上 下
495 / 629
第十四章 魔国

VS魔王ホルクス④

しおりを挟む
(なるほど魔王か。凄まじいものだな)

 泰基は、暁斗の放った衝撃波を受け止める魔王を見て、改めてそう思う。
 ゲームでもフィクション作品でも何でもなく、現実としての魔王を見て、心からそう思ったのだ。

 暁斗の放った衝撃波は、側で見ているだけでもその威力には汗が流れる。よくあんな威力を出せるものだと思う。
 それをたった右腕一本で受け止める魔王。だが、それが魔王にとってやりやすい防御なのだということに、泰基は気付いていた。

 もし両手で防御しようとすれば、両手に魔力を集めなければならない。それよりは、右手だけに絞って防御する方がやりやすいのだ。

 しかし、だからこそ隙も生まれる。右側に魔力が集中しているから、左側は無防備だ。一気に倒せなくてもいい。確実に隙をついていけばいい。

「《氷の竜巻ブライニクル》!」

 四天王フロストックとの戦いで使えるようになった混成魔法。泰基が使える魔法の中で、一番強力な魔法を、無防備な左側に放った。

 だが、魔王は冷静だった。
 暁斗の放った衝撃波が、一瞬で消え失せる。そして、泰基の放った《氷の竜巻ブライニクル》を見て、体をひねり右手を向けた。その瞬間だった。

「《水蒸気爆発スチームバースト》!」

 リィカが無防備な左側へ混成魔法を放った。
 魔王が目を見開き、左手を前に出す。《水蒸気爆発スチームバースト》を受け止めた。そして同時に、その右手は氷の竜巻を受け止めていた。

「お、おおぉぉ、おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 魔王が叫ぶ。
氷の竜巻ブライニクル》だけではなく、《水蒸気爆発スチームバースト》も魔王を貫けない。その手で受け止められている。だが、その威力はまだ残っている。

「《風の付与ウインド・エンチャント》!」

 両手が塞がった魔王の元に、アレクが飛び込んだ。エンチャントを唱える。さらに、アレクが魔剣に魔力を流したのが分かった。同時に、緑色の風のエンチャントが光る。

「ハッ!」

 剣技は発動させず、ただシンプルに剣を横に振りきる。それだけに、剣は早く、鋭い。
 魔王の腹を切り裂き、鮮血が飛び散った。初めてダメージらしいダメージを与えた。

「ガッ!」

 魔王が苦しそうな声を出す。
 そこに飛び込んだのは、回復が済んだバルだ。

「まだ終わんねぇぞ! 【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」

 魔力付与した土の直接攻撃の剣技が、アレクの与えた傷目掛けて発動し、さらにその傷を広げる。
 そして、バルの後ろから暁斗が飛び込んだ。その聖剣は、先ほど魔力の津波を断ち切ったときのように、魔力が流され強く輝いている。

「これで終わりだっ!」

 暁斗が叫んで、剣を繰り出す。
 それに合わせて、泰基は《氷の竜巻ブライニクル》に更なる魔力を込めた。リィカの《水蒸気爆発スチームバースト》も、同様に威力が上がる。

 これで決まりだと、泰基は思った。右手は《氷の竜巻ブライニクル》、左手は《水蒸気爆発スチームバースト》を防ぐために使われ、腹部には大きな傷ができている。そこにさらに攻撃を加えられれば、持つはずがない。

 だが、魔王の魔王たる所以を、泰基は思い知らされることになる。

「我を、舐めるなっ!!!」

 魔王の一括とともに、《氷の竜巻ブライニクル》と《水蒸気爆発スチームバースト》が消え失せる。
 同時に、魔王が発したのは、小さな魔力の刃のようなものだった。

「うわああぁぁぁっ!?」
「暁斗っ!?」

 正面から魔王に攻め入っていた暁斗が、それをまともに受ける。泰基の目に、全身から血を流す暁斗が目に入る。

「くっ!」
「ぐわっ!」

 暁斗だけではない。近い距離にいたアレクとバルも大きなダメージを受けている。
 泰基は、とっさに自らの魔剣に手を触れる。

「デフェンシオ!」
「《水防御アクア・シールド》!」

 かけた守りは自分に対してだ。ギリギリ間に合った。
 ユーリは、距離があったから何とかなっただろう。自分と似たり寄ったりの距離にいたリィカは、防御を張っていた。が、しかし。

「きゃあっ!」

 おそらくあまり魔力を込められなかったのだろう。あっさりと壊されたようだ。暁斗たちほどではないが、ダメージを受けている。
 それでも、優先するべきは暁斗たちだ。そのために、自分を防御したのだ。泰基が暁斗を回復するべく動こうとしたときだ。魔王から、さらなる魔力が吹き出した。

「受けて見よ!!!」
「《結界バリア》!!」

 魔王の声とともに魔法を唱えたのは、後方にいたユーリだ。泰基の前面に……、いや、仲間たち全員を守るように、そして魔王を囲むように三百六十度全方位に《結界バリア》が張られた。

 同時に魔王から、先ほどの魔力の津波が、全方位に発動されたのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...