転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス③

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 暁斗は、自分の口の端が上がっているのを感じた。魔王の力がすごくて怖すぎて、自分がおかしくなっているとしか思えない。

 魔王から放たれた津波のような魔力。何なんだと思うしかできない。
 魔法と言えばリィカだ。でも、魔王のこれは魔法じゃない。もっと原始的な何かだ。混じりっけのない純粋な力、と言えばいいんだろうか。

 暁斗は、自分に語彙力などないのは知っている。それでも、それが一番近いような気がしていた。

「《氷柱の棺アイシクル・コフィン》!」

 リィカが魔法を唱えた。水と土の混成魔法。
 すごいと思う。魔王の放った魔力を閉じ込めた。でも分かる。ほんの少し時間を稼げるだけだ。

(グラム、やるよ)
『……仕方あるまい』

 自らの持つ聖剣グラムに話しかける。あまり乗り気ではないようだが、そんな事を気にしてはいられない。
 暁斗は聖剣に魔力を流す。かつて聖剣の言った「剣で魔法を斬ることもできる」事だけが、唯一の希望だ。

氷柱の棺アイシクル・コフィン》が壊れた。アレクが、リィカを守るように一歩下がるのを捉えながら、暁斗は前に出た。

「父さんっ、お願い!」

 詳細など言う必要はない。言わなくても分かってくれる。この魔力の津波を前に、無防備で前に出るつもりなどない。

「デフェンシオ!」

 父の声が聞こえた。これで自分は、十秒間の無敵状態だ。
 聖剣を横に振るう。魔力の津波とぶつかった。

「ぐっ!」

 凄まじい圧力が聖剣に掛かる。それだけではなく、聖剣を越えて自分に魔力の渦がぶつかってくる。デフェンシオの効果がなかったら、きっとそれだけで大ダメージだった。

「ほう」

 魔王の面白がっているのか、感心しているのか、よく分からない声が聞こえる。
 暁斗は、聖剣に魔力を流し込んだ。流し込み続ける。

 ――残り五秒。

(4、3、2、1……!)

 一をカウントした瞬間、聖剣の輝きが増す。
 そして、聖剣を振り抜いた暁斗は、魔力の津波を真っ二つに切り裂いていた。さらに、それが衝撃波となり、魔王へと向かう。

 魔王は驚いたのか、その目を見開くのが見えた。
 右手を前に出す。

(まさか、右手一本で受け止める気!?)

 だが、そのまさかだった。その衝撃波を、魔王は右の手の平で受け止める。そこに、尋常ではない魔力が集まっているのが分かって、暁斗は息を呑む。

「フンッ!」

 気合いを入れるように魔王が声を出して、同時に衝撃波が相殺された。
 その手の平には、傷一つついていない……。

(いや、うっすらだけど、傷はある)

 アレクも傷つけたのだ。決して魔王は無敵じゃない。その防御を突破できれば勝ち目はある。

(だったら、それまで攻撃を続けるだけだ)

 暁斗がそう決意し、さらなる攻撃を仕掛けようとしたときだった。魔王の左側に人影があった。

「《氷の竜巻ブライニクル》!」

 放たれたのは、水に水を重ねた混成魔法。
 ――泰基だ。


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