪かったが、まさか混成魔法を使ってのけるとは思わなかった。
放った直後、ユーリは苦しそうにうずくまる。
だが、アレクはすぐに視線を魔王に向ける。「後は任せる」と言われたのだ。今することは、ユーリを気遣うことじゃない。
「《風の付与》!」
エンチャントを唱える。同時に、魔剣に魔力を流す。
魔力を流すと、その鋭さと切れ味が増す能力を持つ魔剣アクートゥス。その能力によって、唱えた風のエンチャントもさらに鋭さを増していく。
爆発が収まる。見えた魔王の姿は、全身に傷が見られるものの、深い傷は見当たらない。五体満足だ。
だが、今までであれば傷一つつけられなかった攻撃で、傷がついた。それは大きな変化だ。
アレクは一気に魔王の懐に入り込む。
「【天馬翼轟閃】!」
風の直接攻撃の剣技を発動させた。
今までであれば、躱されていた。だが、魔王の動きが遅い。
躱そうとする動きを読み切り、さらに一歩踏み込む。
――そして、剣技は魔王の腹部に命中した。
「ぐあぁっ!」
舞う鮮血に、魔王が明らかに苦痛の声を上げた。
アレクは再度魔力を流す。再び剣技を発動させようとして……目の端に動くものを捉えたときには、すでに魔王の拳が眼前にあった。
「…………がっ……!」
顔面を殴られ、吹き飛ばされる。飛ばされながら、剣を真っ直ぐ魔王に向ける。脳裏に浮かぶのは、リィカがエンチャントを使ったときの事だ。
そして《風の付与》は、アレクがイメージしたとおりにムチのように伸びて、魔王を叩く。
どの程度効いたかは分からない。だが、アレクの攻撃を追うように、バルが魔王に攻撃を仕掛けた。
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