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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑨

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 暁斗が発動させた【火鳥炎斬かうえんざん】は、三日月型に描く弧の鋭さが増している。

「…………!」

 魔王が、
 これまで遠距離での攻撃はすべて受け止めてきた魔王が、初めて避けた。

 その魔王の懐に、暁斗が一気に飛び込み、今度は直接剣を振るう。
 下からすくい上げるように振るわれた剣を、魔王はあっさり避ける。だが、そんなのは分かりきっていた事だ。先ほども、アレクと二人がかりで全く剣を当てられなかったのだ。

(魔王の動きに、集中するんだ)

 今は、暁斗の苦手な対多数の戦いではない。敵は、目の前にいる魔王一人。背後を気にすることはない。

 日本にいたときの暁斗は、剣道の大会では全国大会の常連だった。だが逆に言えば、常連というだけで優勝した経験があるわけではない。自分より格上の相手など、たくさんいた。

(食らいつけっ!)

 集中力が、今までになく高まる。魔王の動きが、分かる。その一挙手一投足が、どう動こうとしているのか、まるで未来を見ているかのように分かる。

 暁斗は剣を横に振るう。魔王はそれを避けて……、しかし暁斗の剣は振り切ることなく途中で止まる。

「なにっ!?」

 暁斗が一歩踏み込む。途中で止まった剣はまるで跳ね返ったように動き、魔王が避けた場所に真っ直ぐ向かう。そのまま胴を断ち切らんばかりに、素早く鋭く剣が振るわれる。

 ――

 暁斗が、無意識にそう思った瞬間だった。

「はあぁっ!!」

 魔王が気合いを入れるように叫ぶ。
 その瞬間、比喩でも何でもなく、筋肉が膨れ上がる。

「……………なっ……!?」

 暁斗の剣は、魔王の脇腹に命中した。鮮血が舞い、深く傷をつけた。だが、それ以上動かない。筋肉に挟まれ、奥に進めることも、剣を戻すこともできない。
 剣の動きを完全に封じられ、暁斗の動きが止まる。集中力が途切れた。

「アキトっ!」

 叫んだのは、バルだった。
 その声に、暁斗が気付いた時には遅かった。

「…………がっ……」

 魔王の拳が、暁斗の腹にめり込んでいた。

 暁斗の手が剣から離れ、その場で倒れ込む。カランと音を立てて、脇腹に刺さったままだった聖剣が床に落ちた。

「アキトっ! このやろ……っ!」

 斬りかかったバルに向けて、魔王は暁斗を蹴りつけて、バルにぶつける。
 反射的に受け止めたバルに向けて、魔王は両の拳を向けた。

「勇者よ、死ね」
「バ、ル……にげ……て……」

 暁斗は何とか声を絞り出す。
 魔王の拳に、尋常ではない魔力が集まっていた。あんなものをまともに受けたら、ただでは済まない。

「できっかよ、んなこと!」

 バルが叫んで剣を構えて立つ……前に、暁斗を守るように誰かが割り込んできた。

「「リィカっ!?」」

 暁斗とバルの声がハモる。
 二人に視線を向けることもなく、リィカはその右手を魔王に向けた。


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