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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス①

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この話から本格的に魔王との戦いが始まります。ちなみに⑮まで続きます。
この魔国編、今までにないくらいに難産で、強引だったりテンポが悪かったりするところがあり申し訳ありませんが、お付き合い頂けると嬉しいです。

ーーーーーーーーーーーー


 最初に飛び出したのは、アレクだった。一足飛びに、魔王の懐に飛び込む。
 リィカは目を見張った。アレクが、自らの持つ魔剣アクートゥスに魔力を流したのだ。

(そういえば、どんな能力なんだろう?)

 魔剣には、何かしらの特殊能力がある。バルの魔剣フォルテュードは、相手の剣を折れるくらいの強度を持ち、泰基の魔剣デフェンシオは、任意の相手を守ることのできる能力を持つ。

 アレクは、香澄のところで魔物を相手にしたと言っていたが、それを見ていたわけではないので、どんな能力を持つのかをリィカは知らなかった。

 アレクが剣を振るった。……が、それは魔王の左腕に受け止められる。

「なっ!?」

 傷は、ついた。
 ほんのわずか、うっすらと赤い線がついたのが、リィカにも見える。

 アレクが驚いて一瞬動きが止まったその瞬間、魔王の右拳がアレクの腹部にめり込んだ。

「がっ!?」
「アレク!!」

 アレクが飛ばされ、リィカが叫ぶ。
 追い打ちをかけようとする魔王を止めるように、暁斗が魔王の前に出る。その後を、バルが続いた。

「《火の付与フレイム・エンチャント》! グラム!」
「《土の付与アース・エンチャント》!」

 二人がエンチャントを唱える。暁斗の聖剣グラムは、付与された火のエンチャントが凝縮され小さくなり、赤く光る。

「【金鶏陽王斬きんけいようおうざん】!」

 その状態で、暁斗は剣技を放った。火の直接攻撃の剣技だ。
 リィカは剣技は使えないものの、それでも分かった。もっと大きく広く広がるはずの剣技の威力が、小さく一点に集中している。自分やユーリが使う、凝縮魔法のように。

「……………!」

 だがそれも、魔王は右手で受け止める。その手首辺りに剣が当たったのが見えた。命中している。だというのに、魔王は余裕そうな表情で口の端を上げた。

「【走鹿駿撃そうろくしゅんげき】!」

 魔王の左の拳が暁斗を捉える、かと思った瞬間、バルが剣技を放つ。土の、横になぎ払う剣技。
 魔王が煩わしそうに左手を振り払っただけで剣技は消滅したが、その間に暁斗は魔王から離れて距離を取っていた。

 暁斗の攻撃が命中したはずの右手首には、傷らしい傷は見られなかった。

(嘘でしょ!?)

 リィカが内心で戦慄する。今のやり取りに、リィカは何も手を出せなかった。

 いつもであれば、中級魔法でフォローしていた。しかし、《天変地異カタクリズム》を右腕一本で簡単に防がれた事実が、リィカの動きを鈍くした。
 中級魔法程度を放ったところで、効果があるとは思えなかったのだ。

「めっちゃめっちゃ固い……」
「アレクの奴、よく傷つけたな」

 暁斗とバルもぼやいた。
 その傷をつけたアレクは、ユーリが治療をしている。その様子を見ているだろうに、魔王は平然としている。

「王の子の持つ剣は、鋭さを増す剣か。傷をつけられたのは、久しぶりだ」

 魔王は、目の前にいる暁斗とバル、そして何とか体を起こしたアレクを順に見る。

「我は能がなくてな。剣も魔法も使えぬ。唯一持つは、この強靱な肉体と膨大な魔力のみ」

 魔王は凄惨な笑みを浮かべた。決して殺気などではないのに、リィカは気圧される何かを感じて、足が一歩後ろに下がる。

「能なし、と言われたこともある。だが、我の肉体を突破し、傷を与えられた者は、ごく僅か。カストルが身体強化の術を開発し身に付けてからは、今この瞬間まで我に傷をつけられた者はいなかった」

 暁斗が、バルが、剣を構える。
 アレクが立ち上がった。

「さて、では次は我から攻撃を仕掛けるとしようか」

 魔王が宣言した瞬間、その右腕に膨大な魔力が集まるのを、リィカは察した。

「《水防御アクア・シールド》!」

 ほとんど反射的に魔法を唱える。
 同時に、魔王の右手から魔力が放たれた。

 魔法ではない。魔力だ。ただの魔力の塊だ。
 普通、魔力はただそれだけでは力を持たない。魔法として昇華させ、あるいは何かに付与して、その力を発揮する。

 同じ事をリィカがやったとしても、生活魔法にすら満たない威力しか出ない。
 だというのに、魔王の放った濃密なまでの魔力の塊は、凄まじい力を宿していた。

「…………っ……!」

 リィカの使った《水防御アクア・シールド》に、魔王の魔力の塊が命中する。その威力に、リィカが唇を噛んだ。

「「《結界バリア》!」」

 ユーリと泰基が、同時に魔法を唱えた。リィカの《水防御アクア・シールド》に重ねるように張られた結界が、魔王の魔力の塊を受け止める。

 ――バアアァァァァァァァァァン!!

 三重に重ねられた防御が破られるが、その瞬間に魔王の放った魔力の塊も消滅する。ギリギリの相殺だ。

 その結果にリィカが何かを思う間もなく、魔王が初めてその場を動いた。リィカの前に、一気に躍り出たのだ。

「リィカっ!」
「こんにゃろっ!?」

 後ろにいたリィカと魔王との間には暁斗とバルがいたが、あっさり抜かれた二人が叫んで動こうとする。しかし、それよりも早く、魔王の腕がリィカに到達しようとして……。

「【隼一閃しゅんいっせん】!」

 放たれた剣技が、魔王の腕の動きを阻害した。その隙に、リィカと魔王の間に割って入ったのは。

「……アレク」

 リィカが呆然とつぶやいた。
 一瞬のこと過ぎて、何が起こったのか理解が追いつかない。

「下がれ、リィカ」

 後ろを振り向こうともせずに放たれたアレクの言葉に、リィカは弾かれたように後ろに下がる。ようやく、今自分が魔王に殺されかかったことが分かった。

「……ありがとう、アレク」

 後衛だからと、油断していてはだめだ。魔王は強い。あっという間に、抜かれる。
 ふぅ、と息を吐く。
 目で見ていては無理だ。自分では追いつけない。その動きを読むとしたら、それは魔力だ。魔王の魔力は膨大だ。読むことは難しくない。

(集中して。気圧されるな)

 アレクの背を見ながら、リィカは余計な考えを振り払った。


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